14-4話
引き続きヨシオが召喚される数年前の話です。
ラブ・メグとラブ・スジークにより進められたラブ領パコネ温泉の超高級温泉旅館は大成功を収めた。宿泊費を十倍にしたおかげで莫大な利益が転がり込んできた。二人はラブ伯爵家の自室にこもって今後の計画を練っている。
「貴族向けの超高級温泉旅館はこの調子で、幾つか別の場所に造ることにするわ」
「そうじゃな。こんなに儲かるならどんどん造ればどんどん儲かりそうじゃな」
「いや、それはしないわ。貴族向けにはあくまでプレミア感を出すため幾つか造るだけにするわ」
スジークは品薄商法を導入し、安売りせずブランドを維持することに努めた。それらはスジークは以前の人生での知識を利用したものだ。他にも綿密に計算して食事内容、部屋のデザイン、温泉の種類などを決めている。一度目の人生ではかなわなかった夢(欲望)をここで実現しようとしているのだ。
超高級温泉旅館の成功を目にした他の貴族達はこぞって真似をして似たような温泉旅館を造りはじめた。しかし、所詮はパコネ温泉のコピーであり、オリジナルを超えることはできていない。それらは今のところ成功しているとは言えない状況である。
相変わらずラブ領パコネ温泉の超高級温泉旅館は姉妹に莫大な利益をもたらしている。
「次は庶民用の温泉ね」
「しかし、これまでも庶民向けの温泉はいくつかあるけど、あまり流行ってないのう」
「いいアイデアがあるの」
スジークはそう言って紙に書いたスケッチを見せた。
「なんじゃこりゃ?」
メグは目が点になった。
「温泉の中に滑り台や砂浜があるのじゃ。他にも色々!」
「アミューズメント温泉よ。公園、遊園地、プール、温泉を合体させてみたの。家族連れにはちょうどいいでしょ。他にも流れる温泉、洞窟温泉、スプラッシュ温泉、サンダー温泉・・・」
「よくわからんが、何だか楽しそうじゃ」
「こちらは巨大な施設にするわ。質はあまり追及する必要が無いのでどんどん拡張していきましょう」
スジークが考案したアミューズメント温泉はニシノリゾート共和国とハートフルピース王国の両国に近いラブ領内に造られた。もちろん他国からの観光客目当てである。
アミューズメント温泉は庶民を中心に爆発的な人気となった。安価なので温泉そのものの収益は少ないが、それに付随して建設されたホテルや食事処がかなりの収益を生み出した。さらにキャラクター人形ヒッピーマウスなどのグッズの売れ行きも好調だ。
アミューズメント温泉は常に拡張しており、一年後にはアミューズメント温泉・ランドとアミューズメント温泉・シーの二つが併設され、それはすでに一つの街と言えるくらいの大きさとなっていた。
「ほぼ二年の間に貴族用と庶民用の両方の温泉施設が上手くいくとは思わなかったわ」
「スジークのアイデアは全く素晴らしいのう。これで経済に関して私達に文句を言う奴はいないじゃろ。素晴らしい実績じゃ」
「となると次は文化面ね」
「いやじゃ!歌ったり踊ったりするのは良いが、その、あの格好はちょっと」
キタノオンセン帝国では貴族のたしなみとして歌と踊りは必須である。昔はクラッシックな曲に合わせて社交ダンスが必須だったが、現在ではポップスに合わせてアイドルダンスをするのが主流である。当然、衣装もカラフルでフリフリなドレスか制服をアレンジしたものだ。
「メグは昔から可愛らしい恰好が苦手よね。黒い服ばかり着て。だから魔女とか悪役令嬢とか言われるのよ」
「しかたないから衣装は我慢するのじゃ。しかし、歌って踊るには良い先生が必要じゃ。悪役令嬢は人脈が少ないのじゃ」
「そうよね。エドワード皇太子がメグとの婚約を一方的に破棄したおかげで人脈がかなり途絶えたからね。負け組と思われている私達の味方は少ない。でも大丈夫。外国の知人がいるのよ」
「外国人のコーチか!それは良い考えじゃ。しかし、どこで知り合いになったのじゃ」
「以前、夏休みに短期留学生としてハートフル・ピース王国に行ったの」
「あの頃のスジークは可愛らしかったのう。フリフリの服ばかり着て」
「黒歴史なの言わないで。で、その時、アイドルの研究生と友達になったのよ。その人のつてを頼ってみるわ」
その後、連絡はとれたがコーチを派遣してもらうことは難しことがわかった。しかし、ハートフル・ピース王国に来れば指導してもらえる可能性があるとのことだった。
「温泉事業は好調なので、そちらは支配人達に任せて、私達は隣国に歌と踊りの修行に行きましょう」
「わかったのじゃ。その他、色々あるが、とりあえずセバスチャンに丸投げしておけば万事うまくいくのじゃ」
私達は部屋を出て一階のリビングにいるラブ家の執事セバスチャンに声をかけた。
「というわけでセバスチャン、外国に行ってくるのでよろしくたのみます」
「たのむのじゃ」
「何がというわけでか分かりませんが、任されました。詳細を教えてください」
セバスチャンは難しい顔をしながらも私達の計画を聞き、その後メイド達に指示を出し私達の修行の準備を整えてくれた。翌日には隣国に行けることになった。
◇ ◇ ◇
「ありがとうセバスチャン!父上、母上、みんな!行ってまいります」
「行ってくるのじゃ」
「お土産の小説を忘れないでね!」
私達は魔動馬車に乗って、見送りの人達に手を振った。
「母上は最近、『異世界転移で目が覚めたらやり込んだゲームの中の悪役令嬢だったのでゲームの知識を利用して大逆転』ものの小説にはまっておるのじゃ」
「以前は『ミジンコから始まる異世界生活 ~せめて哺乳類から始めたい~』や『酢昆布から始まる異世界転移 ~いつになったら俺tueeeになるの?やっと根昆布~』の系統がお気に入りだったわ」
私達はそんな話をしながらハートフル・ピース王国の知人が指定する場所へと向かった。やがて、城の街に着いた。二人は魔動馬車を降り、歩き始めた。
「都会じゃのう」
「ここが大陸の中で最先端の都市ですからね」
二人は田舎者のようにきょろきょろしながら大通りを歩いている。
「あそこのスタジオよ!」
「せっかくの都会なのに、ここだけ古めかしい建物じゃのう」
私達はその古めかしいスタジオに入った。入口に受付嬢がいた。
「すみません。ラブ・メグとラブ・スジークと申します。こちらに・・・」
「待ってたわ!スジーク!」
練習を抜けてきたと思われる汗だくの爽やか美人さんが声をかけてきた。
「シャム!久しぶりね。三年ぶりかしら」
そこには、当時プリンセス娘研究生から正規メンバーに昇格したばかりのシャムがいた。