3-3話
「ズーーーーン。完食してしまった・・・調子に乗って食べ過ぎたわ・・・だめな私」
「そんなこと無いですよ」
「でも、急にほっぺがこんなに丸く・・・ああ、私なんてどうせダメなんだぁ」
「食べ過ぎたからといって急にほっぺが丸くなることはありません。きっと前からですよ」
「ひどい!全然なぐさめになってないですーー!こんな事なら馬車に敷かれていた方が良かったーー!うえーーん」
先程まで幸せそうに天ぷらをパクついていた目の前の女性は、食べ終わった瞬間、魔法が解けたかのように慌てふためき泣き出した。
「で、でも、気になるなら目立たなくする方法が」
「教えてーーー!!!すぐ教えてぇーーーーーーー!!!」
「声が大きいです」
「すみません、取り乱してしまいました。で、どうすればいいの?」
「今の髪型は頭のてっぺんで、髪を巻いてお団子にしてあるのですね」
「そうです。いつも母に切ってもらっているのですが、いい髪形が思い浮かばなくて。最近は束ねてお団子ヘアにしています」
「その団子、解いてもらってもいいですか?」
「は、はい」
少し躊躇した後、髪を解いて降ろした。前髪ぱっつん黒髪セミロングになった。この段階でかなりいい感じだ。なぜ団子にしてたのだ。
「その方が痩せて見えます。髪の広がりが相対的に顔を小さく見せるのです」
「そうなのですか!」
「さらに、耳の横あたりの髪を前に持ってきてください」
「こうですか?」
「はい!そうです。そうすると顔の輪郭が髪で隠れてさらに痩せた感じになります」
「!!!凄い!」
窓ガラスに映った自分を見て感動しているようだ。
【スキル】[コンビニ]発動。
えっ、このタイミング?上着で隠しながら左手にバーコードリーダーをかざした。
「ピッ!」
スティック状の物体が召喚された。なるほど。
「これを使ってみてください。差し上げますので」
「この棒は?何ですか?」
「『ゼニボウ ココホレドーント プレミアムリップスティック』です」
「ゼニボ・・?」
「リップスティックが名前です。ここを開けるとピンク色の棒が出てきます。これを唇に軽くあてると唇に色が付きます。俺の故郷では、お年頃の女性は皆ゼニボウのリップスティックを使っていました。発色の良いこのピンク色の場合、目立つので唇に皆の視線が集中して顔の輪郭などに目がいかなくなります。そして、これを付けて投げキッスなんかしたら、周りの人は君の術にはまったかのようにメロメロになります!」
「メロメロに!!!貴重なものを、ありがとうございます!馬車からも救っていただき、痩せる髪型も教えてもらい、こんな綺麗なリップスティックも頂けるなんて!このご恩は忘れません!私、もう逃げません!」
目がキラキラしている!きた?きた?きたのかぁーー!
「気にしなくていい。当然のことをしたまでです。俺は都合が良く便利な男なのです。あなたが困ったと時には何時でも俺を頼って下さい」
「ありがとうございます!それでは、私、この後、用事があるので、すみませんが失礼致します!」
「あ、ああ」
少し可愛らしくなった田舎娘はダッシュで去っていった。結局、何も無かった。そういえば名前も聞かなかったなぁ。
その後、迷いながらもなんとか握手会会場であるデパートに着いた。中央吹き抜けに設けられた特設ステージが会場だ。せっかくなので握手会前のミニコンサートだけ見て帰ることにした。熱狂的なファンやトップオタ集団は前の方だし、後ろの方で見ていたなら奴らは気付かないだろう。俺は会場の最後尾の壁際に移動した。
ミニコンサートが始まったようだ。照明が落とされ暗くなる。オーバーチュアが流れる。DJが盛り上げる。観客の魔動ペンライトが色とりどりに揺れる。どこかで見慣れたフォーマットだ。
突然、俺付近にスポットライトが当たる!皆の注目がこちらに!ぎゃーーー!目立つーーー!やめてーー!
俺の斜め後の壁のドアが開いてプリンセス娘のメンバーが出てきた!後ろから登場して観客席を通過しながらステージに行くパターンだ!手を振りながら目の前をメンバー達が通って次々とステージへと上がっていく。たぶん、最後が昨年一位のシャム姫だな。きたきたシャム姫!まだ少し距離が離れているシャム姫に手を振ろうとしたら・・・
突然、誰かが俺の手を握った!
「えっ?」