2-1話
「凄い魔法でした!さすが勇者ヨシオ様!」
「シャム姫様を守ることは当然の勤めです」
王女のシャム姫様が嬉しそうにしゃべっている。先ほど城内のこの会議室では三人の暗殺者に関する報告がなされていた。城内のけが人は数人いたが、死亡者はいなかったようだ。それよりも、俺の活躍がやたらと誇張されて報告され、少し気恥しい状況だった。
「あの暗殺のプロ達を、手を触れることもなく撃退してしまいました!素敵すぎです!」
「姫に指の一本も触れさせるわけにはいきません」
会議は終了し解散したが、姫様は当時の状況を思い出したのか、興奮してしゃべっている。しかし刃物を持った男三人とか元コンビニ店員としてはハードル高すぎだ。最悪でもコンビニ強盗は二人までで、普通は一人だ。ルール守れ!
ピンチを運良く乗り切れたのは、ケロンアルファ・ジェル状が50グラム仕様だったからだ。10グラム仕様だったら足りなくて完全にやばかった。しかし、俺はそれを顔に出さず平静を装っている。
「召喚勇者として当然のことをしたまでです。俺は都合が良く便利な男なのです。困ったときはいつでも呼んでください」
「はい!頼りにしています!」
王女の目がキラキラしている!いけるような気がする!いや、待て待て焦りは禁物だ。第二の人生なので、じっくりとやっていこう。
「ところで、この国の防衛体制はどのようになっているのですか?」
「はい、王のヒツジキング三世の下で準備を整えているところです。王は見ての通り体力には自信があるので幹部兵を直接鍛え、その幹部兵が中間管理兵を鍛え、その中間管理兵が普通の兵を鍛え、その普通の兵がパート兵を鍛えています」
「なんだかコンビニチェーン業界のようだな。懐かしい」
「コンビニチェーン?」
「いえいえ、お気になさらずに。それで十分な数の兵は集まったのでしょうか?」
「はい、十分な人数が集まり兵も鍛えられています。問題は唯一の武器である剣なのです」
「剣の数が足りないのですか?」
「いえ十分あります。ただし古くて使い物にならないのです。リンゴも切れないほど刃がダメになっているのです」
「刃がダメになっている?」
「はい、ハートフルピース王国は昔は強国だったので軍事力も強大でした。その後、平和が続きましたので現在は常備兵も少なく、したがって武器職人もほとんどおりません。城の武器庫に保管してあった古い剣を使うことにしたのですが、古すぎてダメになっていました」
「そうですか」
「多くは錆びていて研いでも使えるのかどうか。また、硬すぎて研げないのもあるらしいです。しかたなく新しい剣を輸入したり、国内で製造したりしているのですが、当面、数が足りないのです」
そういえば、俺の部屋にあった剣、重いばかりで刃は錆びてて全然切れなかったな。
「てーへんだぁ!てーへんだぁ!」
警備兵が会議室に飛び込んできた。なんだか、ほのぼのしているなぁ。
「どうしたのですか?」
「敵の小隊が密かにこの城に向かっているという情報を得ました。先に捕まえた二人からの情報です」
「小隊ならば十~二十人くらいね。こちらの兵の数は十分だけど」
「はい、しかし奴らはこちらの武器が不十分であることを知っています。前回の暗殺者三人は軽装の皮鎧で速度を重視し、一気に勇者様の部屋まで到達しました。今回も人数が増えただけで同じ戦法でしょう」
「良い武器のほとんどは国境沿いの兵に持たせています。ここで使える剣が足りないわ。まさか連続して城に直接狙いに来るなんて」
「俺を武器庫に連れて行って下さい。何かお役に立てるかもしれません」
「わかりました。私がお連れしますわ。暗殺ならば敵はきっと夜に来ることでしょう。まだ時間はあります」
俺と姫は武器庫に向かった。