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3-2話

「誰のを何枚」


「え?」


「プリンセス娘の握手券。誰のを何枚?」


 俺はいつの間にか握手券チケット売り場に並んでいたようだ。


「シ、シャム姫を一枚」


「とっくに売り切れだね」


「え、えーとミケ・・・を一枚」


「あいよ。最後の一枚だ。三時間後に開始だよ。遅れないでね。握手会の前に選抜メンバーによるミニコンサートあるから早めに来な」


 思わず買ってしまった。しかも、買ってはいけないミケの握手券。絶対奴らと会ってしまう。ミケとマンチカンは危険なのに! なぜ俺は十位とかの無難なメンバーにしなかったのか。かといって、お金も払ったし捨てるのももったいない。


 三時間後といえば、ちょうど昼食べた後くらいだな。ちょっと、飯でも食ってから考えるか。


「すみません、このあたりに美味しいレストランはありますか?」


「それなら『天ぷらキング』だね。このデパートのすぐ裏だ。かなりの人気らしいから急いで行きな」


「ありがとうございました!」


 俺は早速『天ぷらキング』に向かった。


 ◇ ◇ ◇


 ・・・迷ったのだ。せっかくなので、うまい店を開拓しようと思ったのに。『天ぷらキング』はどこ、いや、この際どこでもいい!食べ物屋どこーー?


 きょろきょろしていたら、馬車が走って来たのが見えた。そこへ、よそ見しながら横断しようとしている人が!危ない!


「きゃーーー!!!」


「うごぉ!」


 馬車に敷かれそうになった人の服をとっさに引っ張って助けた。しかし、反動で俺が道に出てしまい馬車に敷かれたわけです。カッコ良く決めたつもりだったのに、カッコ悪い。


「お二人ともケガはないでしょうか!?」


 馬車の運転手である御者が青い顔をして降りてきた。


「大丈夫です。かすり傷ですから」


「本当にすみません!」


「気にしなくていいです。飛び出したのは俺だし。それよりも馬車が道を塞いで馬車渋滞になってるよ。早く行った方がいいみたいです」


「すみません。せめてうちの店で手当てして行って下さい。あそこの『天ぷらキング』という店です。これ、少ないですがお薬代です。お食事券差し上げるので、良かったら食べていって下さい!すみません本当に!」


 そう言ってお金と金色のお食事券二枚を俺に渡して、馬車は去っていった。すると俺が助けた女性が近寄ってきた。


「すみません!私の不注意で!」


 安っぽい色付きメガネをかけて帽子を深めに被ったぽっちゃり田舎娘が必死の形相で謝っている。


「いいんですよ。女性を守るのは男の役目ですから」


「でも、肘から少し血が出てる・・・」


「ああ、まあこのくらい」


「ダメです!御者も言ってました。あそこのお店に行って手当してもらいましょう!」


 そう言って『天ぷらキング』に連れて行かれた。意外と近くにあったよ。事情を話すと、何度も平謝りしながら丁寧に手当をしてくれた。この世界、怪我は日常茶飯事のようで、どこのお店にも救急医療セットがあるようだ。


「よく見ると店の作りが豪華だなぁ!きっと高級店だよね。高そうな食事券をもらったことだし、食事していきますか?手当も済みましたし」


「そ、そうですね・・・」


「?ご都合悪いようでしたら無理しない方が」


「いえ!絶対食べます!今、食べるのです!」


 一階は満席、すでに長蛇の列ができていた。俺達は二階にある豪華で広い個室に通された。特別扱いして頂いたようだ。窓越しに日本庭園らしきものが見える。


「ここの天ぷら定食というのは見たこと無い料理なのです!とても高いけど美味しいと評判なのです!あなたも驚くと思うわ!この際、体形など気にしていられません!」


「気にしてたのは都合ではなく体形の方ですか」


「太りやすい体質なのです。ここのところ特に太って・・・」


「でも、少しくらいふくよかな方が健康的で可愛らしいですよ」


「そうですよね!」


「あ、注文お願いします!」


 俺はチケットを渡した。


「極上・天ぷら定食大盛二つですね!しばらくお待ちください」


 食事が出来上がるのを待つ間、外の日本庭園を懐かしく見ていた。


「ここの庭園は俺の故郷にある庭園に似ています」


「そうなんですか!私はこんなに心が安らぐ庭園を初めて見ました。ここの店は、天ぷらとか見たこともない庭園とか珍しいものばかりですね。そういえば、女子の間ではここで売っている一日限定ニ十個しか売っていないシュークリームというお菓子が人気です。いつか食べてみたいです」


「シュークリーム!!!それは、どのようなお菓子なのですか?」


「茶色いフワフワのパンみたいな薄い生地の中に、たっぷり甘いクリームが入っているらしいです」


 どうやら、俺の知っているシュークリームと同じようだ。これらの文化の一致は偶然だろうか?


「そうかぁ。俺も食べてみたいなぁ」


「入口で先ほど確認しました。残念ながら売り切れでした。実は私、シュークリームを買おうと思ってお店を探していたんです。それで店を見つけて、焦って道に飛び出してしまったんです。だって、シュークリームがまだ残っているかもと思ったから」


「シュークリームのためなら仕方ないね」


「ですよね。うふふ」


 二人の間にほんわかした時間が流れた。しばらくして天ぷら定食がきた。二人分なのに四人がかりで運んできたよ!


「「美味しそう!ご飯も天ぷらも大盛りーー!」」


 頂いたのはきっとプレミアチケットに違いない。


「わたし、食べきれるかしら」


「心配しなくても残したら俺が頂きますから」


「その時はよろしくお願いします。残したら失礼ですからね」


「「いっただきまーーす!」」


「サクサクだな」


「噂通り、サクサクでうまうまだわ!そしてタレ、出汁、抹茶塩、どれもが絶妙!味噌汁って言うスープも合うわぁ!」


「そう、そしてこのキュウリの漬物もポリポリしてウマい!さっぱりしたところで、再び、天ぷらが美味い!」


「無限に食べられるわ!」


「「天ぷら最高!」」


 この美味すぎる天ぷら定食が後ほど悲劇を生むとは知らず、幸せに食事をする二人であった。

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