7-2話
「『ヨシオのオムライス』誕生きっかけを作ったのは私なんだけど」
シャム姫がジト目でこちらを見ている。いつも登場するタイミングが悪いんだけど!わざと?わざとですか?
「シャム姫様お久しぶりです。娘がお世話になっております」
「タベタガール様、お久しぶりです。以前お目にかかった時よりまた一段と美しくなっておられます。見習いたいです」
「ありがとうございます。シャム姫様も可愛らしく、また最近はどんどん女性らしくなってますね。さすがプリンセス娘のセンターです」
「ありがとうございます。今日は新作の調味料を作るということだったので私もスケジュールを調整して、なんとかやってまいりました。決してブランド品を買いあさろうとか、ジュエリーを買いあさろうとか、さらにはバカンスを楽しもうだなんて思って来たわけではありません」
魂胆の分かりやすいシャム姫であった。
「シャ、シャム姫様。お早いお着きで。スケジュールの都合が合わないとマネージャーからお聞きしたので先に出発致しました。決して置いて行こうなどとは」
「ええ、勇者ヨシオ様に『置いて行かれた』ので魔動飛行機で参りましたの。ほら、あそこ。おかげでヨシオ様よりも先に着きましたわ」
そこには金属製の巨大なドラゴン型のロボット、ドラゴンゴーレムらしき物体が飛び上がり、空を滑空しながら城の方向へ帰っていく様子が見えた。異世界テクノロジー侮りがたし!
「あ、あんなのがあるのですね」
「千年以上前に作られたらしいわ。飛ばすには膨大な魔力が必要で、しかも魔術師が運転しないと飛ばないらしいのでほとんど城の倉庫に眠っているみたい」
「城にあったんだ!」
「ほら、一緒に剣を見に行ったあの倉庫の下よ。私も初めて乗ったの。城で私が王妃と・・・マネージャーと喧嘩してたら、見かねた魔術師のシバがメンテナンスついでだとか言って送ってくれたの」
なるほど。あのドラゴンゴーレムは今となってはロストテクノロジー(再現できない技術)の塊だな。過去のハートフルピース王国が如何に強大だったかが思い知らされる。
「皆さん、お揃いのようなので一緒に昼食でも如何ですか?ぜひナガグツ半島料理を召しあがってください」
「「「やったー!」」」
タベタガールは農場直営のレストランへ俺達を案内した。ちなみに一緒に来た護衛のアンゴラは周囲をパトロールしているので別行動だ。
レストランは丸太づくりの別荘のような外見で、海の見える小高い丘の上にあった。レストランの中は木のテーブルと椅子とでナチュラルな内装だ。
俺達が座ると早速料理が運ばれてきた。トマトピザ、トマトパスタ、トマトスープ、トマトサラダ、トマトハンバーグ、トマトパン、トマトライス、トマトワイン・・・
ナガグツ半島料理恐るべし!
一通り食べてみた。まずまず美味しい。しかし、何かが物足りない。あっさりし過ぎている気がする。故郷の味はもっと濃厚な何かがあったような・・・チーズ!チーズが全然使われていない!トマトにはチーズが合うのに!
「タベタガールさん、こちらの地方ではチーズは食べないのですか?トマトに合うと思うのですが」
「チーズは食べますがトマトと合わせて調理に使うことはありませんね。甘いからデザートに使うことが多いです」
「え?チーズって甘いの?」
「「「甘いです」」」
「どうして甘いのですか?」
「なぜかしら?考えたこともないわ。デザートとして食べる前提なので、製造途中に砂糖を入れているからかしら?熟成方法?」
たぶん、この国ではクリームチーズに近いものが好まれているのだろう。しかし甘すぎると料理には使い難い。
俺の左手が熱くなった。同時にメガネの内側に文字が浮かび上がった。
【スキル】[コンビニ]発動。
「あ、すいません!馬車に忘れ物が。取ってきます!」
俺はレストランを出て魔動馬車に乗り込みバーコードリーダーを起動した。
「ピッ!」
「どぁ!重たい!」
俺はとっさに両手で転送された物体を支えた。
『チーズ パルミジャーノレッジャーノ36kg イタリア製』
なんかすごく高そうなチーズがキター!しかもカットしていない丸いヤツー!故郷でもテレビや雑誌でしか見たことないヤツー!