9-4話
俺は城内の一室で防衛会議に参加している。といっても、戦に関しては素人なので聞いているだけだが。
「・・・というわけで、現在のところゲリラ的な戦いが所々で見られますが、本格的な敵の進行は宣戦布告した初日以来は見られません」
「敵の出方が読めなんな。そもそもなぜ我が国に突然宣戦布告をしたのかも不明だしな」
「困ったのう。こちらも別に戦いたくて戦っているわけじゃないしのう」
ヒツジキング三世も魔術師シバも無言で何か考えているようだが、良いアイデアは見つからないようだ。
「勇者ヨシオ殿は何か考えはないか?」
ぼけーっと聞いていたら、いきなり王からコメント求められたよ。やばい、半分寝ててよだれが。
「えーっと、こちらに戦う理由がないならば、相手に戦う理由があるのでしょう。それを調査してはいかがでしょうか」
「そうなのだが、どうやら敵国のトップである帝王は、部下を通じて戦闘命令を出しているだけで、敵の兵でさえ宣戦布告の理由は知らぬようなのだ」
「敵国内での情報収集および敵の城内への侵入は継続的に行っているが、それらしい情報は得られなかったのじゃ。ただ帝王が城内に居ないことはわかった」
「うーん、謎ですね。そもそも隣国とは大きく価値観が異なるのでしょうか?」
「全く異なる。この国の男子は太マッチョやゴリマッチョを目指している!しかし、奴らはなんと細マッチョだぞ!細マッチョ!中途半端にも程があるわい!」
どうでもいいような気がする。というか、マッチョなところは価値観同じだ。
「しかもじゃ、ハートフルピース王国では広く一般市民の中から姫候補を募り、成長を楽しみながらセンターを皆の投票で決定しているのは知っているじゃろ」
「はい。伝説のプロデューサーであるナツモト・タカスィーが考えたとお聞きしました」
「そうじゃ。あの伝説の天才プロデューサーが考え出したのじゃ。一方、隣国の奴らは姫候補として幼い頃から英才教育で育てた貴族の娘の中から有能な数人を王族が選び、それらを競わせて最終的に王が姫を決めるのじゃ。あちらで言う天才プロデューサーのテンク♀が思いついたらしい。しかし、こんなのは言語道断じゃ!」
テンク♀方式!いや、むしろ姫様を決めるならテンク♀方式の方が正しいだろ!ってゆうか、広い意味で両国の価値観は一緒すぎる。
「ますます分からなくなってきました。それでは帝国やその周辺国も含め一般人から情報をもっと広く得てはいかがでしょうか?例えば旅行者のふりして街を調査するとか。何かヒントがつかめるかもしれません」
「なるほど。しかし、そうなるとハートフルピース訛りが無く太い筋肉がついておらず、にもかかわらず強い人材が必要だな」
見られているよ。皆から見られているよ。確かに訛りは無いよ。痩せてるからこの国出身とは思われないよ。でも俺、元コンビニ店員だから。攻撃力はほぼゼロですから!でも言えない!行きたくないけど言えない!
「実はナガグツ半島でヨシオが大活躍した報告を聞いてから、敵国の情報収集も頼もうと思っていたところなのだ。というわけで、頼むぞ!勇者ヨシオ!敵国であるキタノオンセン帝国へ潜入し情報収集を頼む!」
何それ北の温泉帝国?ちょっと興味が湧いてきたヨシオであった。
◇ ◇ ◇
「変装すればばれないわよ」
「いや、バレバレだから!どうやってもアイドルオーラ出ちゃうから!そもそもスケジュール合わないでしょ」
俺の部屋で隣国の温泉帝国・・・キタノオンセン帝国へ旅人として潜入することをシャム姫に話した。すると、本人も一緒に行きたいと言い出した。温泉が目当てなのは見え見えだ。
「宣戦布告されている隣国ですよ。長旅ですよ」
「でもキタノオンセン帝国には美肌の湯とか泥パックとかあるらしいし」
「美肌になるとか美人になる温泉とか言うのは客寄せ文句ですから。そんなに効能があるなら温泉の周りは美人だらけになっているはずです!」
「それもそうね。じゃあ一人で行くの?」
「いや、俺一人じゃ地理が分からないので道案内が一緒に来てくれるらしいです。確かロッソRって言っていました」
「なるほど、『赤い少女隊R』のメンバーね。それなら安心だわ」
「なんかカッコイイ!あのゴリマッチョ五人組の他にも戦隊があるんだ」
「ええ、女性の戦隊、というか特殊部隊よ。彼女達は本名ではなくコードネームで呼ばれているわ。ロッソRの他にクレナイR、ルージュR、ヴェルメリオR、エリュトロンR、全て各国の言葉で赤っていう意味。全員が情報収集のプロよ」
「なんかカッコイイし分かりやすい!じゃあRって付いてるのはレッドか?何かの頭文字なんですね」
「意味は無いらしいわ。初期の頃のメンバーの誰かがテレビアニメを見てカッコイイからと名乗り始め、それが定着したらしいわ」
それ美少女戦士ナントカカントカ・リターンズのRだよ!
「そんなことがあるんだ。しかし王様の所がゴリマッチョ五人組なら、赤い少女隊Rもマッチョな感じでしょうか。メスゴリラっぽかったら怖いし仲良くできるかな」
「見かけはアイドルと言われても納得するくらい全員が華奢で可愛いわよ」
「ナ、ナンデストー!」
五人のアイドルなみに可愛い女性達と一緒に長期間のお仕事!これって一緒にいるうちにフラグが立ってその後色々あっていい感じになるやつに違いない。いや絶対そうだ。
この任務を与えてくれてありがとうヒツジキング三世。正直単なるマッチョなオヤジかと思っていたけど、これからはマッチョ様なオヤジとして讃えます!ありがとう!