8-2話
「シャム姫様は確かにナガグツ風邪のようだ!」
「最近、この地域で流行っているのです。命にかかわることはありませんが体がうまく動かせなくなり、特に魔術師においては魔法類も使えなくなります。酷い時は、これが一年以上続きます」
「そんなに凄い伝染病なんだ!体がうまく動かせないなんてトップアイドルとしては致命的だ。でも薬を飲めば治るだろ。近所の薬屋はどこだ?」
「ヨシオ様!ナガグツ風邪に効く薬など聞いたことありません。そもそもナガグツ風邪は、ここ数年の間にナガグツ半島のみで流行り始めた病です」
「それでは治す方法は無いのか!?」
「今のところ、この街の病院の魔術師から魔法で特別なヒールをかけてもらうしか対策はありません。それならば完治します。しかし、他の街の魔術師では対応できないのです。城に帰っても治せません」
「この街の病院の場所はわかるか!?」
「はい、魔動タブレットのマップで確認します!」
マップによると病院は五件あり、そのうちの一つは街に入ってすぐの所、この近くだった。
「俺が病院に行って、先生?いや魔術師か、を連れてくる!姫をたのむ!」
「わかりました!」
俺はシャム姫をアンゴラに任せて街に入った。病院はすぐに見つかった。しかし、なぜか病院の入口には多くの患者が並んでいた。俺は並んでいる人の一人に尋ねた。
「この列は何ですか?」
「魔術師がナガグツ風邪にかかったので患者の治療ができないのです。しかたがないので、魔術師の回復をここで待っているんです。他の病院の魔術師も同じ症状らしく治療ができないようですよ」
五つある病院で全ての魔術師が風邪にかかりヒールが使えない状態、したがって患者を治せないらしい。患者は増える一方だ。それぞれの病院には患者が集まり魔術師の回復を待っているようだ。まずい状況だ。
俺は病院を離れ、馬車に戻ってきた。シャム姫を看護していたアンゴラが心配そうな目でこちらを見た。
「魔術師はどうでしたか?」
「五つの病院全ての魔術師がナガグツ風邪にかかり魔法が使えない。ヒールによる治療ができないらしい」
「そ、そんな!」
アンゴラはシャム姫の額を濡れタオルで冷やしているが、姫はもうろうとしている。何か対策は無いのか!そもそも風邪ぐらいでこんな重病になるなんて!
その時、俺の左手の手のひらが熱くなった!
【スキル】[コンビニ]発動。
バーコードリーダーで浮き上がったバーコードをスキャンした。
「ピッ!」
そこに現れたのは小さな小箱。
『サンキュー薬品 レレ・ブロック(チュアブル14錠)』
コンビニで売っている一般的な風邪薬だ。市販薬なので効果は小さいだろうが、副作用も小さいので薬が合わなかったとしても悪化することは無いだろう。何より[コンビニ]のお勧めなので間違いはないはずだ。これで少しでも症状が抑えられることを願うしかない。
「アンゴラ!姫様にこの薬を飲ませてくれ!俺の故郷の風邪に効く薬だ!」
「分かりました!姫様!これを!」
「・・・飲めばいいのね(パク)・・・あれ?美味しい(もぐもぐ)・・・オレンジ味だわ」
シャム姫は薬を口に含みしばらく口の中で噛んで、やがて飲み込んだ。
「効果があれば良いけど」
「急に顔色が良くなってきました!効いているようです!」
穏やかな顔つきで寝り始めたシャム姫を見て、アンゴラはほっとしているようだ。薬の効果は劇的で、その後、十五分もしないうちにシャム姫は普通の状態になった。
「熱が下がりました!風邪の症状が治まったように見えます・・・凄い」
もう少し寝かせてやりたいが、そうもいかない。本人に薬の効果を確認する必要がある。俺はシャム姫を起こした。
「シャム姫様。気分はどうですか」
「むにゃむにゃ、もっとオレンジ食べたいですぅ・・・あれ?頭が痛くありません」
シャム姫は立ち上がって、その場でぴょんぴょん跳ねた。そして、踊り出した。たぶんプリンセス娘の曲のどれかだろう。
「治りました!すごいです!」
日頃、薬を飲まない人が飲むと良く効くというやつだろうか、それとも発病した直後だったから効果があったのか。俺はバーコードリーダーでシャム姫を再度スキャンした。しかし異常は表示されなかった。いずれにせよこの薬は効果あるようだ。
「シャム姫様、魔動携帯でこの街の五つの病院に連絡して下さい。俺がこれからそれぞれの病院に行って薬を渡してきます」
「分かりました」
俺はすぐに馬車を飛び出した。魔術師に薬を飲ませるため、それぞれの病院を目指し懸命に走り始めた。
◇ ◇ ◇
事前にシャム姫から病院へ連絡があったおかげで、俺が持ってきた薬は直ぐに受け入れてもらえた。各病院には二錠づつ薬を渡した。魔術師の治療用と薬の分析用だ。シャム姫と同様、薬の効果は絶大であり、これまで訪れた病院の魔術師は全員回復した。
「ふう、これで病院に来ている患者の治療も行えるだろう。ナガグツ風邪も下火になるはずだ。残りは五錠だ。足りて良かった」
最後、俺は五件目の病院に来た。これまでと違い、何だか嫌な予感がする。しかし、俺は気にせず病院の中に入ることにした。