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12-7話

「もう、ひどいです!」


「ごめん、ごめん。でもああでもしないとカツ丼が作れなかったんだ」


「大変だったんですよ。おばちゃんに根掘り葉掘り質問されて。しかも料理の事じゃなくて男性関係のことばかり。後で絶対カツ丼を大盛で作って下さいよ!」


「わかった。約束する」


 俺達は取調室に来ている。もちろんカツ丼を作って机の上に置いている。


 しばらくすると、容疑者である盗賊団のリーダーがケイジデカと部下によって連れられてこられた。盗賊団のリーダーは上半身を縄でぐるぐる巻きにされたまま椅子に座らされた。


「お前達は、ドアの外で警備しておいてくれ」


「わかりました」


 ケイジデカの部下は部屋を出た。取調室には俺とロッソR、ケイジデカそして盗賊団のリーダーがいる。


「ま、魔術師か」


 盗賊団のリーダーが俺を見て動揺している。魔道具に見せかけた花火を使って盗賊団と戦ったせいで、奴は俺のことを魔術師だと思っているようだ


「お前の知っている通り、今日は魔術師に来てもらった。無言を貫けるのも今のうちだけだぞ!」


 ケイジデカが適当に話を合わせてくれているようだ。


「特にしゃべることはねえよ。ま、魔術師がいたって、か、関係ねえよ」


 言っている内容とは裏腹に、やはりちょっとびびっているようだ。


「しかし、なんだかウマそうな匂いがするな」


 ここからが俺の出番だ。


「カツ丼食うか?」


「えっ?」


 無機質な取調室の中にあって、明らかに異彩を放っているカツ丼(蓋付き)。さあ、食べて頂こうではないか。


「まあ、縛られているから食えないか。俺が手伝ってやるから、ちょっと食ってみろ」


「薬や毒は入っていないだろうな。入っていてもどうしようもないが」


 俺はどんぶりの蓋を開け、はしでカツを一切れ摘まんだ。そして、犯人の口に入れてやった。


「!!!ウマい!何だこのカツ丼は!」


「お前の母親もお前のためにカツ丼作っていただろ。子供の頃。懐かしいだろ。あの頃のお前は・・・」


「いや、こんなウマいカツ丼は食ったこと無い」


「母さんの手料理を思い出すだろ」


「いや、こんなウマいカツ丼を素人の母親が作れるがわけない」


「だから、子供の頃を・・・」


「だから子供の頃こんなウマいカツ丼くってねえ!初めて食べた。極上の味だよ!何処のレストランで売っているんだ!」


 おかしい、どうしてこうなった。美味いカツ丼を食って母親の話をすれば万事解決のはずなのに!


「い、いや、これは売り物じゃないんだ」


「やはり・・・そうだろうな。こんなウマいカツ丼、普通のお店で売っているわけがない。シェフに作らせたんだな」


「まあ、お前のために特別に作ったのは確かだ」


「さぞ、腕の立つシェフなんだろうな。でも、どうして、こんな俺のために」


「あんな事があったけど、お前、自分から望んで盗賊団をやっていたわけじゃないんだろ」


「・・・」


「何か訳があったんだろ。言いたいことがあったら言ったらいいよ。力になるから」


「・・・」


「じゃあ、このカツ丼がどうなってもいいんだな!」


「待て、早まるな!」


「もう一生食えないと思うぞ。こんな美味いカツ丼は(パク)うまー!」


「ああ、俺のカツ丼が、全部は食うな!ちょっとは残せよ!」


「じゃあ、盗賊団をやっていた理由を教えてくれたら食べてもいいよ」


「それは・・・言えない」


「おっと、こんな所にマズそうなウスターソースが」


「まさか、かけるなよ!カツ丼が台無しになるじゃないか!」


「ヨシ、じゃなくて魔術師さん、やめて!」


「カツ丼があああ!」


 ロッソRとケイジデカも焦っている。いや、あなた達は焦る必要ないから。


「このウスターソースをじゃぶじゃぶとカツ丼にかけちゃおうかなーどんな味になるかなー」


「やめろ!極上のカツ丼なのに!酷いことするな!」


「そうだよ、魔術師さんやめてあげて」


「カツ丼がぁ!」


 いや、だから ロッソRとケイジデカは焦らなくていいから!


「でも教えてくれないと手が勝手に動いちゃうんだよなー、あーソースがーこぼれそー」


「わかった!分かったからやめてくれ!言うから!この悪魔め!」


「ほんと!最低よ!この魔術師!悪魔め!」


「良かった、ほんと良かった(涙)」


 本気で罵るのやめて下さいロッソR、そして泣くのはやめて下さいケイジデカ。

 

「まあ、いいだろう。ケイジデカさん、奴の片手だけ使えるようにしてください」


「わかった」


 ケイジデカはロープを緩め、盗賊団のリーダーの片腕だけは使えるようにした。


「さあ、食っていいぞ」


「ありがとう(もぐもぐ)うめーよ!本当に!(涙)」


「よくやったわ。あなたはあの悪魔からこのカツ丼を救い出したのよ!味わいなさい、思う存分味わいなさい!あなたにはその権利があるわ」


「ああ、良かった!カツ丼が台無しにならなくてよかった」


 そこには一心不乱にカツ丼をかき込む盗賊団のリーダー、そいつを讃えるロッソR、カツ丼が救われて感極まっているケイジデカ。何なんだこの構図。


「ふー、美味かった。ありがとうよ。これでもう、この世に思い残すことは何もない。さあ、あの世に送ってくれ」


「いや、別に強盗未遂くらいで死ななくていいから。盗賊団をやっていた理由、目的を教えてくれたらいいから」


「・・・探してくるよう命令されたんだ。女帝を」


「女帝?キタノオンセン帝国の女帝か!」


「ムチムチボインの人ね!」


「ああ。実はこの村にキタノオンセン帝国の女帝が潜入しているという情報があったんだ。見つけて連れて帰るのが任務なんだ」


「なんだと!こうしてはいられない!俺がお前達に代わって・・・お前達の任務、遂行してやろう!」


「単にエロい女帝に会いたいだけでしょ」


 ロッソRが俺を胡散臭そうな目で見ている。いや、違うんだ。違うったら違うんだ!純粋に人助けなんだってば!

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