23-40話
プリンセス娘の総選挙直後、会場であるコロシアムを中心に地震が起こり、続いて巨大なゴーレムが上空より現れた。ゴーレムの中から出てきたのはプリンセス娘プロデューサーであるナツモト・ヒクスィーそっくりな人間だった。
「ナツモト・ヒクスィーが二人! 双子か!」
ヨシオは目の前に現れた男と床で気絶しているヒクスィーを見比べながら言った。
「僕がオリジナルのナツモト、つまり初代プリンセス娘プロデューサーでありこの総選挙システムを考えたナツモト・タカスィーだ。そしてこの床で泡を吹いている役立たずは、僕のクローンによる五十代目の子孫だ。総選挙の不正に手を染めるとは、全く情けない限りだ」
タカスィーはそう言いながらヒクスィーを足で蹴った。ヒクスィーは目覚め周囲を見渡した。そしてタカスィーを見つけ怒りを露わにした。
「その顔、犯人が貴様だな! うまく整形したつもりだろうが無駄だ! 事件を起こしてどさくさに紛れてこの天才プロデューサーのナツモト・ヒクスィーに成り代わろうとするとは、けしからん奴だ!」
ヒクスィーが怒りながらタカスィーにつかみかかろうとした瞬間、
(チュドーン!)
ゴーレムからビームが発射され、ヒクスィーの背後の床に穴が開いた。
「・・・今日はこのぐらいにしてやる。じゃあな!」
そう言ってヒクスィーは舞台から逃げていった。それを唖然と見ているタカスィー、ヨシオそして婚約者達。
「全く情けない。ヨシオ君たちには恥ずかしい所を見せたね。あれが子孫とは本当に情けない限りだよ。奴は不正に手を染めこの伝統あるプリンセス娘総選挙を汚したんだ。本来は百位以内に入るはずもないシスターペルシャ、スコティッシュフォールド、アメショをトップ3にしたんだよ。お金や地位と引き換えにね」
そう言ってヒクスィーは舞台後方の最上段の席にいる三人を見た。三人は先程のゴーレムからのビームを見て震えている。
「君達は好きにするがいい。ただの駒にすぎない」
タカスィーがそう言うと、三人の拘束具は外れた。三人は逃げるように舞台を去って行った。
「見逃してやるのか? 意外と優しいんだな」
ヨシオがそう言うと、タカスィーは笑った。
「まさか、許すわけないだろ。少し外の有望そうな遺伝子を集めてからコロシアムの外をお掃除、つまり火の海にする。だから外に逃げても無駄なんだよ。ここにいる人以外は全員消えてもらう。もちろん不正にかかわった奴らもだ。だけど安心して欲しい。コロシアムの中は安全だ。ここはゴーレムの発着場だから壊すわけにはいかないんだ」
タカスィーは平然とそう言った。
「ちょっと待て! この世界の罪のない人もまとめて殺すというのか」
ヨシオが声を荒げた。
「そうだよ。何か問題かい? この世界はもう発展が見込めない。つまらない日常を繰り返すだけだ。だからリセットする。そしてヨシオ君とここにいる美人の婚約者達が新たに世界を始めるんだ。ヨシオ君の世界ではアダムとイブって言うんだっけ? どうだい、光栄だろ。君達のための世界がこれから始まるんだよ」
タカスィーは笑顔でそう言った。まるでいい事をしているかのように。
「この外には私の両親が住んでいるのよ」
「私の両親も!」
「親戚もいる」
「友達だって」
「仕事仲間だって」
「姪や甥も」
「商店街のおやじさんも」
「育ての親も」
「沢山の人々が生きているのよ!」
婚約者達は次々にタカスィーを非難した。しかし、タカスィーは素知らぬ顔だ。
「そうは言ってもこの程度の文化と科学レベルならこれまでも何度か到達している。もっとすごいレベルまで到達したこともあるんだ。だけど、いずれも先が見込めなかった。そこが限度だったんだ。そしてお約束の総選挙の不正が始まる。そう、文化や科学の発達限界と総選挙不正は相関があることをAiが示したんだ。だから不正がある度、僕は目覚めて世界をリセットすることにしたんだ。そして勇者という新しい遺伝子を呼び寄せて再び世界を始めるのさ」
しかしヨシオ達は納得していない。
「地中深くから未知の技術で造られた遺跡が発掘される理由が解ったよ。以前、魔王が、いやタカスィーが滅ぼした世界、前世界で造られたモノだったんだな・・・もう過去は変えられないけど十分だろ。この世界はこのままでいいじゃないか」
ヨシオは叫んだ。しかしタカスィーは不服そうな顔だ。
「残念だよ。ヨシオ君には期待していたんだけどな。面白い世界を作ってくれると思っていたのに。せっかくアダムの立場を与えてあげようと思ったのに本当に残念だ。でもヨシオ君が嫌ならしかたない。ヨシオ君には退場してもらおう。ちょうど遺伝子も国造りのノウハウも集まってきたことだし、そろそろ僕が世界をつくるのもいいかなと思っていたところなんだ。心配しなくてもいいよ。ヨシオ君の婚約者達は全員僕が譲り受けよう。おっと、力の差は歴然としている、さらに君達は宝石も持っていない。無駄なあがきはやめたまえ。大切な母体に怪我をさせたくないんだ」
かなり離れた山に向かってゴーレムから強烈なビームが発射された。山は衝撃とともに吹き飛び、燃え盛る平地になっていた。
コロシアムは絶望に包まれた。