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15-4話

「そんな! シルバーウルフまで」


 私はオモイザワ村の村長代理のアンゴーラ、二十五歳。少し前までデパートの受付や経理担当として働いていた。いわゆるイケテルOLだった。


 昨年、一年限りという約束で叔父の代理として村長を引き受けることになりこの村に来た。村長である叔父が体調を崩したからだ。私もデパートに入ってきた新入社員達の可愛らしさを見て自分の限界を感じていたところだったのでちょうど良かった。幸い叔父の体調は大事に至っておらず、いやむしろ現在では以前より元気になり私に仕事を任せて遊びほうけている。


 村長代理と言っても、私がやっているのはこの小さな村の商工会のお世話係が主な仕事だ。私は日頃は叔父の経営するホテル『アルマジロ亭』の業務をしながら、村長代理として村の活性化イベントや会議の資料造りを手伝っている。これはこれで楽しい。


 その村が今、魔獣達のせいで大変なことになっている。村長代理である私の働いているホテルのロビーには村の重鎮たちが集まってきている。実は、巨大ゴキやアルマジロといった魔獣は気持ち悪いが人間に大きな危害を加えることはない。むしろ、人間の姿を見ると奴らの方が隠れるくらいだ。それを知っているここの村民達は、こんな状況でも普通に外を歩いて移動できるのだ。しかし観光客はそうは行かない。


「村長!何とかしろよ。村のイメージダウンだ」


「これじゃ客が怖がって外に出れないわ。商売あがったりだわ」


「さっさとどっかの軍隊か傭兵を呼んでこいよ村長」


「むしろ魔獣相手なら冒険者だろ」


「いや隣国で召喚したと噂されている勇者だろ」


「いやあの勇者はグルメ勇者だからダメだ」


「俺はアイデアマンと聞いたが」


「金儲けの才能は凄いらしい」


「どちらにしろ魔獣相手じゃ役に立ちそうに無いな」


「そんな事より殺虫剤だろ。どこかに依頼しろよ村長」


 皆、好き勝手なことを私に向かって言っている。確かに村長代理ではあるが、しかし、私には何もできない。私は冒険者でもなければ勇者でもない。周辺の街や国とのコネも無い。事務仕事しかできない恋人募集中のか弱い女でしかないのだ。こんな事なら村長代理などやらずさっさと嫁にでも行けば良かった。肝心の結婚相手は居ないけど。


 今のところ大した問題は起きていない。このまま魔獣達が居なくなるのを待つのみだ。しかし魔獣アルマジロと巨大魔獣ゴキ達はこのオモイザワ村から出て行く気配は無いようだ。これは誤算だった。


「ちょっと外の様子を見てきます」


 私は受付カウンターを離れ、一階の廊下の突き当りまで移動し、非常階段のドアを開けて外に出た。少し高いところから村を見ようと非常階段を駆け上がり二階と三階の踊り場まで差し掛かったところで突然の地響き。その原因と思われるシルバーウルフの集団が私の視界の端に映った。私はあまりの恐怖に腰が抜け動けなくなった。


 オモイザワ村の住人や観光客達もきっと震えあがっているだろう。気持ち悪い魔獣に加え、危険な魔獣であるシルバーウルフに村が占領されようとしているのだ。シルバーウルフの集団の前ではどんな生き物もエサでしかないのだ。家は破壊され人間達は食い尽くされることだろう。


 私は悲惨な未来を想像した。しかしその予想は覆された。一人の魔獣使いによって。


 非常階段の三階に人がいるのが分かった。それは中肉中背の普通の男。見覚えがある。確か宿泊しているお客さん、ツツゴウさんだ。彼は丸めた新聞紙を口に当てシルバーウルフに何やら指示をしていたようだ。シルバーウルフ達は村を破壊することなく巨大ゴキ達を蹂躙している。


 やがて村から巨大ゴキ達は居なくなった。丸くなったアルマジロはさすがにシルバーウルフでも歯が立たないのだろうか放置されている。しかしシルバーウルフ達は、丸くなったアルマジロを丁寧なドリブルで転がしながら村の外まで持っていき、最後に前足で強烈なシュートを放ち、森に蹴り込んだ。ちょっとした遊びなのか。


 そのうち村の中からゴキ達とアルマジロ達がきれいさっぱりと居なくなった。シルバーウルフ達は遊び足りないのか、楽しそうに森の中へと消えて行った。一方、リーダーと思われる一回り大きなシルバーウルフがこちらに寄ってきた。


「ひぃ!」


 絶対、私は食べられると思った。しかし、そのシルバーウルフは魔獣使いの前に行き、ぺろぺろと魔獣使いを舐め回した。魔獣使いもシルバーウルフを撫でまわしている。シルバーウルフは尻尾を振ってまるで子犬のように喜んでいる。この凶悪な魔獣をここまで使役するとは、きっとこの人は外国の有名な魔獣使いなのだろう。そして彼が村を救ったのは間違いない。


 私の記憶はそこで途絶えた。


 ◇ ◇ ◇


「あれ?」


「目が覚めたようだな」


 私は従業員の仮眠用ベッドの上で寝ていた。側にいるのは叔父だ。


「非常階段で倒れていたお前を宿泊しているお客さんが見つけて運んできてくれた。私からお礼を言っておいたが、アンゴーラ、お前も自分で礼を言ってきなさい。三階に宿泊しているツツゴウさんだ」


 どうやら、あの後で私は緊張感が切れて意識を失ったようだ。運んでくれたのはやはりあの魔獣使いのお方だ。


「叔父さん。そのことですが報告があります。ツツゴウさんがこの村を救ってくれました。私はこの目で見ました。ツツゴウさんは魔獣使いです。シルバーウルフを使って魔獣達を追い出してくれたのです!」


 叔父は驚いた眼で私を見た。そして何か考え込むようにして、そしてつぶやくように語った。


「あのレベルのシルバーウルフを使役する人間など聞いたことが無い。しかし、お前が見たのなら本当なのだろう。しかし、そんなこと普通の人間には不可能だ」


「普通の人間じゃ無いってこと?」


「もしかすると・・・いや、可能性はある。アンゴーラ。お前にやって欲しいことがある」


 叔父は何か思いついたようだ。


 ◇ ◇ ◇


 俺の左腕に手をからませているのは背が低くてスレンダーなロッソR。俺の右腕に手をからませているのは背が低いのにムチムチしているおかっぱ頭のアンゴーラさん。両手に華の状態だ。


「私が館内を案内するから大丈夫ですよロッソさん」


「いえいえ、説明が詳しく書いてあるから案内は不要ですよアンゴーラ村長代理。あ、ちょっと、そんなに胸を強調すると頭に行くべき栄養が全てそちらに行ったと思われますよ」


「あら、それならあなたはよっぽど頭が良いのでしょうね。うふふ」


「むきー!」


 どうしてこうなった!?村長代理にオモイザワ村の博物館を案内してもらっているだけなのに。

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