15-8話
「私も含めスイーツ教の信者達は女神の復活を夢見ています。しかし、それに反対する人達がいるのも確かです」
元村長でありアンゴーラの叔父であるオウンゴーラは悲しそうな顔でそう言った。彼はきっと熱心なスイーツ教の信者なのだろう。
「反対勢力に命を狙われる・・・それは嫌ですね。しかし復活されると困る人がいるとは。女神に何かとてつもない能力があるということですか」
「言い伝えによると、笛を吹いて魔獣を追い払う能力や、歌って人々の心を穏やかにする能力があったようです。特に攻撃的な能力があるという記録はありません」
壁画の内容を思い出してみると、確かに女神の居た時代は非常に穏やかだったことがわかる。そして女神が戦う画は全く無かった。
「女神の復活を反対する理由や団体に心当たりはありますか?」
「こちらで把握しているのは、これ以上スイーツ教の拡大を望まない他の宗教団体、理由は無いがとりあえず反対して利権を得ようとする人達くらいでしょうか。しかしそれらは非常に少数ですし熱心ではありません。そもそもスイーツ教は教義がゆるいものなので、これまで敵らしい敵はいなかったのです。それなのに、ここ最近になって女神の復活を阻止しようとする人達が現れたのです。それが誰なのか、その理由も不明です」
「いずれにせよ言い伝えにある『魔獣を退けし勇者が現れた時、女神は復活する』が本当だとすると、勇者の召喚、つまり私の存在そのものが女神復活の鍵になる可能性がある。なので私を排除したい人達がいるのですね」
「その可能性は高いです。これまでは勇者が存在していなかったので女神復活はありえないと思われていました。しかし、ヨシオ様が召喚されたため、女神復活が現実となる可能性がでてきました。事実、ヨシオ様は鍵であり女神は眠りから目覚めようとしています」
誰が俺を狙っているのか不明。理由も不明。これはもっと情報収集する必要がありそうだ。しかし、逆に言えば女神が復活してしまえば俺を狙う理由はなくなるわけだ。それにあの可愛らしい女神と逢ってみたいのも確かだ。なにせ嫁候補だからな。妄想は膨らむが、いたって真剣な顔で俺は答えた。
「そうですか。確約はできませんが、できるだけ早く復活させましょう。女神様が生きていた時代には非常に興味がありますから。それから内密の件は了解しました。私もこれが原因で命を狙われるのは嫌ですから」
俺達は出来るだけ早く洞窟に訪れることを約束し、元村長のオウンゴーラと別れた。
その後、俺とロッソRはアンゴーラに連れられて教会の敷地にあるメイン会場に来た。相変わらず、村人達が忙しそうにステージや屋台の準備をしている。
「ヨシオー!」
遠くからナイスバデーの女性が手を振りながら走ってこちらに近づいてきた。胸がとても、とても、とてもーーー揺れている。ん? メグちゃん、いやスジークか!スジークはそのまま俺に抱きついてきた。
「ちょ!スジークさん!」
「故郷のコンビニに勤めていた筒香さんがヨシオだったなんて! メグに話を聞いた時は信じられなかったわ! まさか異世界で出会えるなんて! ひとりぼっちじゃなくて良かった、故郷の人がいて良かった」
スジークは俺に抱きつき泣きながら一方的にしゃべり始めた。これまで寂しかったのだろう。そういえば、スジークに異世界転生のこと聞こうと思いながら魔獣襲来などせいで聞けていなかった。俺がオーナーになり、スジークに任せていた養護施設の事や、手伝ってもらっているカツ丼アルマジロの件もあるのに。
「スジークさん、ちょっと人目があるので・・・少し落ち着いて話そうか」
「うんわかった」
スジークは涙を手でぬぐいながらそう言った。これまではスジークの逞しく計算高く、それでいて冷めた面しか知らなかったけど、こうして見てみると可愛らしい面もあるようだ。俺と同じ故郷出身だし。ナイスバデーだし。スイーツ女神も捨てがたいが、スジークでも良くね? 高嶺の花よりも手の届くくらいの花がちょど良いかも。
「ちょ、ちょっとヨシオ! いつからスジークさんとそんな仲になったの。スジークさんも離れなさいよ。私の恋人なんですから」
恋人設定はまだ有効なようだ。ロッソRが不満げに俺の左手を引っ張る。任務による設定とはいえ俺を渡すまいと必死にがんばっている。少し天然なところもあるが、家柄も良いし正義感もある。体つきはちょっと残念だが、まだ若いからこれから成長するかも。いや、これはこれでありか。悪くは無い。いや、むしろ良い?
「誰ですかこのナイスバデー・・・私よりもふくよかな方は。ロッソさんも引っ張り過ぎ。ヨシオ様が困っていますよ。ちなみに私は女神様のためにもヨシオ様から離れるわけにはいかないのです。誰にも渡しません。というか、あなた達、離れて下さい」
そう言いながらアンゴーラが俺の右手を引っ張る。アンゴーラの顔はちょい可愛い普通、体形もぽっちゃり気味の普通、家柄も普通、何が良いとは言えないがなんとなく良い。それが普通娘の利点。世の中の99パーセントの男は普通娘と結婚する。つまり結婚するなら普通であることが最高の条件なのだ。うむ、悪くない。
ふいに後方から大きな声が聞こえてきた。
「ヨシオ様ーーーー!探しました!」
そして、いきなり背中から女性に抱きつかれた。背中に当たった感触でもわかるこの超絶ぽっちゃり体形は!
「もしかしてミケちゃん?」
「正解でーす!」
プリンセス娘の第三位のミケちゃんがなぜこんな所に!
「どうしてここに?」
「お仕事でーす」
となるとファンも来ているはず。この場面をミケ押しのトップオタ集団に見られると命の危険がぁ! いや落ち着け、まだ奴らは準備中のこの場所には入れないはずだ。
田舎娘だったのに、俺のアドバイス通り髪型とリップ、化粧を工夫した結果、人気が急上昇となったミケちゃん。明るく美人になったと評判のミケちゃん。超絶ぽっちゃり体形は幸せの証。うむ、良いかも。ファンの皆さまには悪いが嫁候補に登録しておこう。
そして俺は感傷に浸っていた。四人に囲まれやっと俺にもモテ期が来たことを実感しているのだ。この状態を一分でも一秒でも長く堪能したい。
しかし俺をめぐって四人が争うのは問題だ。いや、正確には命の危険が迫っているような気がする。体育会系筋肉馬鹿のスジークに抱きつかれアバラ骨がきしんでいます。ロッソRとアンゴーラに両腕を引っ張られ腕がちぎれそうです。二人とも真面目か! 本気で引っ張るのやめて。そしてミケちゃんが俺の首に回している腕が、先程からいい感じに俺の首の血流を止めています。何より声が出せません。あと数分しか持ちそうにありません。
そんな命の危険と引き換えに幸せを堪能していた俺だが、急に殺人的な視線を感じた。これはトップオタ達ではない。もっと、危険なレベル。女神の復活を阻止する奴らか! まずい、今攻撃されると俺の嫁候補四人が巻き添えになっていまう。しかし動けないし声も出せない。まさか、奴ら、この瞬間を狙っていたのか!
俺は薄れゆく景色の中に殺気を発する犯人をとらえた。




