23-38話
ここは王城の地下。
スワン王妃、女帝ラブ・メグ、魔術師シバそしてアンゴーラはドラゴン型飛行機の心臓部にあるクリスタルに魔力を注いでいる。それを心配そうに見ているラブ・スジーク、スイーツ教女神アマイそしてガリペラという異世界人三人組。さらに目の前の出来事を茫然と見ているアクドーイ。立ったまま寝ているゴーレムのペンちゃん。
しばらく魔力を注いだところでそれは起きた。突然。飛行機が揺れ始めた。シバが叫んだ!
「地震だ! 中断して、身の安全を確保するのじゃ!」
スワン王妃達は直ちに魔力注入を中止し、機体にしがみついた。ほどなく地震は治まった。スワン王妃は魔動携帯で被害を問い合わせた。数分後に応答があり、今のところ大きな被害は無いとのことだった。
しばらくした後、総選挙会場にいるヒツジキング三世から信じられないメッセージが届いた。
「まずいわ・・・」
スワン王妃が焦ったような顔でつぶやいた。そして慎重に言葉をつないだ。
「落ち着いて聞いてほしいの。コロシアムに巨大なゴーレムが現れたようですわ。空から舞い降りてきたことを考えると、魔王である可能性が高いとのことです。現在ヨシオと婚約者達が対峙しているようです」
皆はそれを聞いて唖然とした。予定では魔王の降臨は数年先だと考えられていたからだ。
「なに、やることは変わらぬ。ちょっと予定が早まっただけじゃ。何度かに分けて魔力注入するか、一気にするかの違いなだけじゃ」
シバが気楽そうに言った。
「そんなぁ、もうへとへとなのに。これ以上できそうに無いです」
座り込むアンゴーラ。少しやせて相撲取りからぽっちゃり体型に変化している。
「そうは言ってもこれが最後なのじゃ。やらねば、やられるのじゃ。さあ、続きを始めようではないか。出し惜しみは無しじゃ!」
ラブ・メグはそう言うと、再びクリスタルの前に立った。
「魔力は少ししか持っていないが俺も協力する」
「そんな、あなたには無理よ!」
アクドーイがクリスタルの前に立った。それを見てアンゴーラは驚き、そして立ち上がった。
「私達も行きましょう。少しぐらいなら協力できるはず」
異世界人三人もクリスタルに近づいた。ここに居る全員がクリスタルを囲んでいる。
「協力痛み入る。魔力を極限まで放出しても死ぬことは無い。ただ気を失うことはあるじゃろう。しばらくすれば元に戻るから安心してほしい」
皆は頷いた。
「ペンちゃん」
アンゴーラがゴーレムのペンちゃんの頭を撫でながら話をしている。
シバが全員とアイコンタクトした。
「それでは始めよう!」
全員がクリスタルに手をかざした。クリスタルは再び高速回転を始めた。しかし数分後。
「もうだめ・・・」
「くっ、これまでか・・・」
保持魔力量の少ない異世界人三人とアクドーイが次々と意識を失った。それらをペンちゃんが支えてそっと床に寝かしている。一方、魔力保持量の多い四人はまだ耐えている。
「まだまだじゃ! 脂肪細胞を燃焼させてもっと魔力を縛り出すのじゃ!」
シバの言う通り、この世界の魔力は一般的には脂肪細胞に保持されている。シバのビール腹はほとんど無くなり体中の筋肉が浮き上がり始めた。ナイスガイ!
「せっかく作ったプロポーションが台無しじゃのう」
巨乳のナイスバデーだったラブ・メグはほっそりとしたモデル体型へと変化していた。スーパーモデルカモン! 魔力により意図的にボディーメイクされた体だった。
「せっかくのゴージャスな髪型が貧相になりましたわ。帰ってからしっかりとお手入れしなければ」
スワン王妃の魔力は脂肪細胞ではなく縦ロールに貯められているようだ。金髪縦ロールがバラの花びらをまき散らしながらどんどんほどけている。どういう理論なのかは秘密なのだ。腰まで伸びた長いストレートヘアーがキラキラと揺らめく。
「デブからは、おさらばよ!」
ぽっちゃりデブだったアンゴーラは贅肉が取れ華奢な美少女になりつつあった。髪色もなぜかピンクになっている。これぞヒロイン! さすがヒロイン! やっと主人公らしくなった。きっと魅了の魔法も使えるはずだ。気分的に。
クリスタルが虹色に輝き始めた。それと同時に皆は床に座り込んだ。なんとか意識は保っているが、体は限界だった。ほどなく皆、床に倒れるように寝転んだ。最後の最後に一気に魔力を持っていかれたようだ。
ペンちゃんは床に倒れている仲間達を一人一人担ぎあげ、慎重に飛行機の外へと運び出した。全員を運び出すとペンちゃんは再度飛行機に乗り込んだ。朧げにその様子を見ているアンゴーラ達に敬礼をして、乗降口を閉じた。
ペンちゃんが運転席に座ると各種のケーブル端子がペンちゃんに接続され始めた。そして飛行機は完全にペンちゃんの制御下に置かれた。これは元々ゴーレム用に作られた飛行機なのだ。
格納庫の天井が次々と開き、ドラゴン型飛行機は小さな機械音を発しながら地上へ向かって上昇し始めた。
「頼みましたわ、ペンちゃん・・・」
アンゴーラは呟くようにそう言った。