おまけ 筋肉好代・天井千代子・無限野玲詩妃 2
ヨシオ達が魔王を撃退してから三十年後。ヨシオが領主を務めるダンジョン自治区はヨシオ合衆国として独立することになった。ハートフル・ピース王国のヒツジキング三世王が「自治区が発展しすぎて管理が面倒なので、もう独立しちゃえ」とヨシオに丸投げしたせいだ。おかげでヨシオもその妻達も今は大忙しだ。
一方、元の世界でヨシオと一緒だったスジーク、アマイ、ガリペラはアマイの経営するスイーツ店の個室に集合して打ち合わせをしていた。
「私達、もう初老よね」
そうぼやいたスジークは五十過ぎ、アマイは四十台後半、ガリペラに至ってはほぼ六十歳だ。
「私は十年前にやっとのことでスイーツ教の女神を引退できた。そして念願のケーキ&カフェ店のオーナーになれたけど、なんだか思ったのと違うのよね」
アマイはため息をついた。
「いつも開店前から人が並んでいるし繁盛してますよねー」
六十歳ガリペラ(見かけ十八歳)がそう答えた。
「見たでしょ、店内の客を。はっきり言って、信者のマッチョなおっさんばかり! 私が目指していたのは女子高生達が『きゃはは、うふふ』しているような華やかなお店なの。今のような暑苦しい店じゃないのよ!」
心の叫びだ。ただアマイが女神を引退したからといって信者達が『はいそうですか』と納得するわけない。むしろ身近に会えるためより熱狂的になっている。会いに行ける女神です。
「こればっかりは時間が経つのを待つしかないよね。そのうち落ち着くでしょ」
「いつ落ち着くのよ!もう十年経っているわ。もうすぐお婆ちゃんです! なのに未だに女神って呼ばれるなんてツライ。コールドスリープしていた私を起こすにしても、ヨシオがもうちょっと密かにやってくれれば表だって女神をやらなくて済んだのに。各国代表の前で起こされると逃げも隠れもできないわ!」
ヨシオの行動を思い出しアマイは頬を膨らませてプンプンしている。おばちゃんのプンプンだがそれなりに可愛いらしいのはさすがである。だが完全な八つ当たりである。機嫌が悪くなったアマイを見てガリペラが話題を変える。
「ところで、マッチョランドに続きマッチョワールドの開園おめでとうございますー」
「ありがとう。でも、予定よりオープンするペースが遅れているのよ。三十年でたった二か所しか開園できないなんて遅すぎる! とんだ見込み違いだわ」
スジークの予定ではすでに周辺各国に最低一つ、十ケ所くらいはオープンしているはずだった。そのくらいこの世界はマッチョ人気がある。細マッチョ派と太マッチョ派で争うことはあるが、基本マッチョであることが男のステータスなのだ。もちろん女子にもマッチョ男子が人気である。
しかし好景気に沸くこの世界。広大な土地の買収および整備に時間がかかりすぎていたのだ。間に合わないのは人材がダンジョン自治区の大開拓事業に集中しているため。好景気なのはダンジョン自治区が中心となって経済を活性化しているため。つまりいずれもヨシオのせいである。
「全く、土地の値段はうなぎ上りだし、人手も足りないし! 全然計画が進まない。この調子では二百年経ってもプロジェクトが完成しているかどうか。ヨシオに文句の一つでも言いたい気分だわ!」
怒るスジーク。これは不味いと思い再度話題を変えるガリペラ。
「でも二人ともビジネス自体は順調でいいですよねー 私なんか全然だめなんです。皆、癒しを求めて遊びに来てくれると思ったのに。アルマジロ可愛いのに全然お客さんが来ないし・・・」
ガリペラは以前お世話になった牧場を手伝いながら、アルマジロ(=ダンゴムシ柴犬サイズ)と触れ合えるアルマジロカフェを経営している。
「・・・なぜ人気が無いんだろう(遠い目)・・・猫カフェとかにしてみたら? 日本では大人気だったよね」
「そうそう外国人もたくさん居たし、私も行ったことあるし。でも、この世界では猫カフェの価値が分かるのはまだ早いのかも」
「まだ早いですかー」
そこら辺に猫どころか魔獣がうろうろしているこの世界。お金を払ってまで動物と触れ合おうと考える人は少数である。
「牧場に知り合いがいるならアニマルセラピーの方がいいかも。私が女神として各地を巡業したとき、働き過ぎて精神的に参っている人が沢山居たわ。好景気なのはいいけど精神を病んでは意味が無いよね。よく考えるとこれもきっとヨシオのせいね」
悪人に仕立て上げられつつあるヨシオであった。
「アニマルセラピーですかー 興味あるけど今からやっても死ぬまでに日の目を見るかどうかー」
三人は見つめ合った。
「つまり私達には時間が足りないという結論ね」
「「そうですね」」
三人は頷いた。
「やっぱ、ヨシオの仕事しばらく手伝う? 無限に若返り無限に働くのは嫌だけど」
「そうね。そのうち地球には戻りたいからずっとは嫌だけど、パートタイムの短期で。できれば百年いや、千年くらいの契約で」
この世界で何年暮らそうとも、死んでしまえば元の世界の元の時間に戻るのだ。
「それができればいいですよねー でもそんな中途半端な感じで手伝ってもいいのかなー」
無言になる三人。
「まあ、会って言うだけ言ってみよう。そもそもヨシオのせいでこうなった訳だし」
「そうだね」
「じゃあ早速出発ですー」
こうして三人はダンジョン自治区のヨシオの館へと向かうのであった。