表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/231

12-6話

 [コンビニ]が発動し、バーコードリーダーさんにより転送されてきたのは、


『南丸 牡蠣だし醤油400ml』。


 俺が故郷で愛用していた醤油が転送されてきた。これはだし醤油の一種で、だしとして牡蠣エキスを用いたものだ。ちなみに牡蠣の美味さだけが含まれていて、牡蠣臭さが全く無いのがこの醤油の素敵な点だ。


 なぜ牡蠣だし醤油なのか、それはカツ丼は肉も重要だが、だしがより重要だからだ。うどん屋のカツ丼は、うどんだしを使ってカツを煮込むから非常に美味いのだ。


 俺は早速料理に取り掛かった。今回は実験を兼ねて二つ同時に作ろう。


 とんかつ用の豚肉はすでに用意されている。包丁で肉の筋を丁寧に切断し、肉を叩いて伸ばしてもとの形に整える。


 次に卵、小麦粉、水を混ぜ合わせて卵液を作る。そして平皿の上にパン粉を広げる。肉を卵液にくぐらせ、パン粉をまぶす。そして、中低温でカラッと揚げる。この辺の作り方は一般的なものだ。


 その間に、フライパンで水、玉ねぎ、酒、砂糖を煮込み、最後に醤油で味を調える。ここで、だし入り醤油を使うだけで美味さが倍増するのだ。揚がったとんかつを食べやすい大きさに切り分け、先程のだしの入ったフライパンに入れる。少し煮込んで、最後に上から溶き卵をまわし入れる。


 半熟になったら火を止めて、ご飯の上に載せれば出来上がり。まずは、カツの美味さを堪能してもらうため、ご飯に載せずに食べてもらおう。


「試作品ができた。食べて感想を聞かせてくれ」


「いい匂いです!」


「香ばしい食欲をそそる匂いだ!」


 ロッソRとケイジデカは待ちきれないとばかりにカツを口に入れた。


「美味い!カリカリなのにジューシー!だしが効いてるわ!」


「あーたまらん!サクサクしているトンカツと半熟玉子のハーモニーが素晴らしい」


「そうだろ。今度はこちらを食べてみてくれ」


 俺は同時に作っていたもう一つの方を出した。先ほどと材料などの分量と調理方法は同じだ。


「見た目は一緒だが何が違うのだろうか。(パク)!!!」


「こちらもいい匂いだ(パク)!!!」


「「何これ!ウマすぎる!!!」」


「全然違います。ヨシオ、体の芯からぽかぽかしています!」


「何!何が違うのだ!最初のトンカツも美味かったけど、後の方は異次元的に美味い」


「やはりそうか。違いが出たか。最初は普通に調理したトンカツ、二つ目は魔力を込めて調理したトンカツだ」


 そう、俺はメグちゃんに会って以来、自分の持っている役に立たない大きな魔力の使い道を考えていた。そして、城でのオムライス対決で料理長に勝ったことを思い出した。


 あの時、俺はうま味を使った。しかし、それだけで素人の俺がプロの料理長に対して圧倒的に勝てるものなのかと。何か別の要因があるはずだと。


 今回、試しに料理を作る時に美味いカツをイメージしながら魔力を込めてみたのだ。どうやら、その効果はあったようだ。


「ううう、もっと食べたいです!それにしても魔力を使うと料理が美味しくるなんて大発見よ!」


「確かに。聞いたことが無いわけで。もっとがっつり食べたい」


「誰もが魔力を使って美味しくできるかはわからない。けど、俺としては役に立たないと思われていた自分の魔力を使った『俺スゲー』があったのが嬉しい」


「『俺スゲー』が出来ましたね。でも、このカツ丼を容疑者に食べさせるのはもったいないです」


「確かに。本当に尋問にカツ丼が必要なのですか?」


「そうだった!当初の目的を忘れていた。カツ丼を使った尋問の見本を見せるのだったね。ちょっと、待っていてくれ。とりあえず今からちゃんとしたカツ丼作るから」


 ふと顔を上げると、おばちゃんが俺の作った試食用カツを食っていた。えええ?


「んまー、ほんと、これ美味しいわね。貴方が作ったのね。こんな料理上手な男子、娘にはもったいないわ。いっそのこと、あなたがうちの息子になるのはどうかしら?」


 スカウト活動は継続しているようだ。


「ロッソに教えてもらった通り作っただけです。ロッソよろしく」


 俺は素早く厨房に移動した。


「ヨ、ヨシオー!!!」


 ロッソRの声が聞こえたが、ここは犠牲になってもらおう。そして、俺は今から渾身のカツ丼を作る!待っていろよ容疑者め。


 ◇ ◇ ◇


 一方ロッソRの方は。


「んまー、貴方が料理の師匠ロッソちゃんなのね。やっぱりかわいい娘は出来が違うわね。どうやって作ったの?」


「えっと、肉を油で揚げて、玉子をかけたのです」


「ざっくりしてるけど普通の作り方ね。なのにこんなに美味しくなるものなのね。おばさん、ここで10年働いているけどこんなの食べたの初めてよ。これで、男子の胃袋がっちりつかんでモノにしてきたのね」


「いえ!男子をモノになんてしてません」


 ロッソRが必死に否定しているが、おばちゃんは全然聞く耳を持っていないようだ。


「まあまあ、隠さなくてもいいのよ。あなたも可愛い顔してなかなかやるのね。おばさんも見習いたいわ」


「いえ、本当に何もやってませんから!」


「でもね。胃袋、それは夫婦を長続きさせる大切な袋のひとつだから重要なのよ」


「大切な袋?」


「ええそうよ。昔から結婚式の席で親戚が言うのがお約束になっているのよ。えーと、確か胃袋、ジッパー付き冷凍袋、エコエコバッグだったかしら」


「胃袋以外は何だかすごく現代的なんですけど」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ