9-6話
「シャム姫様。取材が入っていますので城の一階のロビーに来てください」
「えー、もうそんな時間!今行きます!」
打ち合わせの最中、趣味でマネージャーをやっていると思われるスワン王妃に呼ばれ、慌てて部屋を飛び出し次の仕事に向かったシャム姫。
「勇者殿、早速作戦会議ですか。素晴らしい行動力です。ロッソRはまだまだ新人で至らぬところもあると思いますが、人前に出しても恥ずかしくないよう教育を施してきました。不十分なところもあると思いますが、よろしくご指導のほどお願いいたします」
「ロッソRさんのことは任せて下さい。っていうか、結婚式で母親が言う言葉みたいじゃないですかスワン王妃、ははは」
「もう。母さん余計な事を言わないで」
「え、母さん?なの?」
「私はもう一人前に仕事ができますよ。今回だってリーダー直々の指名で他のメンバーとは別行動をすることになったのよ。すごいでしょ!」
「あらあら!それは良かったわ。無事に帰ってきたらお祝いしないとね。二人とも頑張ってね。うふふ」
スワン王妃は手を振りながら笑顔で去って行った。
「もしかしロッソRって、王のヒツジキング三世とスワン王妃の実の娘?」
「・・・そうなんです。二人とも過保護なんです。私は色々やりたいのに、特に剣の腕を磨いて女剣士になりたかったのに」
「それはそうでしょう。人を守るより守られる立場だし」
「それでも父や母にしつこく交渉しました。家族会議の結果、情報収集・分析の技術を身に着けるのは王族と言えども重要ということで、情報収集部門での見習いは許可してもらえました」
「情報収集・分析か。それなら安全だ」
「そこで色々学んで周りが驚くくらい短期間で情報理論を身に付けました。へへ、私は頑張ったら出来る子なのです!それで、父と母にも認められて、最近になって赤い少女隊Rに入隊できたのです。もう夢のようです」
「可愛いのに頭も良い。時々いるんだよなぁ。才能が羨ましい」
「でも赤い少女隊Rに入ってから試した剣術と体術は全然ダメでした。リーダーからは諦めろと言われました。女剣士への道は遠いです」
「赤い少女隊Rに入れたのに女剣士まだ諦めてないのか」
「女剣士カッコイイし。そうだ、勇者様が教えてください。いつもは弱いふりしているけど本当は強いんでしょ?私、色々と知っているんですよ」
「いや、まじ無理だから。これから一緒に行動するから言っておくけど、俺、本当に弱いんだ」
「そ、そうなんですか?弱いふりして本当に弱いのですか?」
「ああ、弱いさ!でも弱いなりに頭を使って頑張ってるんだ」
「うーん、そうなのかな。敵と戦ってこれまで一度も負けていないはずです。今回の旅でそこら辺を見させて頂きます」
「ああ、見てくれ。俺は戦いよりも食い物の方が好きなんだ。そういえば、ロッソRはケーキが好きなの?」
「はい、ケーキは大好きです。旅先で色々な店のケーキを食べるのを楽しみにしているのです。朝昼晩と三食ケーキでもOKです」
すでにケーキの事を話すだけで妄想が膨らみニコニコしているロッソRであった。
「俺と一緒に行動する時は三食ケーキはダメです」
「え、ダメなんですか?美味しいのに」
「そういう問題ではありません。カロリー取り過ぎなうえ糖分取り過ぎです。しかも普通じゃないので目立ちます。でも懐かしいなぁ」
「懐かしい?」
「ああ、俺の故郷にも甘いもの好きな人が居たことを思い出してね・・・」
「そうなのですか」
「俺がこの国に来てから色々と忙しくて・・・。今頃、皆、どこにいるのかなぁ。暇を見て探しに行ってみようかな」
第一話で一緒に時空の歪みに飲み込まれた人達を思い出しながら、仕事の時『だけ』は皆、仲良くしてくれたなぁと思い出に浸るヨシオであった。
昔から自身の周りには美人や可愛い子が沢山いた。しかしチャンスは沢山あるのに全くモノにできていない。異世界においても女性に対するモテスキルは全く取得できる気配は無いようだ。
「探し人がいるなら今からでもゆっくり探せばいいですよ。情報収集は得意なので私も協力できます。今回の旅行先にも何かヒントがあるかも。帝国の情報収集ついでに調べましょう」
「ありがとう」
「気になったことがあったら私にも教えてくださいね」
「わかりました。よろしくお願いします。もう故郷の人達とは会えないと思っていたから会えたらうれしいだろうな」
「ちなみに、城の周辺では何か手掛かりはなかったのですか?」
「『天ぷらキング』がちょっと気になります」
「そうですよね!あれは色々怪しいです。異国庭園に異国料理の天ぷら、味噌汁なんて異質です。別の国の料理なのは間違いありません。私も以前から目を付けていたのです」
ロッソRの目がギラリと光った。どうやらロッソRも『天ぷらキング』を調査していたようだ。あそこには何が隠されているのだろうか。調査目的はいったい何だったんだろうか。
俺は調査目的を聞き出すべきかどうか考えながらロッソRの目を正面から見つめていた。急に見られたロッソRは顔を紅くし、ドギマギしながら言った。
「もしかして、勇者様は私の気持ち知ってたの?」
あ、これ勘違いさせちゃったかな。ロッソRちゃんめちゃくちゃ可愛いし、実はちょっと期待していたというか望むところだけど。モテる男はつらいぜ。