出会い2 オリバー(王)
同じく、本編:命令後の話。
ジェラルドの話とパラレルになっています。
キーナンに密かに命令を下した夜、
私は彼との出会いを思い出していた。
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私はまだ25歳で、第一王子だった。
国境を接する国カーナとオスレイはもう8年もの間争いを続けていた。
イスニアは初め中立を保っていたが、戦火が及ぶのを避けるため、戦況が見え出した1年ほど前からオスレイの要求に答え、同盟を結んでいた。兵士を戦場に派遣することはしなかった。しかし、この同盟により形式的にはイスニアとオスレイに挟まれる形となったカーナが落ちるのは時間の問題だと思われた。
私はその時、カーナとの国境を守る兵士たちの激励に訪れていた。
戦場はカーナであったため、イスニアに戦火が及んでも不思議ではなく、国を分かつ深い森には通常の倍以上の兵士が控えていた。
知らせを聞いてその場に駆けつけた時、その子供は気を失って倒れていた。
ぼろぼろの格好をしたやせ細った子供だった。兵士に見つかり剣を構え、魔法を放ったがそれと同時に体力を奪われ、倒れ込んだらしかった。
こんなに幼い子供も戦わなければ殺されることを知っている。
私は1歳になったばかりの自分の子の事を思った。我が子がこの子供くらいの年になる頃には戦争をなくすことができるだろうか……。
なくさねばならない。私はそのために存在しているのだ。
子供の放った魔法は強い部類に入る水の魔法だった。魔法は才能がなければ使えない。そしてほとんどの場合それは遺伝によるものだった。
この子供が魔法を使いこなしているところを見ると、生まれつき偶然に強い魔法の力を持っていて、戦争中繰り返し使うことで上手く扱えるようになったのだろう。
そうでなければ自然と魔法が扱えるようにはならない。
自分の持つ弱い魔法の力を呼び起こすには長い訓練が必要とされるし、強すぎる力を制御するにも力が要る。
一晩眠っていた子供は次の朝、目を覚ました。
真っ直ぐな目をした子供だった。生きる事を諦めていない強い目。戦場で生まれ、育ちながらもその目は光を失っていなかった。
話によると子供は仲間とはぐれてしまい、知らぬ間に警備の目も抜けてこの国に迷い込んできたらしかった。
兵士たちに警備の強化を言い渡さねばと思いながら私は子供に告げた。
「お前は強くなる。私にお前の力を貸して欲しい。約束しよう、平和な国を作ると。これ以上、お前のような目に遭う子供を増やさないために」
そうだ、お前はきっと強くなる。この年にして困難を自分の力で乗り越えることを知っている。そして、平和のありがたさを。
私はいずれこの国の王となる。平和な国を作り、国の民を守る義務を負う。
お前には国など関係のないものだろう。
だが平和を作るには力が要る。力がなければ大切なものを守ることはできない。その力を私に貸して欲しい。
「私はイスニア国第一王子、オリバー・イスニア・ヴァレンシュタインだ。お前の名前は?」
「俺は、ジェラルド」
その3ヵ月後、戦争は終わった。
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あれからもう20年以上が経った。
私は王に即位し、不安定だったイスニアも5年前に隣国ガレノスと和平を結び、やっと安定した日々を手に入れた。
そしていつの間にか、子供は出逢った時の私の年齢を超えていた。
気づいてはいるのだ。お前が疑問を感じていることに。
しかし、分かって欲しい。これが私のできる最大限の譲歩だ。
今、この平和を壊すわけにはいかない。
私は王として命令を下した。