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7-3話

「ど、どうしたんだろ[コンビニ]さん!大盤振る舞いすぎる。これは、コンビニのご贈答用のカタログにしか載っていない取り寄せ品だ。十万円くらいするやつ。よくよく考えると手持ちのお金はあと少しのはずなのに!高利の借金をしてないか気になってきたよ[コンビニ]さん!」


 俺はお金の心配をしながらも重いチーズを抱えてレストランに戻った。


「これを使ってみてください」


 机の真ん中にチーズを置いた。


「「「何ですか?これは?」」」


「俺の故郷のチーズです。小さく切ってそのまま食べたり、削ってパスタにかけるのもいいです。少し硬いですが、熱を加えると柔らかくなりますので、パン類と一緒に焼いても良いと思います。トマトと一緒に食べるとかなり良い感じです」


「このチーズ塩味なんだ!パスタが濃厚になった!」


「パンもがっつりした感じになってよく合う!驚きました!こんなチーズがあるなんて」


「トマトとチーズ!新しい味わいね。ワインにも合うわ!」


 こんな調子で俺達はトマトとチーズを十二分に堪能したのであった。さて、午後からは良さそうなトマトの品種を選んで、実際に幾つかトマトケチャップを作ってみよう。


「タベタリーナさん。午後からはトマトケチャップの試作です。良さそうなトマトの品種を選んで5個位づつ持ってきてもらえますか。私がそれらを調理してトマトケチャップにし、瓶に詰めます」


「わかりました。私、頑張りますのでよろしくお願いします!」


「こちらこそ。ここからは『二人だけで』頑張ろう!」


 タベタリーナと見つめ合う俺。そう、今回は戦略変更なのだ!あえてシャム姫の前でタベタリーナとラブラブな所を見せつけることによってシャム姫の嫉妬の炎を燃え上がらせるのだ!そうすれば・・・あれ?


「このピンク・トパーズのイヤリングも素敵でしょ」


「素敵!さすがお母様です!これもファッションの聖地ミヲノで購入されたのですか?」


「そうなの。今年のトレンドカラーはピンクなの。行きつけの店があるけど一緒にお店に行く?」


「ぜひお願いします!」


 タベタガールとのガールズトークに夢中で、ヨシオの意図に全然気が付かないシャム姫であった。 


 ◇ ◇ ◇


 この小高い丘からは小さな港や桟橋、それに連なる穏やかな海を見ることができる。海と太陽と小さな島々、時々吹く心地よい風が海面を揺らしキラキラと光を反射している。


 沖を時々通過する大型帆船の美しさ、小さな漁船がゆっくりと港から出ていく風景、海鳥たちが大きく翼を広げながら漁船を追いかけている様子、こんな人間や生物たちの営みも景色に華を添えている。


 特に目の前に見えるこの夕焼けは圧巻だ。海に沈みゆく太陽の暖かく神秘的なオレンジ色の光は島々を黄金色に輝かせ、漆黒に染まる島影そして輝く海面をもって非日常的景色を作り出す。人生の些細な出来事など、この景色の元では無意味なはずなのだ。いや、そうで無ければならぬはずだ。


「ヨシオ様!ボーとしてないで手を動かして下さい!」


 レストランの厨房から外の景色を見ていたらタベタリーナに怒られた。


「す、すいません!でも昼からずっとトマトケチャップの試作してますよ!いつまでやるのですか!?」


「全品種のトマトで試作するに決まっているではありませんか!256種類です!」


「えー!256って言ったら2の8乗ですよ!」


「はい!文句言っている暇があったら手を動かす!『二人だけで』頑張る約束ですよね!」


 午後からタベタリーナとのラブラブなトマトケチャップ試作を妄想していたヨシオであったが、開始3分でその妄想は打ち砕かれた。あれからもう5時間以上ぶっ続けで作っている。


 時折、外の景色を見ながら現実逃避しているがその度に怒られている。料理馬鹿のタベタリーナを甘く見た罰であろう。


「そろそろシャム姫が厨房に来てもおかしくない時間だが」


 ずっとタベタリーナと一緒にいるヨシオに嫌味の一つでも言いに来るのを、そして来てくれれば中断できるのにと期待するヨシオであった。こんなにシャム姫の嫌味が待ち遠しいことがこれまであっただろうか!


 ◇ ◇ ◇


「城の近郊ではリップが流行っているのね」


「大流行しています。実は私のブランドショップ『シャムキャット』で独占販売中です。お母様にも、これをプレゼントしますわ」


 商魂逞しいシャム姫はヨシオがミケにプレゼントしたリップの件を不問にする代わりに、ヨシオからリップに関する情報を聞き出し、専門家を使って自分のブランドで商品化することに成功していた。


「まあ素敵!この国で最初にこれを考案した人は天才ね!会ってみたいものね」


 すでに会っているのだが。


「それより、お母様のバッグが素敵です!プヲドの新作ですか?」


「そうなの。オーダーメイドの一品物よ。今年のカラーを取り入れたピンクダイヤが可愛いでしょ」


 シャム姫とタベタガールは立ち寄ったカフェでお茶をしながら相変わらずのガールズトーク。ナガグツ半島にあるファッションの聖地ミヲノでショップ巡りの最中である。


 そして今もヨシオはタベタリーナの下で奴隷のようにトマトケチャップ作らされている。シャム姫が帰ってくる気配は皆無である。


 嫉妬作戦は大失敗に終わったようだ。

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