13-6話
付き人のヨシオが私に聞きたいことがあるようだ。
「先程、うろついていたガラの悪い奴について話を聞かせてもらえませんか。何か、協力できることがあるかもしれません」
たぶん、草食系男子派のことを聞きたいのだろう。となると、益々、ただの観光客ではないかもしれない。この二人にはツバサを助けてもらった恩もあるし話をするのは構わないだろう。それに敵か味方かを見極める必要がある。
「わかりました。この少し先に売れないミュージシャンがマスターをしている穴場的喫茶店があるので、そこに行きましょう。いつも客が居ないのでちょうどいいです」
私は、ちびっこハウスの中にいる仲間のヨコピロシに密かに合図をした後、ヨシオ達と一緒に喫茶アルマジロに向かった。喫茶店で話している間にヨコピロシがこの二人に関する情報を集めてくれるだろう。
喫茶店に行く道中、気配を感じた。監視されている?複数人。攻撃してくるわけでもない。草食系男子派ではないな。となるとロッソと名乗る貴族の女の護衛か?大物かもしれない。少し楽しみになってきた。何しろこちらは最近資金不足だ。金持ち大歓迎。少しくらい寄付を引き出せるかもしれない。
それにしても付き人のヨシオが先程からやたらとハイテンションで「キター!」とか言っている。喫茶店の何か面白いのやら。
『喫茶アルマジロ』
ここは一年前から開業している喫茶店だが、最近では客がいる所をほとんど見たこと無い。たぶん、マスターの謎の音楽性が原因かと思われる。コーヒーは美味いだけにもったいない。
私達はコーヒーを注文し、飲みながら話をしている。今日のコーヒーも美味い。
「私、施設の管理人のスジークと申します。ツバサを助けていただきありがとうございました。ツバサは施設の皆を助けようとしたのでしょう。大人相手に大事にならなくて良かったです」
「彼らはキタノオンセン帝国の人達ですね」
えー!いきなり隠す気なしかよ!そこら辺繊細なところなのに堂々と断言だよ!この人何者?敵?やっぱ敵なの?しかしスパイ活動にしてはあからさますぎるし。もしかして権力者の犬とか?うーん、良く分からない。
「ええ、実はこの施設にいる子供達はほとんどがキタノオンセン帝国の子供達なのです。訳あって、このニシノリゾート共和国オモイザワ村で孤児となった子供達を保護することになり、私が管理を任されました」
「そうなのですか。しかし、それなら帝国が邪魔をするのはおかしなことですね」
いや味方かな?たぶん味方っぽい。でも何が知りたいのかしら。
「なるほど、それで反対派である帝国の草食系男子派が邪魔しに来たのですね」
かなり内情にも詳しいようね。もしロッソが貴族なら彼らはハートフルピース王国人だろうけど。ここら辺でちょっと確認してみますか。ヨコピロシの準備もできたようだし。
「そうだと思います。女帝は優しいお方ですから。それにしても色々とお詳しいですね。やはり、あなた方は普通の観光客では無いようです」
「妙な動きはするなよ。お前達はハートフルピース王国から来たスパイだな」
逃げるなら追いかけない。戦うなら受けて立つ。さあ、どうするかしら。
「ああ、情報を集めていた。正々堂々とね。なにせハートフルピース王国は宣戦布告されているから当然だろ。この辺りで草食系男子派がうろついていたので、辿れば何らかの帝国の情報が手に入ると思ったんだ。もちろん、ツバサの力になってやりたいと思ったのは確かだ」
えっと、正々堂々と敵国の内情を調べに敵国の施設に聞きに来ました的なことを言っているけど聞き間違いかしら。でも悪気は無いみたいね。
「本当のことを言うと半分以上観光だけど」
観光かい!
「ええ!?ヨシオ、そんな観光気分だったなんて」
ほんとだよ、しっかりしろ付き人!そしてイチャイチャするな。なんとなくムカつくから。
「こいつら!昨日からイチャイチャしやがって!」
そうだ!ヨコピロシも、もっとツッコミ入れろ!
「昨日から?あ、お前、昨日ホテルのレストランで酔っぱらって寝ていたおっさん!」
「おっさん言うな!俺が寝たのはお前らのせいだろ。飲み過ぎたのは確かだが」
また酒飲んで泥酔していたのかヨコピロシ。使えねぇ。
「酔っ払って寝ていたなんて。だからクビになるんですよ。ヨシオさん、ロッソさん、彼は私達の仲間のヨコピロシです。ケイジデカの元同僚で、今は探偵、護衛、傭兵などなど、いわゆる何でも屋です」
ヨコピロシを見て付き人のヨシオがやたらと嬉しそうな顔をしている。何なのコイツは?
その後、情報交換してみるとむしろ戦争を回避しようとしている様子さえ感じられた。どうやら悪い奴らではなさそうだった。となると、適当に情報を提供しながらお涙頂戴で寄付をお願いしてみようかしら。まあ、敵国なので無理だとは思うけど。
「土地も建物も抵当に入っているので強制的に追い出されるわ。後は子供達を引き取ってくれる人達を探すしかない。でも子供達はキタノオンセン帝国人だからここでは引き取り手が少ないの。それを解決するためにこの施設を作ったくらいだし」
「少しくらいならお金を工面できるかも。どれくらいあったらそのまま住めるの?」
おお!協力してくれそう。しかし少しか。さすがに王国貴族なら国を運営する立場。貴族の立場で敵国への寄付は無理だよなぁ。それでも個人で寄付しようとするあたりさすがね。ポケットマネーであっても気持ちは嬉しい。
必要金額はちょっと多め言っちゃおうかな。三倍くらいに膨らませるぐらいなら許容範囲よね。




