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1-3話

 シャム姫が俺の部屋に来た。


「あれ?王女?シャム姫様?何を急いでいるのですか?」


「ヨシオ様!大変です!暗殺者がこちらに向かっています!」


「暗殺者!」


「勇者召喚が成功したという情報が隣国に伝わったようです!まだ勇者のレベルが低いうちに暗殺するつもりです!すぐに身を隠して下さい!」


 城内にスパイが紛れ込んでいたのだろう。すでにどこからか騒ぎが聞こえる。


「もう、近くに来ているようだ。外に出るのは逆に危険かもしれない。武器は重くて持てないし。何か方法は無いものか!」


 単なるコンビニ的な名前のコンビに店員には異世界召喚はハードル高すぎーーー(涙)。しかし、生き残るには考えるしかない!考えるんだ!俺の得意な事は何だ!何なんだ!そうだ!


 俺は便利で都合が良い男だ!


 その時、握りしめていた俺の左手の手のひらが不意に熱くなった!同時に、メガネの内側に文字が表示された。


【スキル】[コンビニ]発動。


「きたーーーーー!」


 俺は思わず叫んだ。左手の拳を恐る恐る開いた。すると、手のひらにバーコードが浮き出ていた。反射的にポケットの中からバーコードリーダーを取り出し、バーコードにかざしてスイッチを押した。


「ピッ!」


 バーコードが正常に認識された!バーコードは消え、そこには、


『瞬間接着剤ケロンアルファ・ジェル状』


 が出現した。しかも、50グラム仕様!コンビニでこんなに大きなサイズの瞬間接着剤を扱うのは俺の勤めていた店くらいだろう。


「何ですか?それは?見たことない文字が書いてあります!もしかして武器ですか!?」


「残念ながら武器ではありません。けど何となくわかってきた。これは便利なものだ!姫様、部屋の一番奥に移動して下さい。俺はこれで奴らと戦う!」


 シャム姫は部屋の入口から一番遠いところに移動した。俺は部屋の中にある机や椅子を移動させたり、重すぎて使えない鎧や剣を移動させ、戦うための準備を整えていった。


 しばらくして、ドアが開いた。三人の男が邪悪な表情で立っていた。手にはそれぞれショートナイフを持っている。


「その見かけない服、そして後ろにいる王女。つまり、お前が召喚勇者だな」


「貧弱な体。予想通りレベルが低いようだな」


「剣は長椅子の上に置きっぱなしか。ふふ。危機感も無いようだな。姫はいただく。お前は死ね!」


「お前ら、初対面なのにいきなり失礼だな!」


 一人がナイフを構えていきなり俺に襲い掛かってきた。その時!


「ぐあぁ!」(ガツン!)


 向かって来た男は何もないところでなぜかコケてバランスを崩し、勢い良くテーブルで頭をぶつけた。先ほど入口の床の一部にケロンアルファを塗布しておいたのが原因だ。


「貴様!魔法使いか!?」


「ふっふっふ。俺は最高に都合が良く便利な男だ。舐めるなよ!」


「いや、奴はまだ召喚されたばかりのはずだ!大した魔法は使えないはずだ!」


「気を付けろ!剣術のスキルは低レベルでもやっかいだ!ソファーの上の剣を渡すな!」


「そうだな、落ち着いて対応すれば勇者といえど低レベル。俺たちの敵ではないはずだ」


 暗殺者の一人がソファーに近づき、座面の上に置いてある俺の剣を手に取った。直後に、暗殺者の動きが止まった。


「う、動けない!剣が重い、まるで長椅子と一体化しているようだ!」


 ええ、確かに一体化してます。


「重力魔法か!しかも、剣から手が離れない!あ、顔がぁ」


 剣を取ろうとした暗殺者は、見事なまでにソファーと一体化した。


「舐めるなと言ったはずだ!俺は都合が良く便利なバイトリーダーだ!」


 俺は事前に部屋にあった重い剣を瞬間接着剤で椅子に接着した。そして椅子は床に接着した。さらに、剣の持ち手や椅子のひじ掛け、椅子の横の床にケロンアルファを塗布していた。


「バイトリーダー!?何か良く分からんが凄そうだ!ここは一旦、出直しだ!」


「ま、待ってくれ!置いていかないでくれ!」


 そう言って、暗殺者の一人は逃げて行った。残された暗殺者の二人は部屋の中で動けない状態だ。なんとか助かった。


 さすがケロンアルファ・ジェル状。通常のケロンアルファなら塗った瞬間から固まるが、このジェル状は、塗ってしばらくは固まらず、何かを押し付けた瞬間に固まって接着されるのだ。ふふ、俺はただのコンビニ店員ではないのだ!この道一筋十八年、店内の商品は全て把握済だ!


 その後、暗殺者の二人は兵隊に連れていかれた。実はケロンアルファは水分に弱いのだ。動けなくなった犯人の接着剤は水で剥がれた。


「勇者ヨシオ様!」


 美しいシャム姫がキラキラした目で俺を見ている。部屋には俺とシャム姫しかいない。好感度アップのチャンス!


「恐ろしい敵は撃退しました。もう心配はありません。シャム姫様を守ることができて良かったです」


「ありがとうございました!私、ヨシオ様がいらっしゃったので全然怖くありませんでしたよ。うふふ。早速、王の所にヨシオ様の大活躍を伝えてきますね」


 そう言って、目の前でステップを踏みながらくるりとターンした。スカートがふわりと舞い上がりながら回転した。さすが、アイドル!単なる方向転換でさえ可愛い、可愛いよ!シャム姫!


 よし!ここはシャム姫の手をとって決めゼリフだ!俺は一歩踏み出し、シャム姫の手を握ろうとした。


「うぐっ!!!」


 足が動かない。自ら設置したケロンアルファの罠にかかり動けなくなった。その間にシャム姫は部屋の外へ出て行った。一人残された勇者ヨシオ。地味すぎる勇者の戦いは続く。

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