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15-3話

 現在、ヨシオ達の滞在するオモイザワ村は魔獣巨大ダンゴムシと巨大ゴキに占拠されている。旅行客にけが人は居ないようだが精神的におかしくなるのは時間の問題だろう。


「何とかして下さいーーー!」


 俺の後ろで錯乱したロッソRが丸めた新聞紙を振り回して暴れている。俺達は魔獣が居なくなるのをひたすらホテルの部屋に閉じこもって待っていたが限界も近づいているようだ。


 その時、俺の左手にバーコードが浮かび上がった。


「ヨッシャアーーーー!もう見捨てられたのかと思ったよバーコードリーダー先生!よろしくお願いします」


 俺は内ポケットから取り出したバーコードリーダーで左手に浮かび上がったバーコードをスキャンした。


「ピッ!」


 転送されてきたのは銀色で筒状、手のひらサイズの物体。筒の表面に一か所穴が開いている。


「な、なんだろうこれは。笛?」


 筒の片方の端は唇を当てて吹きやすそうな形状をしている。試しに軽く吹いてみた。しかし音は出ない。笛ではないのか?いや!故郷には人間に聞こえない種類の音を出す笛があると聞いたことがある。


「俺は非常階段から外に出る! 場合によっては魔獣と戦うことになるから皆は部屋から出ないで下さい」


「ま、待って! どこいくのヨシオ。今、外に出るのは危険すぎる!」


 ロッソRが心配そうな顔でこちらを見ている。どうやら俺の突然の発言で、逆に心が落ち着いたようだ。


「男には、危険と分かっていても命をかけてやらなければならない時がある。それが今だ。なに、心配は無用だ。すぐに奴らを追い払って帰ってくる」


 ロッソRが、いや、赤い少女隊Rのメンバーも含めた全員が心配そうな顔でこちらを見た。しかし、彼女達の瞳にわずかながら希望の光が宿ったことを感じた。


「そう…なのね。私達のために犠牲に…」


「いや、まだ死ぬと決まったわけではないから。ていうか、殺さないで」


 ロッソRの瞳がまっすぐこちらを見ている。しかし、ほっぺと耳に少し赤みがさしている。え、もしかして!キタ?


「私の大切なものをあげるわ。だから、くじけそうになったら私を思い出して」


 ロッソRが一歩一歩こちらに近づいてくる。上目遣いで、唇はアヒル口で。周りで皆が見ているけどいいよね。命がけで彼女達を守るのだからキターー!でいいよね。


 ロッソRが俺の目の前まで来た。俺はロッソRを抱きしめようと手を前に出した。


「はい、これ」


 俺は何故か丸めた新聞紙を受け取っていた。


「武器が無いと戦えないでしょ。私達の持っている唯一の大切な武器だけど使って下さい。古来より黒い魔獣とは丸めた新聞紙で戦っていたらしいから」


 ですよね。そんなラブリーな展開がこの小説にあるはずがないですよね。


 しかし、確実にこれだけは言える。奴らを倒した武器は、絶対コレジャナイから。俺は、そう思いながらも心配してくれたロッソRに礼を言って部屋を出た。


 そのままホテルの廊下の端まで走っていき、建物の外に設置されている三階の非常階段に出た。幸い、ここに魔獣はいなかった。


「よし、ここなら大丈夫だ!」


 俺は先ほど取り寄せた笛を手に取り、そして空に向かって思いっきり吹いた。


「・・・?」


 これは笛のはずだ。しかし音はしないし何も起こらない。バーコードリーダーさんが、わざわざこのタイミングで取り寄せてくれたのだ。魔獣達が嫌う音が出るなど、何らかの効果があると思ったのだが。


「おかしいなぁ? 音が小さいのかな」


 俺は再度、思いっきり吹いてみた。


「・・・」


 やはり、何も起こらない。それから吹き方を変えたりしたりもした。それでも、何も起こらない。かっこいいことを言って出てきたのでちょっと焦っている俺がいた。


「音が小さくて届かないのかなぁ。そうだ、丸めた新聞紙があったな」


 俺はロッソRから渡された丸めた新聞紙を再度丸め直した。今度は円錐状、つまり拡声器のような形状にした。笛を口に咥え、新聞紙で作った拡声器を構えた。


 そして、色々な方向に向かって笛を鳴らした。相変わらず、笛の音らしきものは聞こえない。それでも、笛を吹きまくった。


 すると突然、南の方面にある森の奥の方が揺れ始めた。その揺れは徐々にこちらに近づいてきている。同時に、地鳴りのような音が街に鳴り響いた。


「じ、地震!?」


 それまで、我が物顔で村の中を這いずり回っていた巨大ダンゴムシと巨大ゴキ達は動きを止めた。


 揺れ動く森の中から銀色の巨大な動物が飛び出し村に向かって全速力で駆け寄ってきた。マイクロバスサイズの巨大な奴。


「ワオーーーン!」


「ポチ!」


 そう、飛び出してきたのはシルバーウルフのポチ!この村に来る途中でフリスビーで一緒に遊んで友達になったシルバーウルフのポチ。どうやらこの笛は犬笛の一種だったようだ。ポチの後ろからは、一回り小さいシルバーウルフの集団が一斉に飛び出してきた。


 シルバーウルフの気配を感じた巨大ダンゴムシは丸くなった。巨大ゴキ達は全速力で反対方向へ逃走、あるいは空に飛び上がった。


 シルバーウルフ達は丸くなったダンゴムシには目もくれず、ゴキ達に襲い掛かった。シルバーウルフに捕まったゴキ達はその場でむしゃむしゃと食べられた。うー、自然界とはいえキモイです。


 しばらくの間、村ではシルバーウルフによるゴキ達への攻撃が繰り広げられた。


 やがて、村の中からゴキ達は居なくなった。一部は食われ、一部は逃げ延びた。一方、巨大ダンゴムシ達は、いつの間に山へと帰って行ったようだ。


 やがて争いは収束した。


 俺がホテルの三階の非常階段から村の様子を確認していると、俺の前にポチがゆっくりと歩いて来た。尻尾を振ってご機嫌だ。そして、歯に謎の茶色い足が挟まった状態で、俺をぺろぺろしてくれた。俺は涙目で、そっとポチの頭を撫でてやった。


 しばらくして満足したのか、他のシルバーウルフ達と一緒に、ポチは逃げた巨大ゴキ達を追いかけてどこかに行ったようだ。村には本当の平和が訪れたのだった。


「ヨシオーー!」


 非常階段にいた俺を見つけたロッソRが非常階段出入口から少しだけ顔を出して俺を呼んだ。俺は、Vサインを作ってそれに答えた。


「魔獣達は全て退治した。もう大丈夫だ」

 

「ありがとう、ありがとうヨシオ!」


 ロッソRは非常階出入口のドアを大きく開け、俺の方に駆け寄ってきた。今度こそ、ロッソRが俺の胸に飛び込み、そして、ムフフな展開だろ。嬉しそうに駆け寄ってくるロッソRの笑顔を見ながら、その後の展開を考えていた。


 もう邪魔者はいないはずだ。しかも、命がけで戦ったヒーローの胸に飛び込むヒロイン。何の考え間違いも無いはずだ。俺は駆け寄ってきたロッソRを迎えるべく大きく腕を広げた。


「げぇ! その服!」


「え?」


 俺の着ている服は、ポチの唾液でべとべとになったうえ、お土産のつもりか茶色い魔獣の足が絡みついていた。


「さ、お風呂に入って下さい。着替えはすぐに持ってきますから、その服で部屋には入らないで下さい」


「はい」


 ロッソはRは顔を引きつらせながら部屋へと帰って行った。こうして魔獣との戦い、ほか、色々な戦いはあっけなく終了したのであった。

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