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13-7話

 ヨシオとロッソ。この人の良さそうな金持ちから少しでも多く寄付金を引き出すため、私は借金額を三倍に盛ることにした。


「悪いけど、簡単に払える額じゃ無いわ。田舎とは言え土地と家を取り戻すのに貴方たちの国の貨幣換算で300万HPDもかかるし、さらに子供達を養うために毎月20万HPDもかかるのよ。一般人がとてもすぐに用意できる額じゃ無いわ」


 あ、動きが止まった。ちょっと盛りすぎたかな。


「意外と安いんだな。じゃあ、とりあえず一千万HPD渡すから、それでしばらく乗りきって」


 ・・・安いんだ、意外と安いんだ。盛って300万HPDって言ったのに一千万HPD渡すからってどういうこと?ハートフルピース王国の貴族ってどんだけ金持ちなんだよ。しかも断言したってことは決定権がこの付き人にあるの?いやいやそれは無いだろう。となると、個人の資産?もしかしてヨシオって金持ちのボンボン、いや成金か?やっぱり貴族かな?


「はぁ?もしかしてヨシオさんって貴族様?」


 結局、一千万HPDも出してもらえることになった。さっき会ったばかりなのに。怪しい。何か魂胆があるのかもしれない。


「本当だな。あんな事や、こんな事もやってもらうかもしれないぞ」


 ああ、やはり。ぼーっとした顔しているけど、それは敵を欺く罠。裏では卑怯な手段でお金を稼いでいるに違いないわ。でも、必要なのはお金。今はこの申し出にすがるしかない。とりあえず目先の借金さえ解決してしまえば、踏み倒して逃げることもできるし。とりあえず、狙いを聞き出す必要があるわ。


「ちびっこハウスを維持するためなら私は何でもやるわ。もう自分の体しか残ってないけど」


 私は覚悟を決めたふりをして従順さを前面に出してみた。今度はどう出るかな。


「いや、三人とも勘違いしないでくれよ。一時的な資金の投入でちびっこハウスの危機を乗り越えても、その後同じことを繰り返すことになる。抜本的に変えるには、帝国からの資金に頼らず、自分達で運営資金を工面する必要がある。スジークやちびっこハウスの皆にできること。その方法を考えているんだ」


 自分達で運営資金を工面する必要がある、実は私もそう思っていたんだ。けど良い方法が思いつかなかった。そこに、いきなりマスターがギターを抱えて話に割り込んできた。


「あー、すんません!一曲どうですか」


「いや、特にいらないけど」


 結局、私達はマスターの新曲を聞かされることになった。前の曲と何が違うのか良く分からない。いや、そんな事より自分達で運営資金を工面する方法だ。一千万HPDもあれば、借金を返済してもかなり余裕がある。


「俺が買い取ろう。いくらだ」


 え、何を買い取るの?運営資金の工面の方法を考えることに夢中で、マスターとヨシオの話を聞いていなかった。


「本当ですか!借金の分だけ肩代わりして頂ければいいです。それでも500万HPDなんですが」


 ま・さ・か・この店の事?無理無理!いくら何でも。会ったばかりの人よ!


「ああ、大丈夫だ。ちびっこハウスの件もあるし、後で一緒に手続きにいこう。よければ、俺が店を経営するから従業員として働いてみないか」


「「「「えええ!」」」」


 買うんかい!そしていきなり経営するんかい!ヨシオ絶対貴族だわ。ハートフルピース王国の貴族どれだけ金持ちなんだよ!こんなことなら借金一億とか言えば良かったわ。


「スジークには店長をしてほしい。出来れば施設の子供達にも手伝ってほしい。もちろん当面の運営資金は俺が提供する」


「私はちびっこハウスの管理人の仕事があるのですが。それに子供達が手伝うとは?」


 店長って何?何の店長なの?何やるの?しかも子供も手伝わせるとは。やがて独立する子供達の事を考えると仕事を手伝うのは良い方法だけど。


「ヨシオ、何の店をやるの?」


 ロッソが尋ねた。そうだよ、それ!先に何をやるのか言うべきでしょ!


「カツ丼屋だ!」


「それいいですね!絶対!絶対!絶対!やりましょう!」


 カツ丼、つまり食堂経営。こんな場所で食堂開くとかセンス無いわぁ。気に入っているのは貴族のお嬢ちゃんだけ。案の定、マスターもヨコピロシも反対のようだ。


「ふふ、心配するな。俺がカツ丼のスペシャルレシピを作ってやる。素人でも計量をきちんとして調理時間を守れば超絶美味いカツ丼が作れるはずだ。大人気店になるぞ!」


 しかしヨシオは自信があるようだ。まあ、経営者がやりたいって言うんだから好きにやらせればいいか。客が来なくて赤字でも私達に被害はないし、万が一うまくいけばラッキーだ。


 その後、私達は銀行に行き、借金返済、所有者の名義変更の手続きをした。ヨシオから私とマスターのの口座へそれぞれお金が送金され、私達はそのお金を借金返済に充てた。私は借金を三倍に盛ったので、返済してもかなりの金額がそのまま口座に残っている。これでしばらくちびっこハウスが運営できそうだ。ありがとう、貴族のボンボンとお嬢ちゃん。気が向いたら返済するからね。気が向いたら。


 この事を姉に連絡したら、律義な姉はお礼に来たいと言うので、喫茶アルマジロに来るよう言っておいた。双子だけど、姉は私と違って非常に生真面目なのだ。


 ◇ ◇ ◇


 翌日、ヨシオが瓶に入った謎の液体を持ってちびっこハウスにやってきた。何やら実験をするので手伝ってほしいと言われた。この瓶の中に入っている液体に魔力を込めろということらしい。しかも美味しいイメージを維持しながら。魔道具でもないモノに魔力を込めるなんて無意味だと思うけど。


 全く、金持ちの考えることは良く分からない。

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