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15-14話

「このヨコクのキャンプノートB5版ドット入り罫線バージョンはこの世界には無い! 俺の故郷のものだ」


 シバが見せてくれたのは、まさしくノートの表紙であった。


「やはり知っておったか。どうやら二度召喚された勇者は、ヨシオ殿と同じ世界から来たようじゃの」


「同じ世界、そして同じ国だと思います。時代も俺の居た頃に近い。これはノートの表紙です。中身があるはずです。他に、紙の束はありませんでしたか?」


 表紙はあるのに肝心の中身がない。


「いや、発見されたのはこれ、ノートの表紙? の一枚だけなのじゃ。見てほしいのはこの裏側じゃ」


 表紙の裏を見ると、明らかに日本語で文字が書かれていた。内容は次の通りだ。


『私は異なる世界からここ、異世界に召喚された。ここでしばらく生き、やがてこの世界の人達と同じように死んだ。


 しかし気が付くとなぜか元の世界の元の時間に戻って生きていた。何も変わらず夢を見ていただけのようだった。だが異世界の出来事は覚えていた。忘れようにも忘れられない大切な思い出、ささやかな幸せの積み重ねだった。


 そして、それから何事もなかったように元の世界で平凡に暮らした。異世界の出来事は夢だと思うことにして、自分の中でけじめをつけた。


 しかし、ある日、再び私は召喚された。驚いたことに、前回召喚されたのと同じ世界だった。俺は喜んだ。また皆に会えるかもしれないから。しかし、ここは前回召喚された時よりも千年以上前の世界だった。


 元の世界の未来の私が異世界の過去に召喚されたのだ。せっかく異世界の思い出にけじめをつけたところなのに。いいかげんにしてほしい。


 そして私はこの二度目の異世界で自由に生きることにした。タイムパラドックスなど知ったことではない。異文化持ち込みの問題などどうでもいい。一人の人間が世界に与える影響など無いに等しいのだから。私は私自身の幸せのために生きる。


 この記録は私のために書いた。過去の私、いやこの世界では未来の私か。どちらでもいい。


 安心するといい。異世界で死んでも元の世界の元の時に戻るだけだから。だから、全力でやりたいことをやってみよう。だけど、一つだけ注意しておく。


 女性トラブルだけには気を付けよう』


 いい話だ。誰が書いたかは知らないが良い奴っぽい。最後の一文は特に実感する。気を付けよう。俺はその内容をシバに伝えた。


「ふむ。大まかな内容はワシの翻訳通りじゃが、細かいところまでは分からなかった。そんなことまで書いてあったのか。うーむ。今後、ヨシオ殿の協力があれば古代文字の研究がもっと進むじゃろう。それは置いておいても、問題なのはこの内容の真偽じゃ」


 シバの言う通りだ。書いてある内容は分かるが、それが本当の事なのかどうか判別できない。過去、日本から召喚された誰かが勝手に書いた可能性も捨てきれない。二度召喚されたという事実を確認する方法が無いのだ。


 しかし、もしこの内容が本当なら『二度召喚された勇者』には感謝だな。いわばここは俺にとって夢の中の世界。ここで死んでも元の世界に戻るだけ。俺は思う存分この異世界を満喫できる。しかし、この文字、どこかで見たことがあるような。


 裏返して、再度、ノートの表紙を見た。良く見ると右下に何か書いてある。消えかけてて良く見えない。漢字? 目を凝らし見てみる。やはり、どっかで見たような。


『漢字の・・・香かな? 持ち主は女子なのか。でもこっちの文字は漢字の男に見える? うーん、何だかどこかで見たような・・・まさか!」


「知人なのか!」


 シバが驚いた顔で俺を見た。


「知人、ていうか、これ俺の名前! 筒香義男って書いてある! ていうか、裏の文章もどこかで見た字だと思っていたんだけど俺の字だよ! 久しぶりに見た日本語! 俺が書いた文字に間違いない! 二度召喚された勇者って俺じゃん!」


 俺とシバはお互いに顔を見合わせた。


「でかした! 筆跡と名前から本人が本物であることを確認したのじゃから、このノートに書いてあることは真実ということじゃ。 良かったのう、ヨシオ殿」


 生きて元の世界に帰れることを知って何となく安心したような、それでいて再召喚される自分の未来を想像して何とも言えない気分にもなった。


「そして、ヨシオ殿のおかげで、さらに研究がはかどりそうじゃ」


 横を見るとシバが嬉しそうに笑っている。彼の著書が増えることだけは確実だろう。安心した俺は再度、女神の水着写真を念入りに確認し(あくまで眠っている女神と同一人物かどうかの確認作業です)、部屋を後にした。


 ◇ ◇ ◇


 資料室から戻り、城の中の俺の部屋でくつろいでいる。金はある、女性の知り合いもできた、この世界で死んでも本当に死ぬわけでない、そんなことを考えながら飲む紅茶は格別に美味い。うん、決めた! こんな感じで一生だらだら生きて行こう! 憧れのだらだらセレブ生活、それが何よりも俺の幸せに違いない。


「てーへんだ! てーへんだ!」


 いつもの連絡兵がいつものように俺の部屋に来た。


「久しぶりだね。何をそんなに焦っているんだ。長い人生、ゆったりと生きてはどうだ。俺のように余裕をもってね」


 俺は焦った様子の連絡兵に対しても余裕だ。だらだらセレブ生活を通して幸せを目指す俺様としては当然の対応だ。


「勇者ヨシオ様から余裕が感じられる日が来るなんて! あ、すみません。ついつい思った事が口に出てしまいました。オモイザワ村のアンゴーラ村長代理から緊急のメッセージを預かっております。それでは確かにお渡ししましたよ」


 メッセージを俺に渡すと連絡兵は足早に去って行った。ソファーに座り、メッセージに目を通した。


『局地的な地震のため、女神の眠る洞窟が崩壊し、女神を目覚めさせる作業ができなくなった。ただ村はほとんど地震の影響を受けておらず、けが人はいない。復旧作業に取り掛かっているが、洞窟内に入れるまで一か月くらいかかりそう。女神を目覚めさせる作業はそれまで待ってほしい』と記されていた。


 俺が女神を見つけてすぐに洞窟が崩壊。これは偶然だろうか? 作為的なものだろうか? いずれにせよ、俺の答えは決まっている。女神は目覚めさせる! そしていつの日か実物(3D)の水着女神をこの目に焼き付けるのだ!

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