10-4話
「それにしてもヨシオはいつから魔獣使いになったのですか?私の情報では犬と遊んでいたデータしかなかったのに。全て調べたはずだったのに、まだまだ私も半人前ですね」
ロッソRは落ち込みながらそう言った。いや、魔獣使いにはさっきなったばかりだから!データ無いのあたりまえだから落ち込まないで!でもせっかくなので格好よく慰めておこう。
「俺は謎多き男なんだ。さすがの君でも俺の全てを明らかにするのは無理さ。今回はロッソちゃんを守りたい一心で実力の片鱗を見せてしまったんだ。これからも困ったことがあったら、俺はいつでも君の役に立つため駆けつけるよ」
ロッソRが恥ずかしそうに笑っている。
「でも目立つと任務に差し障るからあまり本気は出さないで下さいね」
「わかったよ。今度は地味に本気出す」
「ありがとう。実はヨシオに確かめたいことがあったのです。聞いてもいいかな?」
「ああ、いいよ」
今度こそ!これはキタだろー!やっぱ女の子は謎多き男が気になるんだよな。
「午前中はヨシオの国の菓子パンの話だったでしょ。午後からはヨシオの国のケーキの話を聞きたいのです。この世界とヨシオの国のケーキの違いを確かめたいのです!」
「ですよね。さっきからケーキの話の時のみ目の輝きが尋常じゃなかったよね。魔動馬車のサスペンションの話の時なんかあからさまに迷惑そうだったし」
それから故郷のケーキの話をずっとすることになった。確かに甘い会話を通じてお互いの心が通じ合っている。いや、単に菓子やケーキに関する部分の価値観が共有されただけとも言うが。ロッソRはケーキの話をしている間ずっとニコニコしてさらに可愛いらしくなるから良しとしよう。
それから三時間に渡ってケーキの話をし続けた。ケーキは食べてないのに甘すぎて塩辛い食べ物が欲しくなった頃、護衛兼観光案内担当のパーフェクトマモルのから案内があった。
「もうすぐ最後のサービスエリアに到着します。ここを出ますとオモイザワ村までノンストップです。このあたりにはアルマジロがいますから注意してくださいね」
「アルマジロがいるんだ」
「テッポウ魚みたいに狂暴なのかな」
俺達の会話を聞いていたパーフェクトマモルが説明してくれた。
「いえ、全然狂暴ではありません。毒もないしテッポウ魚のような武器も無いです。触ると丸くなるだけです」
「かわいいのね!早く見に行こうよ!」
俺はロッソRに手を引かれて馬車を降りた。看板が出ている『アルマジロの森はあっち』。サービスエリアの駐車場の端の丘の上の小さな森にアルマジロの生息地があるようだ。行ってみよう。俺達は勢い勇んで丘の上に向かった。そして・・・そこには確かに見たことある生物が居た。
巨大なダンゴムシ。体長約1~2メートル。
「ぎえー」
この女の子の声とは思えない声はロッソRが出した声だ。ロッソRは一目散に来た道を帰って行った。ちなみにダンゴムシ、いやアルマジロは攻撃してきたわけでは無い。なん十匹ものアルマジロが俺達が登ってきた斜面とは反対側の斜面で仲良く、もしゃもしゃしているだけだ。何も悪いことしていないのに、なのに嫌悪感があるのはなぜ!
「せっかくなので丸くなるところ見たいよな」
俺は足元に落ちていた木の棒を拾って、そして側にいたダンゴムシ、いやアルマジロをつついた。
「おお、丸くなった!大きいのに、普通に丸くなった!」
(ゴロゴロゴロゴロ)
「あれ?」
丘の斜面で丸くなったアルマジロは、重力の影響で当然斜面の下に向かって転がり出す。そのアルマジロが別のアルマジロに衝突。衝突されたアルマジロも丸くなる。さらに転がる音を聞いてびっくりしたアルマジロが丸くなる。こうしてネズミ算的に斜面に居たアルマジロのほとんどが丸くなり、丘の下に向かって転がり始めた。
(ゴゴゴゴゴーーーーーー!!!!!!)
「雪崩だ!ダンゴムシの雪崩だ!」
数十匹、いやすでに百匹を超えるかもしれないアルマジロが斜面を転がっている。
「ひぃーー!」
ちょっとした出来心だったんです!それがこんな事になるなんて!俺は素知らぬ顔をして丘を下り、魔動馬車へと戻った。馬車に入るとロッソRが一人で震えていた。
「・・・丸いよ・・・虫なのに大きい・・・殺す・・・皆殺し・・・」
「ロッソ!ロッソ!しっかりして!」
「はっ!?私は何を?」
「アルマジロが怖かったようだね。だけど今にもロッソの殺人、いや殺虫スキルが稼働しそうでそっちの方が怖かったよ!でも大丈夫。アルマジロは攻撃してこないから。それにあの森に居たアルマジロは俺が一掃したから」
「さっきの轟音はヨシオがアルマジロと戦った時の音なのね!ありがとう」
「う、うん。戦うまでもなく一掃してやったけどね。だけど恐ろしい動物だったね。アルマジロ」
「私、絶対森には近づかないわ」
「俺もそうする」
アルマジロ、ダメ!絶対!
ロッソRは落ち着きを取り戻した。やがて俺達の乗った魔動馬車には休憩を終えた乗客達が乗り込んできた。ニシノリゾート共和国北端のオモイザワ村までもう少しだ。
◇ ◇ ◇
「イイ女達が乗った魔動馬車は、本当にここのサービスエリアに入ったんだろうな」
「へぇ、それは間違いござやせん。極上の年頃の女が五人ですぜ。あの魔動馬車はオモイザワ村行きの定期便でございやす。毎日、走るルート、休憩場所、時間も同じでございやす」
ヨシオの知らないところで怪しい人物達が動き出していた。