10-3話
俺達はテッポウ魚の恐怖をまざまざと見せつけられ、二度とテッポウ魚の居そうな水辺に近づかないことを二人で誓いあった。テッポウ魚は怖かったけど、幸いなことに二人の距離は縮まったのだ。しかし、すぐに次の危機が迫って来ていた。
「キャー!シルバーウルフがこっちに来るわ!」
見るとテッポウ魚に攻撃されて苛立っていたシルバーウルフが展望台に向かって谷底から這い上がって来ている。
「ヤバい!皆、建物の中へ避難しろ!ロッソも早く逃げろ」
「ヨシオは!」
「俺は奴を引き付ける!さあ、早く建物へ!」
「わかった。頑張ってヨシオ!」
幸い建物の近くだったので非難はすぐに完了した。俺は一人で魔動馬車の方向に走り、シルバーウルフを引き付けた。シルバーウルフがこちらに向かってきているのを確認し、急いで魔動馬車に乗り込みドアを閉めた。
中には護衛のパーフェクトマモルが待機していた。
「何か手伝いましょうか!」
「いや、俺に考えがある。このままで大丈夫だ」
俺は窓を開けて顔を出した。
「馬鹿犬め!こっちだ!」
俺は魔動馬車の窓からシルバーウルフを挑発するように大きな声を出した!あ、怒ってるかも。もしかして人間の言葉理解できるのだろうか?シルバーウルフは魔動馬車の側まで来てうなっている。馬サイズの狼が窓から顔を出している俺に今に向かって飛びかかろうとしている。
「今だ!」
俺はカバンから取り出したフリスビーを谷に向かって投げた。もちろんメンクイーン製の量産型フリスビーだ!
「わおーーーーん!」
本能には逆らえずシルバーウルフは突然投げられたフリスビーを追いかけた。しなやかにそして疾風のように崖の斜面を下り、フリスビーを追って谷底へと走って行った。ロッソRと一緒に遊ぼうと思って持ってきていたフリスビーがあって良かった。
「シルバーウルフが去って行ったぞ!凄い!」
「誰だあれは!」
「きっと魔獣使いよ」
「イケメン様かしら」
「いやイケメン様にしては平凡な顔だわ」
これで危機は去り平和になった。ちょっとイラっとする声も聞こえたけど。しかし、それはつかの間の平和でしかなかった。
「きゃー!」
「またキター!」
シルバーウルフがフリスビーを咥えて崖を這い上がり、再び魔動馬車まで戻ってきた。そして、咥えていたフリスビーを魔動馬車の窓から車内に入れて、お座りしている。
投げてもっとフリスビー投げて!って言っているような気がする。尻尾がブンブン振られているよ。
いつか見たこの展開!まさか本物のシルバーウルフでやることになるなんて!俺はフリスビーを手に取って、今度は駐車場の端の方へ軽く投げた。
「・・・」
知らんぷりだよ!谷か!谷底がいいのか!俺は魔動馬車を降り、駐車場の端までフリスビーを取りに行き、そしてまた魔動馬車まで戻ってきた。
「今度は思いっきり投げるぞ!取れるものなら取ってみろ!」
俺は谷の方向に向かって思いっきりフリスビーを投げた。
「わおーん!」
再びシルバーウルフがフリスビーを追いかけ始めた。その時、突風が吹いた!フリスビーは風に乗り遥か谷の向こうまで届きそうな勢いだ。しかし、シルバーウルフは猛然と谷を下り、川を飛び越え、そして反対側の崖を登り、そのままジャンプして対岸の崖の上でフリスビーをキャッチした!フリスビーは風に乗って一キロメートルくらい飛んでいたのに!
「何この大自然のフリスビードッグ、スケール大きすぎ!さすが異世界!犬の散歩でさえ超楽しい!」
こんな大規模な犬の散歩をするのはこの異世界でもヨシオだけだろう。しばらくすると、シルバーウルフは嬉しそうに尻尾を振りながらまたしても俺の前に現れた。
「偉いぞ!シルバーウルフ!今日からお前の名前はポチだ!」
俺はポチの頭をさすってやった。嬉しそうだ。
「行けポチ!」
「わおーん!」
その後、二十回くらい谷に向かってフリスビーを投げ、そして拾ってくるを繰り返した。ロッソRと心が通じ合うより先に魔獣と心が通じ合ったよ。
「もう俺、魔獣使いって名乗ってもいいよね!」
シルバーウルフは満足したのか、フリスビーを咥えて森に消えて行った。
「魔獣使い様、助かりました!」
皆さん、口々に俺に感謝している。
「実はたまたま犬と遊ぶおもちゃ、フリスビーを持っていたのが勝因です」
「その円盤、フリスビーはどこで手に入るのですか?私達も身を守るために手に入れたいのですが」
「街の雑貨屋で手に入ると思います。また、ハートフルピース王国の城の売店でも販売しています。ちなみに、ゴリマッチョ戦隊の五色バージョンもあるそうです」
「「「・・・」」」
人気が無い!全然人気が無いよ王様直属のゴリマッチョ五人戦隊!その時、ロッソRが俺の前にスッと出てきた。
「赤い少女隊Rの赤五枚組バージョンもあるそうです」
「「「おおおーーー!!!」」」
さすが赤い少女隊Rは人気があるようだ。
「シルバーウルフから身を守るため一人一枚フリスビーを準備しておきましょう!皆さまこぞってお買い求めください」
俺達はフリスビーの宣伝をして魔動馬車に乗り込んだ。