8-4話
看護師がアイドルと突然出会ったような顔で驚いている。そして、頬を紅くして熱っぽい目で俺を見ている。
そうか、ナガグツ風邪の薬を持ち込んだ俺はすでに有名人なのかな。それとも城での俺の活躍が伝わっているのかな?ふふ。
「『ヨシオのオムライス』でツーチャンを席巻したことで有名な、あのグルメ勇者ヨシオ様ですか!」
「そっちかい!グルメ勇者って何!」
「パルア村はここから馬車で半日かかる所にある山の中腹にあります。標高が比較的高く気温が低いので葉物の生鮮野菜が特産物です!」
「ありがとう。生鮮野菜食べてみるよ」
なぜ俺に特産物を教えてくれるの!いや、そんなドヤ顔されても。俺はグルメリポーターじゃないから。
しかし、この男の子はそんな遠くから来ていたのか。よく見ると男の子の靴はボロボロ、ヒザも擦りむいた跡がある。自分の足で必死にここまで来たのだろう。
「ここは俺にまかせろ。今からすぐに村に行こう」
「ありがとう!勇者おじさん!」
「・・・勇者ヨシオと呼んでくれ」
魔動馬車はすぐそこだ。俺は男の子を抱えて魔動馬車へと向かった。運転手兼護衛のアンゴラが馬車の外で俺の帰りを待っていた。
「魔術師の治療は終わったようですね。シャム姫様もすっかり元気です。ヨシオ様、その子は?」
「パルア村にいるこの子の家族がナガグツ風邪のようだ。すぐに治療に向かいたい。アンゴラ、魔道馬車で頼む!」
「分かりました!そういうことなら一般道ですが全力でやらせて頂きます!いやー、マニュアルで高速走行なんて機会そうそう無いですからね!やっぱり自動運転よりマニュアルですよね!」
アンゴラの目がらんらんと輝いている!まさかハンドルを持つと性格が変わるタイプの人?
「ヨシオ様、出発の準備はできてますわ」
「あーーー!プリンセス娘!シャ!シャム姫様!本物!?」
馬車から顔をのぞかせたシャム姫を見つけ、男の子がびっくりしている!まあ、美人のアイドル兼姫様に突然会ったらびっくりするよな。
「本物よ。よく頑張ってここまで来たわね。偉いわ。名前はなんて言うの?」
馬車から降りてきて男の子の頭を撫でた。男の子は照れて嬉しそうだ。
「コジロー!ぼくはパルア村のコジローです」
コジローは少し恥ずかし気にそう言った。
「行きましょう!コジロー君の家族が待つパルア村へ!勇者ヨシオ様がいれば怖いものは何もないわ」
「直ぐに乗ってシートベルトをして下さい!とばしますよ!」
俺達がイスに座りシートベルトをすると、直ぐにアンゴラは魔動馬車で激走し始めた!途中、四輪四足ドリフト決めたり、山の斜面を走ったり、ウサギのように前の馬車の上を飛び越えたり、あ、もしかしてアンゴラって本名で無くアンゴラウサギっぽい運転する人のことーーー!?
「ヒャッハーーー!!!」
「きゃっほーーぅ!」
世紀末、世紀末なのかここは!なぜコジローは喜んでいる!
マニュアル運転をし始めたアンゴラはもう別人になっていた!今後アンゴラウサギを見ただけでこの恐怖を思い出しそう!
おかげで一時間程度でパルア村に着いた。俺とシャム姫はフラフラになりながらも馬車を降り、コジローの後について家に向かった。アンゴラは馬車で待機だ。コジローの家は村の外れにある小さなボロボロの一軒家だ。
「母ちゃん、姉ちゃん!シャム姫様を連れてきたよ!ついでに勇者ヨシオも」
俺はついで扱いかよ!
「コジロー!昨日からどこ行っていたの(ゲホッゲホッ)馬鹿なことばかり言って・・・ええええ!!!!」
母親らしき人が出てきてシャム姫を見て驚いている。髪はボサボサで顔色もかなり悪いようだが顔立ちは綺麗。病弱美人を絵に画いたような人だ。
「話は後よ!娘さんはどこ?」
「姫様・・・こ、こちらです!」
一部屋しかない部屋の隅で女の子が寝ていた。見たところシャム姫と同じような症状だ。ナガグツ風邪で間違いないだろうが、俺はバーコードリーダーでスキャンした。
【性別】女
【種別】人
【年齢】10歳
【レベル】E
【スキル】[右ストレート][左フック]
<状態異常:ナガグツ風邪>
スキルが俺よりも勇者向きで、しかも二つ持ちなことは気にしないことにしよう・・・
「ナガグツ風邪のようです。この薬を飲ませて下さい」
俺は薬を二つに割り母親に渡した。子供は半分で十分だ。
「わかりました。ヒカゲ、この薬を飲みなさい!」
「(ゲホゲホ)薬?母さん、コジローは?」
「安心して。コジローは居るわよ。さあ飲んで」
「良かったぁ・・・(パク)何これ薬なの?美味しい」
コジローの姉ヒカゲは眠り始めたた。顔色はすぐに良くなった。薬が効いてきたようだ。念のためもう一度スキャンしてみよう。
【性別】女
【種別】人
【年齢】10歳
【レベル】E
【スキル】[右ストレート][左フック]
<状態異常:ナガグツ風邪(回復中)>
(回復中)の文字が!これで大丈夫だろう。