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9-1話

「もう!酷いですよ!置いて帰るなんて!」


 俺は自室にシャム姫と城の料理長タベタリーナを招いて今後のトマトケチャップ計画について打ち合わせしているのだが、一方的にタベタリーナに責められている。


「あの時は急遽、パルア村に行く用事が出来てしまいまして」


「それはいいとして!なぜ、そのまま城へ帰るのですか!一旦、ミヲノに戻ってから行けばいいじゃないですか」


「いやー、すっかり忘れてて・・・あ」


「やっぱり!忘れていたのですね!酷い!」


 一週間前、ナガグツ半島にあるタベタリーナの実家の農場へトマトケチャップの試作のために行ったのだが、色々あってタベタリーナを置いて俺とシャム姫は城に帰ったのだ。本日、タベタリーナはナガグツ半島から城へと帰ってきた。


「まあまあ、トマトケチャップの熟成に一週間かかるからちょうど良かったじゃない」


 シャム姫が助け舟を出してくれた。


「シャム姫様も酷いです」


「ふふ、あなたの母親には事前に連絡しておいたのよ。それに有給休暇の届は私の方から提出済だから大丈夫ですよ。ゆっくり休めたでしょ」


 どうやら、これはシャム姫の計画的犯行のようだ。タベタリーナを休ませると同時に、母親であるタベタガールのポイントを稼ぎ、流行の情報、あわよくばアクセサリーとか服とかを頂こうという魂胆に違いない。


「やっぱり休息は大切ですね。タベタリーナさんは以前より肌がつやつやして、髪の毛の金色もより一層鮮やかでキラキラしてますよ!」


「そ、そうかしら」


 少し機嫌が直ってきた。


「リフレッシュした今こそ任務を遂行する時です。取り急ぎ作った『ヨシオのオムライス』は完成品ではないのです。新しいトマトケチャップを使って完成させた『真ヨシオのオムライス』を国中に広めるのはタベタリーナ、君なんだろ!」


「そうでした!」


「以前のような疲れた状態で真のオムライスが完成させられるのか!いや完成出来ない!そのためにも必要な休息だったのだ。シャム姫様は全てお見通しだったのだ。姫様に感謝するがいいでしょう」


「シャム姫様!そうとは知らず、大変失礼いたしました。全身全霊をもって『真ヨシオのオムライス』を完成させたいと思います」


「え、ええ、前からそう思っていたわ。完成、楽しみにしているわ」


 シャム姫が迷惑そうな、でも少し生暖かい目で俺を見ている。シャム姫の好感もゲット・・・少しぐらい、したに違いない。


「オムライスに関して、俺の役目はすでに終わりました。あとは全て料理長タベタリーナに任せるのでよろしくお願いします」


「お任せ頂きありがとうございます。勇者ヨシオ様、シャム姫様、期待に応えてみせます!それでは私はこれで失礼致します」


 タベタリーナは部屋を出て、城のレストランの方へと足早に去って行った。


「私も、今からレッスンがあるから行くわ」


 シャム姫も部屋を出て行き、入れ替わりにいつもの連絡兵が来た。


「ヨシオ様、城の財務局会計部会計課会計係にお立ち寄りくださいとのことです」


「わかった。すぐ行く」


 そういえばオムライスの売り上げに応じて給料増やしてくれるって王様が言ってたな。たぶんその事だろう。財務局会計部会計課会計係・・・城の事務組織ってやっぱり大きいみたいだな。


 ◇ ◇ ◇


 ここは財務局会計部会計課会計係。


「ツツゴウヨシオです」


「お待ちしておりました、勇者ヨシオ様」


「城に財務局とかあったのですね」


「いえ、財務局はありませんよ」


「え、じゃあ、会計部は」


「会計部も、そして会計課もありませんよ。ここは財務局会計部会計課会計係という名前の独立した部署です。大きな組織の一部ではありません。よく間違われるんですよ。ちなみに三人でやってます」


「紛らわしい!」


「給料の件なのですが、城のレストランのオムライス売り上げが好調で手当てが出ております。先にお伝えしておこうかと思いまして」


「ご連絡ありがとうございます。人気があって良かったです」


「大人気のようです。オムライスの仕込みが間に合わないので、二日目から一食が2千HPDハートフルピースダラーに値上げしたらしいのですが、それでも人気だったらしいですよ」


「2千HPD(≒円)!単なるオムライスなのに!」


「一食につき25パーセントのライセンスということで、500HPD×1,000食×6日ということで、約3百万HPDとなります。ヨシオ様名義の銀行口座も出来ましたので、次回から給料と一緒に入金しておきます」


「約3百万HPD!た、単位間違えてないですよね!」


「ええ合っています。新人兵の年収を6日間で稼ぐとは素晴らしい。おかげでレストランの利益も上々です。ふっふっふ。これからも新作料理、期待しておりますぞ。グルメ勇者殿!」


 もうグルメ勇者じゃないって言えないくらい料理レシピが貢献しちゃってるよ!トマトケチャップも確実に貢献するよ!さらに新作料理の期待もされてるよ!


「え、ええ、出来るだけがんばります」


 俺は微妙な気分で窓口を後にした。それにしても日本円にして三百万円だ。すごい金額だ。【スキル】[コンビニ]がナガグツ半島で十万円くらいするチーズを取り寄せることができたのは、このためだったのか。


 しかし、懸案の一つであったお金が無くて[コンビニ]が使えなくなるという事態はこれで避けられそうだ。さらに勇者をクビになってもオムライスとトマトケチャップのライセンス収入でしばらく食いつなげそうだ!俺はご機嫌になった!スキップしながら城の自分の部屋へと向かった。


 その後ろ姿を柱の陰から見ている怪しい影があった。影はヨシオの後を尾行し始めた。

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