23-36話
「「スワン王妃!?」」
アンゴーラとアクドーイが驚いた。ペンちゃんも何故か目を見開いて驚いたポーズをしている。
「ようこそ王城へ。あなた達の事は事前にスジーク達から聞いていましたわ。それに他の情報も。色々と驚かされることばかりでした。それで私達も考えましたの。あなた方を捕まえるよりも、無事この場に来てもらう方が良いと」
スワン王妃は微笑みながらそう言った。
「なるほど。それで予想よりも簡単にここに来ることができたのですね。ペンちゃんが居るとはいえ警備兵が全然いないなんてオカシイと思っていたわ。私達を意図的にここにおびき寄せたのですね。捕まえるにはその方が確かに簡単ですよね」
そう言いながらアンゴーラは諦めたような顔をした。しかしスワン王妃は首を横に振った。
「捕まえるためにここに招いたのではありませんの。協力してほしいのですわ。永遠と思えるほど長年続いているこのゲーム、魔王による蹂躙のゲームを壊すことに協力してほしいのです。他にも賛同して頂いた協力者がいますのよ」
スワン王妃が後ろを振り向くと、そこには魔術師シバに連れられたラブ・メグが居た。
「え、お姉ちゃん!?」
スジークが驚いた声を出した。
「久しぶりじゃのう、我が妹スジークよ。元気そうで何よりじゃ。驚いたじゃろ。うひっひっ」
キタノオンセン帝国の女帝ラブ・メグは悪戯が成功して嬉しそうだ。アンゴーラとアクドーイは目が点になっている。マネしてペンちゃんも目が点になっている。
「ラブ・メグ様は今回の総選挙のゲストとしてお招きしましたの。でもそれは表の理由。本当はこの計画に協力してもらうためですの。シバ、説明よろしく」
魔術師シバが説明を始めた。
「ヨシオ殿の婚約者の皆さまが持っていた情報、各国から集めた情報、遺跡文書の情報、そしてスジーク殿から提供して頂いた情報を元に分析した結果、魔王の居場所が分かったのじゃ。これはほぼ間違いないじゃろう」
「まじか! 奴は本当にいるのか! いったいどこに!」
アクドーイが焦ったように声を上げた。シバは落ち着くようにゼスチャーしながら話を続けた。
「魔王は総選挙の会場であるコロシアムのはるか上空にいると思われるのじゃ。魔王は空から現れることが予想されておるから、各種情報を元に上空を精密に調べたのじゃ。その結果コロシアムの上に星に擬態した巨大建造物が浮いていることが判明したのじゃ。あまりに上空なので、これまでは星のひとつとして認識しておったが、調べてみると他の星々と比べて異なる挙動をしておる。明らかに人工的なものじゃ。これは魔王の拠点以外に考えられないのじゃ」
シバは自信をもってそう断言した。
「しかし、なぜコロシアムの真上に?」
アンゴーラはシバに疑問をぶつけた。
「それも重要なヒントじゃった。歴史上、このコロシアムは一度も壊されていない。なぜか!? 予想であるが、地上における魔王の着陸場所として使われているのかもしれぬのじゃ。これだけ大きければ上空からの目印として丁度良いじゃろうしな。つまり・・・」
「「コロシアムに魔王が現れる!?」」
アンゴーラとアクドーイは顔を見合わせて言った。シバは頷いた。スワン王妃が話を続けた。
「そこで魔王が現れる前に、空に浮かぶ魔王の基地を破壊しましょう、というのが今回の計画ですのよ」
「しかし、そんな上空にどうやって・・・この飛行機はそんな上空まで行けないはず」
アンゴーラがドラゴン型飛行機の装置を見ながら言った。乙女ゲームの知識からそう確信しているようだ。スワン王妃が微笑みながら話を続けた。
「そこで皆さんの協力が必要ですの。この飛行機のエネルギーは魔力。これまではシバの魔力だけで飛ばしていたから長く飛べなかったの。それならもっと多くの魔力を蓄えて飛べばいいでしょ。幸いなことに、アンゴーラが持ってきてくれた婚約者のネックレスには魔力を大量に含む宝石が付属しています。でもそれだけでは足りないの。そこで、後ろに見える浮いている黒いクリスタルを使うのよ。これが魔力の貯蔵タンクですのよ」
スワン王妃がクリスタルを指さし、そう言った。
「なるほど。それでわらわを呼んだのじゃな。見たところアンゴーラとやらも大量に魔力をため込んでおるようじゃのう。期待できそうじゃ」
そう言ってラブ・メグはアンゴーラを見た。アンゴーラの体全体を覆っている分厚い脂肪には魔力が貯蔵されている。緊張の冷汗なのか、デブで暑くて汗をかいたのか、アンゴーラのアゴから汗がしたたり落ちた。スワン王妃がクリスタルの方に歩き始めた。
「早速、始めましょう。シバ、準備をお願い。ラブ・メグ様とアンゴーラも一緒にクリスタルの前へいらして下さい。シバと私も含めた四人でこのクリスタルを魔力で一杯にしましょう」
シバが機器を操作した。パスワードは「ナツモト・タカスィー ノ ツマ ハ タカイ・パピコ」。宙に浮いた大きなクリスタルが高速で回転し始めた。
「このクリスタルを取り囲み、それぞれ右手をクリスタルの前にかざすのじゃ。後はシステムが自働的に魔力を吸い出す。それでは始めよう」
四人が定位置に付き、手をかざした。手のひらが淡く輝き始め、やがてその光がクリスタルと繋がった。
「くぅ、これはなかなか効くのう」
余裕そうな言葉とは裏腹に苦しそうな顔をしているラブ・メグ。脂肪細胞の中に取り込まれた魔力が強制的に吸い出されている。ナイスバデーだった胸とお尻が縮みはじめた。
「皆を守るため!」
苦しそうなアンゴーラ。豊満体型からぽっちゃり体型に変化しつつある。
「今日は限界まで魔力を放出してみるかのう」
シバのビール腹が徐々に小さくなっている。
「時にはイメージチェンジも必要ですわ」
スワン王妃の縦ロールの巻きが徐々に緩くなり始めた。スワン王妃だけ脂肪細胞ではなく縦ロールに魔力が貯め込まれていたようだ。その理由は秘密なのだ。
◇ ◇ ◇
総選挙会場のコロシアム。
「なんと大変なことが起こりました! 今回初めて総選挙に立候補したばかりの新人がトップ3を独占! 最近まで研究生だった三人! これは史上初です! 私達は歴史が変わる瞬間の目撃者となったのです! 『第千二十四回 ハートフルピース王国王女選抜総選挙』の一位はシスターペルシャ!」
トク・ミッツーさんが驚いた声でそう言った。カイザーが派遣した工作員一号のシスターペルシャ(アザト・イーナ)、二号のスコティッシュフォールド(コザカ・シーナ)、三号のアメショ(コビル・ヨーコ)が順に1~3位となったのだ。
会場はブーイングの嵐に包まれた。それを無視してシスターペルシャは笑顔でステージに現れ、メンバー達の間を抜けゆっくりと階段を登っていく。頂点にあるセンターの椅子を目指して。
その様子をカイザー領の地下室からTVで見ているカイザー。手を叩いて喜んだ。
「よーし! 素晴らしい結果だ。奴らに褒美をやらねば。だが、もう数時間でこの世からは居なくなるのだがな。それまでの間、楽しむが良い! ふっふっふ」
カイザーの買収工作は上手くいき、工作員によるトップ3独占計画は成功したのだった。しかし、コロシアムに詰めかけているオタク達は当然ながら納得できない。
「おかしいぞ! そんな無名メンバーがトップ3なんて!」
「インチキだろ」
「そうだそうだ! 票を数え直せ! トランプもそう言ってた!」
「僕のアカイちゃんがこんな低い順位なはずない」
「責任者のナツモト・ヒクスィーは説明しろ!」
「トク・ミッツーさんの話、尺取りすぎ」
「ナッコちゃんは天使」
ブーイングの中、トップに輝いたシスターペルシャは薄ら笑いを浮かべながらセンターの椅子に座った。そしてマイクを手にして会場に詰めかけたオタ達へと話しかけた。
「総選挙は票が全て。今回の最多得票はシスターペルシャ! だから私がセンターであり、シャム姫に代わる新たなハートフルピース王国の姫! そう、この私こそがプリンセス娘のセンターであり次期王女なのです! 悔しかったら私の票を超えてみなさい」
シスターペルシャはコロシアムを見渡した。会場は一瞬静まりかえったが、再びブーイングが起き始めた。それを見て、審査員でありプロデューサーのナツモト・ヒクスィーがステージに上がった。説明を始めるようだ。
「えー、俺が責任者である天才プロデューサーのナツモト・ヒクスィーだ。そもそも創設者のナツモト・タカスィーがセンターを決めていたのに、オタのお前らが文句を言うから千年前から選挙になったんだろうが!」
ヒクスィーがプロレスラーばりのマイクパフォーマンスで会場を一括した。ぽっちゃり体型だけど。会場のオタはまだ文句を言っている。
「今回から審査員の票が千倍さるれなんておかしい」
「しかも、ヒクスィーだけ一万倍とか」
「TV局上層部やスポンサーのお気に入りばっかりが上位にいるし忖度しすぎ」
「審査員とか全部ナツモトの一族だろ」
「やっぱナッコちゃんは天使」
それを聞いてヒクスィーは顔を真っ赤にして怒った!
「つべこべ文句を言うな! 選挙結果を受け入れろ」
ブーイングはより一層大きくなった。
次の瞬間、サイレンが鳴り響きコロシアム全体が揺れ始めた。
「きゃー」
「地震だー」
「逃げろ!」
コロシアムにいる観客やオタ達は出口に向かって殺到し始めた。ステージ上のプリンセス娘達も逃げ出し始めた。
「何よこれ!」
「椅子から拘束具が!」
「動けない! 誰か助けて!」
シスターペルシャ、スコティッシュフォールド、アメショの三人は椅子から出てきた拘束具に捕まり動くことができなくなった。他のメンバーはその事に気付かない。
「うわー! 助けてくれー」
そしてもう一人、ナツモト・ヒクスィーもなぜかステージ天井から伸びてきたロープに巻き付かれ、宙づりにされて逃げ出せない状況となった。
「いったい何が起きている!」
貴賓席にいるヨシオと婚約者九人はその様子をただ見ることしかできなかった。