23-35話
ここはドラゴン型飛行機の心臓部。アンゴーラ達を待ち受けていたのは、スジーク、アマイ、ガリペラの元地球人の三人。アクドーイはとっさにナイフを取り出し構えた。アンゴーラはペンちゃんの後ろに隠れた。
「勘違いしないで。アンゴーラさんを止めに来たのではないのよ」
スジークがそう言って両手を挙げた。他の二人も習って手を挙げた。
「そもそも、ダンジョンコアの守護ゴーレム、いえ、ダンジョンコア自身に私達が勝てるわけありませんわ」
アマイちゃんはそう言ってペンちゃんを見た。
「むしろ協力してもいいと思っているよー ていうか協力しないと無理だよー」
ガリペラはそう言ってアクドーイにウインクした。アクドーイは「え、ガリペラ様? いつの間に敵に」とか言いながら戸惑った顔をした。ガリペラは以前、キタノオンセン帝国の反乱分子のリーダーのふりをしながらスパイ活動をしていた。その時に利用していたのがグレー商会だ。
「そう言えばそうですね。手を下ろしてください。アクドーイもナイフを仕舞って」
「大丈夫ですかね。こいつら敵か味方かわからないですぜ」
アクドーイはナイフを構えたままアンゴーラに確認した。
「大丈夫よ。ペンちゃんがいるし、それにパスワードが分からないから協力してもらう以外に方法は無いのよ」
アクドーイは警戒を解いていないが、ナイフはしぶしぶ仕舞った。アンゴーラはペンちゃんの横に出てきた。
「どうもありがとう。刃物をちらつかされると落ち着いて話もできないからね」
スジークはそう言ってアクドーイに手を振った。アクドーイはしかたなくアンゴーラの横に移動した。アンゴーラが話を続けた。
「それで、どこまで知っているのかしら。そもそも私達が今日ここに来ると何故わかったのかしらね」
スジークがアマイとガリペラに頷いてから話し始めた。
「私が代表して説明しましょう。まず、私達はアンゴーラさんと同様に前世というか異世界の記憶を持っています。そこでは、この世界はゲームの中の世界として知られています。だからこれから何が起きるかある程度予想ができます」
「異世界の記憶。なるほど。お嬢が物知りなはずだ。しかしゲームの世界・・・?」
アクドーイがつぶやいた。スジークは話を続けた。
「詳細は省きますが、この世界は魔王が現れたせいで滅亡します。その時期は不明ですが、シナリオなのでこれは決定事項なのです。そしてその魔王に対抗するのが勇者と婚約者達。今の世ではヨシオがその役ですね。通常のルートであれば勇者は婚約者達と一緒に魔王を撃退しますが、その余波で世界のほとんどの人達は死にます。勇者と婚約者達は生き残り、その子孫達が再び世界を作っていくのです。最終的には婚約者達がマウントを取り合いそれぞれが国を作っていくというゲームシナリオです。ここは重要ではないでしょうけど」
それを聞いてアクドーイが声を上げた。
「勇者達以外は全員死ぬのか! 嘘だ! そんなの嘘だ! ハートフルピース王国もキタノオンセン帝国もニシノリゾート共和国も、他にもエルフやダークエルフ国だってあるんだぞ!」
アクドーイはスジークの話が信じられないようだ。それを見て、アンゴーラが落ち着いた声で言った。
「アクドーイ、話は最後まで聞くものよ。少なくとも彼女が言っていることは本当よ。魔王の力に対抗できるのは勇者とその婚約者だけ。例えどんなに軍が強くても、例え魔王が去るまで身を隠したとしても、魔王が去った後の地上は人類、いや、生き物全てが住めない環境になるのよ。勇者達が特殊能力を使って土地を浄化し終わるまで待たなくてはならないのよ」
スジークが話を続けた。
「だけど人々が死なずに魔王を撃退する方法があります。それが逆ハーレムルート。アンゴーラさん、あなたが目指しているルートです。このルートでは魔王を倒すのは勇者達ではなく主人公、つまりアンゴーラさんです。逆ハーレムルートでは主人公は全攻略対象の男性から宝石を捧げられる。そして主人公がこのドラゴン型飛行機と宝石を使って魔王を倒すのです。私はアンゴーラさんが全ての宝石を持って姿をくらましたと聞いたので、次はドラゴン型飛行機を手に入れるはずだと予想しました。それなら警備が最も手薄になる総選挙の日以外考えられない。残念ながら私は逆ハールートでエンディング迎えたことは無いけど悪くない予想だったでしょ」
アンゴーラはスジークの問いに対して口元をニヤリとした。
「その通りよ。私はヨシオと婚約した日に前世の記憶を思い出したの。そして私が主人公であることも。焦ったわよ。二年後、学園に入学した後にゲームがスタートするはずなのに、なぜかもうゲームが始まっていてヨシオのハーレムが形成されていく。ハーレムの女性達が皆、美人だからここからゲームを進めてもハーレム内で上位に食い込むことは無理だと感じたし、今更、対象の男性達を攻略するには遅すぎるし。このままハーレムの一員として生きるのもいいかなと思ったわ。でも・・・」
アンゴーラが暗い顔をしてうつむいた。アマイちゃんがつぶやいた。
「仲間達が魔王に殺されるのに、自分は生き残ることが耐えられないのね」
アンゴーラは頷いた。
「そうよ。ここはゲームみたいな世界だけど私も家族も、オモイザワ村の商店仲間だって皆生きているのよ! それなのに魔王に殺されるのを黙って見ているなんてできないじゃない! 逆ハールートで魔王を撃退すれば皆は死なない。だからいつ魔王が現れてもいいように準備をしておくのよ。シナリオから逆算すると三年以内には魔王が現れるでしょうから」
アンゴーラは声を絞り出すようにそう言った。
「じゃあ、初めからヨシオと婚約者達に相談して協力してもらえばよかったのにー」
ガリペラがあっけらかんとした顔で言った。
「そ、それは・・・」
アンゴーラは口をつぐんだ。スジークが代わりに答えた。
「アンゴーラの口からは言えないでしょうね。逆ハールートでは世界が滅びない代わりに、主人公のライバルの女性全員、この世界ではヨシオの婚約者達が魔王に殺されることが確定している。もちろん婚約者だけど主人公は生き残る。そして魔王撃退後は主人公のライバルが排除された世界になるのよ。主人公はシナリオを選ぶことができる。言い換えれば誰を殺すか選択できるのよ」
アクドーイがアンゴーラの前に立ち両肩を掴んで言った。
「そんな! お嬢に誰を殺すか選択させるなんて! 逆ハーだかなんだか知らないけど、そんなバカげた話があるかよ!」
「そうよ。このゲームシナリオはかなりバカげているわ! 誰も死ぬ必要なんて無いじゃない! だけど私がやらないと大勢が死ぬのよ」
アンゴーラが涙を流しながらその場に座り込んだ。
「何か! 何か他に方法は無いのかよ! 異世界の知識があるあんた達ならもっと他に方法を知っているだろ!」
アクドーイがアンゴーラを抱きしめながらそう言った。スジークがそれに答えた。
「ゲームシナリオはその二つしかないわ」
その瞬間、どこからともなく無数の薔薇の花びらが現れ舞いあがり小さな竜巻となった。そして薔薇の花びらが消えると同時に中から金髪キラキラ縦ロールのゴージャスな女性が現れた。
「そんな時は、ゲームそのものを壊してしまえばいいのですわ」
それはハートフルピース王国の王妃、スワンだった。




