11-4話
ヨシオは停車している魔動馬車に乗り込み、窓から顔を出してシルバーウルフを威嚇している。魔動馬車でシルバーウルフを引き連れて逃げるのか?それは一つの方法であり私も考えたが、下手に移動して、もしシルバーウルフが街に入ると被害が拡大する。現実的にはなかなか難しい。いったいどこに逃げるのか。
突然、窓からヨシオが窓から皿を投げた!いや、あれは皿ではない、フリスビーだ!シルバーウルフはフリスビーを見つけると体を硬直させた。
「わおーーーーん!」
しかし、次の瞬間、獲物を狩るかのように爆発的にダッシュし、フリスビーの後を追い谷に降りて行ったのだ。
このことを見越してフリスビーを準備していたというのか!さすが勇者ヨシオだ!私達では全く思いつかなかった方法だ。
「シルバーウルフが去って行ったぞ!凄い!」
「誰だあれは!」
「きっと魔獣使いよ」
「イケメン様かしら」
「いやイケメン様にしては平凡な顔だわ」
ヨシオの活躍に、建物の中に避難していた人達も興奮しているようだ。ヨシオは魔獣使いの才能があったのか?いや、そうではない。以前のイケメン・ブリーダーとの戦いで、フリスビーがあれば上手く動物達を支配下に治められることを理解していたのだろう。
「きゃー!」
「またキター!」
シルバーウルフがフリスビーを咥えて崖を這い上がり、再び魔動馬車まで戻ってきた。驚くことに、今度は咥えていたフリスビーを魔動馬車の窓から車内に入れてお座りしている。尻尾もブンブン振られている。完全に支配下に治めたようだ。
ヨシオは今度は別の方に軽くフリスビーを投げたが、シルバーウルフは反応しない。どうやら、シルバーウルフに投げる方向か何かを確認しているようだ。もうコミニュケーションが取れているのだ。その証拠に、ヨシオが魔動馬車から出てきてもシルバーウルフは襲わない。
ヨシオは、今度は谷の方向に向かって思いっきりフリスビーを投げた。凄い勢いでフリスビーは飛んで行った。
「わおーん!」
再びシルバーウルフがフリスビーを追いかけ始めた。フリスビーは風に乗ってかなり離れているはずの谷の向こうまで届きそうな勢いだ。シルバーウルフは猛然と走り出し、谷を下りていった。しばらくすると、なんと対岸の崖の上に現れジャンプしてフリスビーを正確にキャッチした!
「「「おおお!」」」
「すごい!あの猛獣使い!」
「こんな人がいたなんて」
「シルバーウルフも崖を駆け上がり空中でキャッチした!すごい技術だ!」
「もしかして、初めから仕組んでたの?」
「そういえば、魔獣は見かけによらず従順でかなり慣れた感じだったわ」
「やはり、ドッキリだったか」
「俺は初めから知ってたし」
周囲にいた人達から歓声が上がっている。もはやサプライズの猛獣ショーだよ!先程までの恐怖は吹き飛び皆喜んでいる。
こんな大自然の中で凶悪な魔獣シルバーウルフを使って猛獣ショーをするのはヨシオだけだろう。しかし、これはサプライズでもドッキリでもない。ヨシオがいなければかなり危機的な状況だったのだ。
「偉いぞ!シルバーウルフ!今日からお前の名前はポチだ!」
恐ろしいことに、ヨシオは魔獣シルバーウルフを『ポチ』と名付け、頭をさすっている。シルバーウルフも嬉しそうだ。考えられない、一つ間違えるとあの世行きだ!
「行けポチ!」
「わおーん!」
その後、良い尾は二十回くらい谷に向かってフリスビーを投げてシルバーウルフと戯れていた。しばらくして、シルバーウルフは森に消えて行った。
見事なお手並みだった。一人のけが人も出さず、魔獣を撃退したのだ。その後、ヨシオはフリスビーの営業を始めた。商売人としても抜け目は無いようだ。
◇ ◇ ◇
魔動馬車はオモイザワ村に向かって走っている。馬車内の雰囲気は非常に良い感じだ。シルバーウルフの登場により一時はどうなるかと思われたが、魔獣使いによる見世物と勘違いされたためパニックは起きなかった。サービスエリアを出発前に、ヨシオが観光客にサイン攻めに合っていたのが可笑しかった。
(赤い少女隊Rの皆、ご苦労様)
(まさかシルバーウルフとは、想定外でした)
(フリスビーも想定外でした)
(ヨシオって強そうに見えないけど、色々な事をなぜか簡単に解決している)
(そこは、さすが勇者。私達も見習いたい点だわ。今後も陰ながら協力し、任務を遂行しましょう)
(((了解)))
その後も、魔動馬車は順調に走行している。周囲には魔獣の気配は無いようだ。しかし、最後のサービスエリアに近づいたあたりで、気になる反応を見つけた。サービスエリアの近くの側道で止まった動物の反応。先程の速度から予想して、これはたぶん馬車だろう。付近にはアルマジロが多く生息しているので詳細は自分達で確認するしかない。
(サービスエリア側の側道に何か居そうだ)
(あんな何も無いところで)
(アルマジロ?)
(また魔獣の類だったら嫌だわ)
(念のため確認しましょう)
サービスエリアに到着した。ヨシオとロッソRは『アルマジロの森』に向かっているようだ。私達は、側道を確認するため丘を回り込んだ。
「馬車が見えるわね」
「何をしているのかしら?」
「見て丘の斜面!あれって?」
「人がいる?四人」
「「「「盗賊!」」」」