13-8話
ストックが尽きてきたので4月は週1~2回更新になります。よろしくお願いします。
翌日の朝からデーチと一緒に俺はスープを作っている。カツを卵でとじる時に使用するためだ。以前カツ丼を作った時はカキ出汁入り醤油を使ったが、ここで作るなら容易に入手可能な素材を使ってカツ丼を作る必要がある。
スープはくず野菜と豚肉のスジの部分を煮込み、隠し味としてトマトを少し使用している。
「どうでしょうか?」
俺はデーチから味見用のスープを受け取り飲んだ。
「うん、美味い。でも物足りないなぁ」
「そうですか?十分美味しいと思うのですが」
あまり素材にお金を使うわけにもいかない。トマトはトマトケチャップに置き換え城のレストランから送ってもらうとしても、あまり高価な素材は使えない。スジークが魔力を込めながら作るともっと美味しくなると思うけど、彼女にはちびっこハウスの仕事があるからそれはできない。
「ちょっと試してみたいことがある。もう一杯スープを」
「わかりました」
デーチは俺のコップに再びスープを入れた。俺はコップの中のスープに魔力しばらくを込めた後、飲んでみた。
「美味くなった!後から魔力込めてもいいんだ!ちょっと、飲んでみろよ」
「美味しい!」
「スジークには開店前の仕込み時に魔力を使って協力してもらおうと思っていたんだ。これなら時間もそんなにかからない」
「魔力にそんな使い道があったなんて」
「残念ながらかなりの魔力量が必要なので、一般人には無理な方法だ」
「うー、俺にも膨大な魔力あれば」
「まあ、そう言うな。魔力無しでも十分美味しいのだから。だからレシピ通り作ることを心掛けてくれ」
「はい!」
俺は試作したスープを瓶に詰めた。
◇ ◇ ◇
俺はスープを持って、ちびっこハウスのスジークの所に訪れた。
「スジーク、この瓶の中の液体に魔力を込めてくれ」
「ええ,魔力を込める?それ魔道具には見えないけど」
「魔道具じゃないよ。これは瓶の中に液体を入れただけ。実験だから。美味しくなるイメージで魔力を込めてほしいんだ」
「良く分からないけどやってみるわ」
「じゃあ、まずはこの液体、スープなんだけど、そのまま飲んでみて」
俺は持ってきた二つのコップにスープをそれぞれ注いだ。スジークと一緒に飲んだ。
「美味しい!これスープとして提供するの?」
「美味しいだろ。これはカツ丼の仕上げ時、卵とじを作る時に使うんだ」
「こんなに美味しいのにもったいないわね。これがもっと美味しくなるようイメージして魔力を込めればいいのね」
「ああ」
俺は再度二つのコップにスープを注いだ。スジークはコップの中のスープに魔力を込めた。集中のあまり眉間にしわが寄っている。同時に巨大な胸元も寄っている・・・これはぜひ、どこかで活用したい。
「もういいかしら?こんなに魔力を込めたのは初めてだから程度が良く分からないわ」
「それは試行錯誤してもらうしかない。イメージの種類とか時間とか。まあ、とにかく飲んでみよう」
俺達はスジークが魔力を込めたスープを飲んだ。
「ええ!何だかフルーツ風味!」
「うん、悪くは無い。スープとしてなら美味しい、けどカツ丼には合わないなぁ」
「でも面白いわ!魔力のかけ方で味が変わるなんて。私は周りから料理のセンスがあると言われていたけど、知らず知らずのうちに魔力を使っていたのかもしれないわ」
「そうだね。俺の場合と比べここまで味が変わるなんて。びっくりだ」
「ヨシオも魔力が大きいと言っていたよね。ちょっとヨシオが魔力を込めたのを試飲させてもらえないかしら」
「わかった。確かに基準があった方が良いだろ」
幸い、俺は故郷で美味しいカツ丼を食ったイメージがある。このイメージを何とかスジークに伝えたい。俺はコップに注いだスープに魔力を込めた。
「よし、このくらいでいいだろう。どうぞ」
スジークは俺からコップを受け取り恐る恐るスープを飲んだ。
「!!!」
「どう・・・かな?」
「美味しい、とても美味しいわ!これは確かにカツ丼に合うわ。なるほど、これか」
「まあ、仕事の合間に色々と試してくれ」
「わかった。たぶん今日中にはできると思うわ」
部屋の奥の方から子供達がやってきた。
「いい匂い!」
「スープ!」
「ずるい!」
「そうよ!私も飲みたいわ」
子供に紛れて最後に言ったのはロッソRだ。
「ロッソ、子供達への説明は終わったのか」
「ええ、皆、食堂のお手伝いをやりたいみたい。お金も手に入るからね」
ちびっこハウスの子供達の中で、ある程度年齢が高くやる気がる子供を選んでアルバイトをしてもらう予定だ。皆、前向きで良かった。
その後、それぞれの持ち場で日が暮れるまで準備を行った。
◇ ◇ ◇
翌日昼。
『カツ丼アルマジロ』の中、開店前ミーティングをしている。本日の作業等のチェックを一通り確認した。最後はオーナーからの一言だ。
「今日はプレオープンだ。昨日聞いたばかりで上手くいかないこともあると思うけど、それも大切だ。プレオープンの間に色々と問題点を洗い出そう。皆の働きに期待している、地域一番店を目指すぞ!」
「「「「おお!」」」」」
新店舗が出来た時いつもサポートに行っていた故郷のコンビニを思い出す。従業員育成は大切なのだ。
「ヨシオさん、この服装で本当に良いのでしょうか」
スジークが恥ずかしそうに質問した。今日は特別にスジークは店長として現場に出てもらう予定だ。そのために
『特別に準備したメイド服』
を着てもらっている。俺の故郷では何の変哲もないコスプレ風のメイド服だが、胸がやたらと強調されている特別仕様だ。あるものは使わねば!
スレンダーな体型のロッソRが冷ややかな目で俺を見ているが、気が付かないふりをしよう。
「素晴らしい!スジークは店長だけど、むしろマスコット、看板娘で人気が出るぞ。そのまま芸能界デビューもありえる。俺がマネージャーするから」
「良く分かりませんが、日頃、出られない分、今日は頑張ります!」
「よろしく頼む。店長の胸に・・・肩にこの店の命運がかかっているんだ。さて、そろそろ開店するとしよう。俺は店のドアを開けた」
店の外には何故か長蛇の列ができていた。先頭には、あのおばちゃんがいた・・・