15-13話
シバは部屋の中を進み奥の大きな金庫の前で止まった。その金庫はぱっと見ただけで非常に堅牢な造りなことがわかる。さらに近づいてよく見ると扉に細かな装飾が施されている。何やら重要なものが入っていそうだ。シバはカギを開け、金庫の中から豪華な小箱を二つ取り出した。
「これらは何ですか?」
「この部屋にあるのは重要な遺跡や資料じゃが、中でもこの金庫の中にあるものは別格じゃ。特に貴重なモノや危険なモノじゃ。全て国宝級の資料なのじゃ。まずはこれを見てくれ」
シバはそう言って、小箱の一つ開けた。中には色褪せた写真があった。地中から掘り出されたのか少し砂がついている。写っているのはワンピースを着た女性。街角を歩いている何気ない風景。ただの街角スナップ写真に見える。
「古い写真のようですが、これの何が重要なのですか?街並みも、着ている服も現在とあまり変わらないようですが。これが国宝?」
「これが掘り出された地層は約千年前の地層なのじゃ」
「千年前!」
この写真は、この国の人々が千年前から現在のレベルの生活をしていたことを示している。逆に言えば、千年前からあまり変化していないとも言えるが。ただ、千年前の俺の故郷ならばたぶん平安時代のはずだから、この事実がどんなに凄いことか理解できる。
「驚いたじゃろ。この国は千年前からほとんど変わっておらぬのじゃ。似たような写真や遺跡は他にも発掘されているから、それからも確認できるがのう。だが、これが国宝級な理由は被写体にある。この女性の顔をよく見るのじゃ」
写っているのは年頃の女性。清楚な感じの白いワンピースにさらさらの髪、そして万人が好むような可愛らしい顔立ち。え、これは!
「女神! スイーツ教の女神に似ている! 洞窟内の氷の中で寝ている人だ」
「おぬしもそう思うか。ニシノリゾート共和国にある女神様の彫刻や絵画などの資料を見るかぎり、この写真の女性と非常に似ていたのじゃ。そして、本物の女神様がかつて降臨されていたということで、これが発掘された当時はかなり話題になったようじゃ。写真は共和国には一枚も無いようじゃからのう」
女神だと思って見ると、写真の中の女性はもう女神にしか見えなくなる。
「かつては本当に女神が存在していたんだ。そうすると、あの氷の中の女神は本物である可能性が高くなった。それにしても、ニシノリゾート共和国のスイーツ教の信者達はこの写真を欲しがったでしょうね」
「その通りじゃ。写真をめぐってニシノリゾート共和国とハートフルピース王国は小規模じゃが戦争をしておる。もちろんハートフルピース王国が勝ったがのう」
恐ろしい。女神っぽい写真一枚で戦争とは。これは、早く女神を目覚めさせないと再び戦争が起きそうだ。
「しかし、写真一枚で戦争とは・・・あのゆるい教義の信者からは考えられませんね」
「原因はその写真だけじゃないのじゃ」
そう言って、シバはもう一つの小箱を手に取った。こちらの小箱の方はより厳重な資料が入っているのか、小箱自体が施錠されている。シバはポケットからカギを取り出して解錠し箱を開けた。中には、また写真が入っているようだ。三枚。こっこれは!
「友達と一緒に制服で学校に通ってるっぽい爽やか女神! テニスっぽいスポーツをして汗がキラキラしている女神! ぴったりスクール水着を着て恥ずかしそうにしている女神! しかも、どれもが盗撮写真っぽい! この写真は博物館に飾れない、飾りたいけど飾れない。見てほしいけど見せちゃいけない気がする」
「そうなのじゃ。これが如何に危険な資料かわかるじゃろう」
見たいなら力づくで手に入れるしかない。あのゆるい教義のスイーツ教の信者とはいえ、この写真ならば命がけで手に入れようとする人もいるだろう。危険だ、危険すぎる!
「というわけで、ここに封印してあるのじゃ」
「一般公開できず残念ですね。しかし良いものを見せて頂きました」
女神本人が目覚めた時にこの写真の事を伝えると焦るだろうな。ぐふふ。
「そうそう、ついでじゃが、これも見てくれぬかのう」
シバは金庫の中から小汚い箱を取り出した。入れ物のしょぼさからして、これは女神写真よりは重要ではなさそうだ。
「この箱の中には二度召喚された勇者が残したとされる記録が入っておる」
「それ重要じゃん! 召喚・帰還に関わるやつじゃん! もっと豪華な箱に入れるべきだろ!」
シバは無視して話を続けた。
「資料は古代文字で書かれておる。勇者が残した言い伝えと照し合せて概略は解明できたのじゃが未解明な部分もあるのじゃ。ちょっと協力してくれぬかのう」
「もちろん協力します」
女神盗撮スナップより扱いが下なのは不服だが、ここは協力するしかないだろう。
「察しの通り召喚・帰還に関する事が記載されているようなのじゃが、今一つ確信が持てぬのじゃ。古代文字が読めるヨシオ殿ならより正確に解明できるじゃろう」
シバは箱の中から薄汚れた紙を一枚取り出した。かなり傷んでいるようだが、一見しただけでこれが何か判別できた。
「こ、これは、ヨコクのキャンプノートB5版! しかも帝大生のアイデアを元に作成したドット入り罫線バージョン!」
こんなところで故郷の品に会えるとは!
召喚の秘密が解明されれば俺はこの世界で生きるのか、元の世界に戻るのか選択に迫られるだろう。もちろん、俺自身はこの世界で美人達に囲まれ余りある金を使いまくるセレブ生活の一択、断じて帰還したくないです!