11-1話
遡ること、ヨシオ達がニシノリゾート共和国オモイザワ村行きの馬車に乗るため城を出た頃。
私は『赤い少女隊R』のリーダーのクレナイR。これからいつものメンバーのルージュR、ヴェルメリオRそしてエリュトロンRと一緒にキタノオンセン帝国への潜入調査を開始する。キタノオンセン帝国へは直接入れないため、ニシノリゾート共和国オモイザワ村を経由して潜入する。ロッソRと勇者ヨシオは別行動だが、そちらを陰ながらサポートするのも私達の任務だ。
赤い少女隊Rの四人は馬車ターミナルの建物の陰に集合していた。
「皆、準備はできましたか」
「「「ハイ」」」
「それでは、打ち合わせ通り私(クレナイR)はルージュRとペア、ヴェルメリオRはエリュトロンRとペアで行動します」
「「「ハイ」」」
「ヴェルメリオRとエリュトロンRは、予定通り先に乗車し車内に不審物等が無いか、あるいは逆に防具や武器がどれだけあるか確認。私達は周囲を調査し、ロッソRとヨシオが乗車した後で向かいます」
「「「了解しました」」」
ヴェルメリオRとエリュトロンRは、早速、魔動馬車に乗り込んだ。私達は魔動馬車の周囲を少し離れて調査している。魔動馬車の客車は外から見ると金属むき出しの箱型の形状だ。室内から外の景色が見えるよう大きな窓ガラスが幾つも付いている長距離馬車の仕様だ。
私とルージュは各種魔道具で馬車と周囲を調査した。特に問題は無いようだ。大丈夫だとは思うが、怪しい魔法陣や魔動機械などが設置されている可能性もあるため、用心するに越したことは無いのだ。
しばらくするとヨシオとロッソが来て、馬車に乗り込んだ。見る限り凄く仲が良さそうだ。ちょっとうらやましいかも。ムカつくので、後でシャム姫には報告しておこう。
その後、他の乗客が乗ってきた。全員ひ弱そうな男、しかも顔も微妙。金も持って無さそうだ。すこしがっかりして、私達はその後に乗車した。
馬車客室の内部はクラッシックなデザインで、木を多用したしゃれた内装である。シートは長椅子が三つ、客車の外壁に沿ってコの字に設置されている。ヴェルメリオRはエリュトロンRは車内を調査し終え、最後尾の長椅子に座っているようだ。
(ヨシオは初の潜入捜査でウキウキしているようね)
(ロッソRもオモイザワ村でのケーキ目当てでウキウキしているようね)
(ヨシオとロッソRの組み合わせはどうかと思っていたけど)
(バカップルぽくて意外とイイ感じね)
赤い少女隊Rの馬車内での情報交換は基本的には魔動携帯を使う。NELIという便利なSNSアプリを用いている。
(予定通り一般の同乗者は男が四人。四人全員がオモイザワ村のホテルで働く従業員であることを確認済)
(四人とも体が細くて戦力にはなりそうにないわね)
この魔動馬車は予約制なので、一般人であれば彼女達の情報網と城の情報を利用すれば個人情報は明らかとなる。
(ヨシオが先程から私達をチラチラ見ているわ。気付かれないように注意しましょう)
(その心配はなさそう。頬が緩んでいるわ)
(鼻の下も伸びているわ)
(ロッソRにジト目で見られているわ)
女子の会話は基本、容赦ないので知らない方が幸せなこともある。出発時刻になった。
「私、運転手のロードススムです」
「護衛兼観光案内担当のパーフェクトマモルです」
「「よろしくお願い致します」」
私達が裏で手をまわしたので、運転手と護衛兼案内係は城の関係者となっている。すでに潜入任務の事は打ち合わせ済だ。ロードススムとパーフェクトマモルは私とアイコンタクトし、魔動馬車を走らせ始めた。市街地はかなりゆっくりと、そして高速道路に乗るとすぐに高速巡行を始めた。
「ヨシオ!速いのに乗り心地がいいわ!景色がどんどん流れていくよ」
ロッソRは任務をすでに忘れて単純に馬車を喜んでいるようだ。顔が子供のような笑顔になっている。任務の事は忘れてないだろうか。心配だ。
「たぶん速度は時速二百二十五キロメートルくらいだ。乗り心地はサスペンション、特にダンパーとバネに魔動機械を組み込んであるおかげだ。魔動PCで制御しているのだろうな」
私はその言葉を聞いて驚いた。ロードススムとの事前の打ち合わせで、時速二百三十キロメートルで高速道路を走る手はずだったからだ。このことをヨシオは知らないはずだ。景色を見ただけで何故わかるのか?
また、通常の馬車には付いていないアクティブサスペンションに関する知識もあるようだ。アクティブサスペンションに使われている技術は高度な制御技術であり、ゴーレムや魔動飛行機にも使われているロストテクノロジーなのだ。その仕組みを知っているのはごく一部の研究者、しかも十分には解明されていない。
やはり勇者は特殊な知識と能力を持っているに違いない。女に甘くグルメな人と思わせておいて、明らかに只者では無いような気がする。
他にも、この旅の最中にヨシオの持っている色々な能力が明らかになるかもしれない。私はますます勇者ヨシオに興味を持ったのだった。