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8-5話

「どうやら、薬が効いて回復し始めているようです。これで安心です」


「ありがとうございます、勇者ヨシオ様、シャム姫様、(ゲホッゲホッ)」


「お母さんも病気のようですね。念のためこの薬を飲んで下さい。この薬は病院でも効果を確認しています。病気を自動的に判別して、それに対応した処置をする機能が含まれています。だから、ナガグツ風邪以外にもある程度効果があるはずです」


「いえ、そんな高価な薬は・・・私の方は大したことないのです。少し調子が悪いだけで、休めば良くなりますので(ゲホッゲホッ)それより治療費は・・・後でお支払いしますが、今はお金が無いので少し待って頂けませんでしょうか?」


「俺の役目は国を守ること。国民も当然それに含まれている。だからお金はいらない。これは俺の任務なのです」


「いえ、私は大丈夫なので・・・」


 俺は薬を母親に渡した。母親は躊躇しながらも俺のあまりのしつこさに諦めて薬を飲んだ。しばらくして眠り始めた。顔色は少し良くなったような気がする。


 俺は母親をスキャンした。


【性別】女

【種別】人

【年齢】35歳

【レベル】C

【スキル】[イケテルOL]

<状態異常:肺がん(回復中)>


 肺がん!なのに(回復中)!肺がんに効くの!?この市販薬!


 俺達は心配だったのでしばらくここに留まることにした。一時間くらいしてバーコードリーダーでスキャンしてみたところ、母も娘も状態異常の表示は無くなった。完全に回復したようだ。後は体力の回復を待てば良いだろう。


 先に娘が目を覚ました。


「あれ?何だか調子がいい。病気が治ったみたい!って、シャム姫様?グルメ勇者?本物?どうして!どうしてここに!」


 ヒカゲが驚いている。もうグルメ勇者でいいよ。


「僕が連れてきたんだよ姉ちゃん!」


「コジローが!?」


「ああ、本当だ!俺は本物の勇者ヨシオだ。コジローは頑張って歩いてミヲノの病院まで来たんだ」


「そして私も本物のシャム姫よ。コジローは立派な弟ね!」


「ありがとう!コジロー!」


 二人は手を取り合ってぴょんぴょん跳ねている。しばらくして母親も目を覚ました。


「お母さん、調子はどうですか?」


「勇者ヨシオ様。すっかり良くなりました。私の病気は治ったのでしょうか?以前、魔術師に見てもらった時にはもう治らないかもしれないと言われたのに」


「完全に治りました。もう心配はありません。それにしても生活はこれまで大変だったようですね」


「はい、恥ずかしながら。申し遅れましたが私の名前はミランダクーと言います。二人の子供を育てるため、ここで自給自足の生活をしながら余った野菜を街に売りに行き、わずかな現金収入を得ていました」


「ご主人は?まさか亡くなった?」


「いえ、元気です。夫は歌手になる夢を追いかけ都会へ出て行きました。半年に一度、小遣いをせびりに帰って来るだけです」


「そうか。結局は一人で子育てか。大変でしたね」


「子供達を育てるのは幸せなことです。ただ、貧乏なのが子供達に申し訳なくて・・・野菜は沢山採れるのですが重いうえ遠くに運ばないと高く売れません。男手が無いと大変なのです。最近、私は体調が悪くなり街に行けなくなりました。私に代わってコジローとヒカゲが街に野菜を売りに行ってくれていたのです。そんな時、娘が体調を崩しました」


「街でナガグツ風邪に感染したのね」


「娘は私のせいで病気になったのです。優しいコジローは一人で街まで野菜を運び、野菜を売ったお金で病気を診てもらおうとしたのでしょう。娘を助けるため、あんなにボロボロになって・・・お金なんて全然足りないのに、頑張っても無駄だったのに。私は生きることを半分諦めていたのかもしれません」


「コジローは諦めてなかった。だから俺達と会えた。無駄では無かったのだ」


「そうですね。子供達のためにも私はもう諦めません。勇者様と姫様にはいくら感謝してもしきれません。このご恩は一生かかってでもお返し致します。とはいえ、ここには野菜くらいしか無いのですが」


「ヨシオ様、何か方法はありませんか?あまりにも不憫です。グルメ勇者なら野菜を使った特産品になりそうなレシピの一つや二つあるのでは」


 シャム姫が期待した目で俺を見ている。


「そうですね。でも生鮮野菜だしなぁ。ちなみに、野菜はどうやって食べているのですか?」


「塩漬けにしたり、鍋にすることが多いです」


「生野菜をそのまま食べることはありますか?ビタミン類を採るには火を通さない方が良いのだが」


「いえ、ほとんどありません。ナガグツ半島名産のトマトなどと一緒に煮込むのが一般的です」


「それだ!玉子はありますか?」


「はい、養鶏場はこの近くにありますので玉子は手に入りやすいです」


 俺はそれを聞いて閃いた!故郷ではこれの中毒になる人が続出するくらいのレシピだ。本当に伝えて良いのだろうか。しかし、こちらの世界にまだ存在しないならば、発明されるのは時間の問題だろう。この異世界に生きる人の生き方を変えるかもしれない。


 俺はその禁断のレシピを伝えることにした。

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