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15-2話

 俺達の滞在しているオモイザワ村に向かって数百匹の巨大ゴキ…魔獣が迫っている。このままでは村に甚大な被害が生じるのは確実だ。


「原因は何でしょうか」


 魔獣が来る理由が何かあるはずだ。俺は赤い少女隊RのリーダーのクレナイRに尋ねた。


「たぶん魔獣使いが手引きしている。西の山の麓でそれらしい人間を見たという情報をつかんだ。赤い少女隊Rの他のメンバーが向かっている」


「「魔獣使いか!」」


 魔獣使いは自分の使役した魔獣を使って戦う。それにしても普通は一匹だ。数百匹も使役するなど聞いたこともない。かなり有能な人物のようだ。しかし、魔獣使いが原因なら、操っている本人を倒せば解決できるはずだ。ロッソRの瞳に力がこもる。


「俺達もすぐに向かおう!」


「はい!」


 事態は一刻を争う。俺はロッソR、クレナイRと共に宿泊先ホテルを出て、すぐに西の山方面に走り始めた。


「ん? 何か変な臭いがしないか?」


「そういえば生ごみのような」


「これは…?」


 西の山の麓に近づくにつれて、民家の屋根や道に生ごみ、特に腐った玉ねぎのようなものが撒かれている。西に行くにつれその量は増えている。


「誰がこんなことをしたんだ!」


「まだ夜明けなのでそんなに臭くないけど日が昇ったら大変だわ!」


 雪が積もっているとはいえ、日を浴びると臭いが強くなる。食べ物の少ないこの時期、腹を空かせた魔獣をより多く呼び込むことになるだろう。


「あ、あそこに!」


 そこには先に調査に向かった赤い少女隊Rのメンバーの三人が倒れていた。


「何があったんだ!」


 クレナイRがメンバーの一人を抱き起した。


「リ、リーダー、すみません。この子を助けようと思ったら…突然知らない男に攻撃されて。スキを突かれてなすすべもありませんでした。でも、この子は助けました」


 倒れた三人が必死に守ろうとしていたのはチワワの子犬。しかも、丁寧に全身の毛がカットされ丸坊主状態だ。寒さのせいか、プルプル震えている。その瞳には涙も浮かんでいる。


「雪上なのに! 誰がこんな惨いことを!」


 クレナイは怒りながらも子犬を受け取り胸に抱きかかえた。俺は寒さで震える子犬を安心させるため、頭をなでようとした。


「ガルルル!」


 突然、俺の方を見て牙を剥いた。そして子犬は何事もなかったかのようにクレナイRの胸の谷間に顔を埋めた。


「いま、突然牙を剥いたような」


「くしゃみしただけですよ。大人しいですよ」


 そういって、今度はロッソRが子犬を受け取り胸に抱きかかえた。プルプル震えながら子犬はロッソRのささやかな胸に顔を埋めた。


「大人しい…のかな。さっきののは何だったんだ。しかしこいつ、胸の大きさにこだわりは無いようだ」


 ロッソRがジト目でこちらを睨んでいるが、無視して再び子犬の頭をなでようとした。


「ガルルル!(かぷ)」


「いてー!」


 子犬は俺の手に思いっきり噛みついた後、雪煙をたてて雪上を元気よく走って行った。とてもさっきまで震えていたとは思えない元気な走りで。赤い少女隊Rのメンバーは五人とも目が点になっている。


 チワワは建物の陰から出てきたフードを被った男の側まで行き、その周りを走り回った。そして、俺の方を見て牙を剥いた。


「はっはっはっは!久しぶりだな勇者よ!」


 男は被っていたフードを払いのけた。そこには見覚えのある顔があった。


「お前は単なる動物好きな少年! イケメン・ブリーダー!」


 かつて俺を暗殺しに来て失敗して逃げて行った奴だ。


「失礼な。世界一の猛獣使いであり世界中の女性の恋人イケメン・ブリーダーだ!(キラリーん) 僕の任務は完了した。平たい顔をした勇者よ。ここで猛獣達の餌食になるが良い」


「顔のことは余計なお世話だ。それより、お前が生ごみをちらかしたのか! ごみはキチンとごみ出しルールに従って出せ。近所迷惑だ」


「昨日の夜から寒い中、頑張ってごみを撒いたんだ。どうだ、この僕の頭脳プレー! 凄いだろう」


 よく見ると、疲れ果てている親衛隊らしき女性達がイケメンの後ろの方で座り込んでいる。相変わらず自分の手は汚さないスタイルだ。


「それ猛獣使いの能力とは関係ないだろ! しかも親衛隊だけを働かせて。相変わらずインチキなやつめ」


「ふっふっふ。負け犬の遠吠えですね。悔しかったら君も親衛隊を作ったらどうだい。まあ加入する人はいないと思うけど。それでは僕は失礼するよ。生きていたらまた会いましょう(キラリーん)」


「待てイケメン・・・」


「「「「待ってー! イケメン様ー!」」」」


 イケメン・ブリーダーはチワワを抱えて走り去って行った。頭の悪そうな親衛隊の女性達も後を追って去って行った。相変わらず逃げ足が速い。


「ヨシオ様、時間がありません。すぐそこまで魔獣が迫っています」


 ロッソRが青ざめた顔で心配している。俺達にできることは…逃げることだけだ。


「魔獣が来るぞー! 家から一歩も出るなー!」


「家から出ないで下さいー」


「外に出ている人は建物の中へ避難して下さいー」


「魔獣がもう直ぐ来ますー」


 俺達は注意喚起をしながら一目散にホテルの自分達の部屋まで帰ってきた。なぜか赤い少女隊Rのメンバーも全員一緒にいる。


「もしこの部屋に入ってきたら命がけで戦います」


 部屋の中でロッソRが新聞紙を丸めて振り回している。しかし相手は体長三メートルの黒い悪魔だ。新聞紙程度では通用しないぞ。


((((カサコソ、カサコソ))))


「ギャー!」


「悪魔だ!」


 やがて村中から怪しい音と悲鳴が聞こえてきた。部屋の窓からそっと外を見ると村の西側がすでに襲われているのがわかった。奴らは生きているものは食べないので怪我などの被害は無いだろう。むしろ、心配なのは精神的な被害だ。


「うわぁ」


「「「「「ギャー!」」」」」


 説明しよう。窓から外を見ていた俺、その後ろから外も見ていた赤い少女隊Rの五人。その窓に突然黒い悪魔飛んできて張り付いたのだ。必然的に黒い悪魔の裏面をアップで見ることになった。


「コ・ロ・ス・コ・ロ・ス!」


 ロッソRが新聞紙を振り回しながら俺の後頭部を殴っている。俺はゴキじゃないから! 落ち着け。一方、赤い少女隊Rの他のメンバーは静かにしている。やはり新人のロッソRとは格が違うようだ。


「みんな! 窓ガラスは割れていない。このままここにいれば大丈夫だ」


 俺がそう言って後ろを振り向くとロッソR以外の全員が床に倒れ白目を剥いていた。精神的ダメージに耐えられなかったようだ。ちなみにロッソRはうつろな目で未だに俺の後頭部を攻撃している。


 しばらくすると全員正気に戻り、目を覚ました。今は落ち着いて部屋の中央に集まっている。


「エサが無くなれば、帰ってくれるだろう。もうしばらくの辛抱だ。怖かったら目をとじろ」


「目を閉じたら悪魔がフラッシュバックする。逆に怖いわ」


「それにしてもイケメン最低だったわね」


「チワワもグルだったなんて」


「飼い主に似て犬も性格が悪かったわ」


「体が生ごみ臭いわ。温泉入りたい」


 メンバーは恐怖を忘れるためとりあえずしゃべり始めた。そうすると先程の戦いを反省する余裕も出てきた。


 雑談をしながらやがて一時間位経った。


 俺は期待して窓の外を見た。しかし予想に反して魔獣たちはまだ村中を徘徊している。すでにイケメンが撒いたエサは食い尽くしているのに。


「まずいぞ。魔獣達が帰る気配が無い」


「餌場と思っているのかしら」


 確かに。森の中よりも村の方が食べ物は豊富だ。奴らにとっては村の方が居心地よいだろう。


「あ!」


「何!? 悪魔たち帰ったの?」


「いや、さらに悪化した。数えきれないほどのアルマジロが悪魔と一緒に村中を徘徊している」


「「「「「いやーーー!」」」」」


 アルマジロ、別名巨大ダンゴムシ。その体長は一メートルを超える。何もしていないのに、その灰色の体を見るだけで嫌悪感が引き起こされる。これで俺の故郷の女性が嫌う虫トップワン・ツーがそろった。


「ヨシオ様ーーー!何とかして下さい」


 ロッソRが錯乱し丸めた新聞紙で俺の後頭部を再び攻撃し始めた。他のメンバーは震えている。一刻も早く巨大魔獣達による精神攻撃を終わらせねば!このままでは俺の後頭部が禿げてしまう。

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