6-2話
「俺は最高に便利で都合の良い男です。どんなに忙しくても、深夜だろうと、朝までだろうと、いつまでも君に付き合いますよ」
「本当ですか!嬉しいです!」
俺とタベタリーナはお互い見つめ合っている。二人の歩みは互いの距離を縮めた。キターー!やっときたのだ。シャム姫もいい!ミケもいい!でも、ここは目の前の金髪美人のタベタリーナだろ!
タベタリーナは自分の髪留めを外した。金色の髪がふわりと彼女の肩の上に広がった。そしてピンク色の調理着の上着のボタンを自分で外し始めた。
え?今、ここで?いやいや、だってここ、ちびっこも見てるから!タベタリーナ落ち着くんだ!という俺の脳内エンジェルの声とは別に、頑張れタベタリーナ!もっといけー!もっとやれー!という脳内デビルの声も聞こえてきた。
「それでは、私はこれから城のシェフ達にレシピを伝えるため朝まで特訓しようと思います。どうぞ、これを」
そう言って、タベタリーナは自分の調理着の内ポケットからスケジュール表とやることリストが書かれたプリントを取り出し俺に渡した。
「特訓?」
「ヨシオ様には調理人サポート係の指導をお願いしたかったのです。スープベースやトマトケチャップの下ごしらえを徹夜でさせて、朝までには準備を終えたかったんです!厚かましいお願いだと思って躊躇していたけど、快諾して頂けて良かったです!お互い朝まで頑張りましょう!」
「え、二人っきりでじゃなかったの?」
「人数ですか?20人いますよ!」
「20人!!!」
「サポート係の皆、素材持ってこちらに来て!」
タベタリーナは厨房にある魔動電話を使ってどこかへ連絡した。しばらくして厨房の奥の方から元気で厳ついむさくるしい男が20人集まってきた。
「ビシビシと指導してやって下さいね!」
「「「「ウォーッス!よろしくお願いいたします!」」」」
どこかの柔道部のような野太い声が厨房にこだました。
やはり料理馬鹿のタベタリーナの目には料理しか映っていなかったようだ。そして、徹夜でサポート係を指導することになったヨシオ。大量の素材を前に戸惑っていた。
「期待だけさせて全然売れなかったらどうしよう!」
◇ ◇ ◇
翌日。
「うえーい!早朝から並んだおかげで一番乗り!」
「二番乗り!寒かったです」
カップルらしき若い二人が開店と同時に城のレストランに入ってきた。
「ギリギリの一番乗りだったよ。続々と人が来て開店の頃には50人もならんでいたよな」
「いつもいつも大人気ですね。城のレストランは。お腹すいたから早く食べようよ」
「そうだな。じゃあ、俺は霜降り牛のステーキ定食」
「じゃあ、私も・・・?何かしら、このヨシオのオムライス(New本日より)って?気になる。ヨシオよヨシオ!誰のことかしら?でも名前を付けるくらいだからよっぽど自信がある、つまり美味しいに違いない!これにしようかしら」
「わざわざ長い間並んでお城で食べるのにオムライスなんて食べなくても。もっと良いメニューがあるだろ」
「でも気になるし。うーーーーーん。決めたヨシオのオムライスにするわ!」
「まあ、いいけど。すいません!霜降り牛のステーキ定食とヨシオのオムライスお願いします!」
しばらくして注文した料理が来た。
「きたきた!霜降り牛!まずは一口!うほー!美味い!一口噛んだだけで肉汁が口の中でいっぱいに!」
「美味しいでしょうね。霜降り牛だもの。さて、私もオムライス食べようっと。でももったいない気もするわ。こんなに綺麗なのに。そうそうツーチャンに写真上げなきゃ(パシャ)」
「うまうまーー!肉肉!お前も早く食えよ。冷めるぞ」
「そうね。食べようっと。あれ、玉子がゆるゆるね。オムライスなのに珍しい。赤いごはんと一緒に色々具材も入っているわ。面白い。(パク)!!!!何これ!美味すぎーーーーーー!!!!!!」
「え?オムライスだろ」
「ちょっと食べてみて!」
「大げさな(パク)!!!!何だこれ!美味すぎーーーーーー!!!!!!」
「あれ何かしら?オムライス?」「新メニュー?」「ヨシオって誰?」「グルメ勇者?」見ていた人が次々と興味を示している。
こんな感じで何気なく注文して最初に食べた人が感動し、さらにそれを見ていた人が注文して食べて感動し、という感じで次々とオムライスの注文が続いた。この頃、魔動ネットの写真サイトであるツーチャンも大変なことになっていたそうだ。
人気は留まることを知らず、昼食のオーダーストップの頃にはレストランの客全員がオムライスを注文していた。
◇ ◇ ◇
「てーへんだぁ!てーへんだぁ!」
警備兵が俺の部屋に来た。
「またお前か!隣国の暗殺者なら帰ってもらってくれ。また今度ね。今日は徹夜して眠いから」
「レストランの厨房が大変なことに!皆が倒れています!」
「な、なんだと!タベタリーナは無事なのか!」
「安否は不明です!」
「くそう!隣国の奴らに違いない!いつの間に城に侵入したんだ!すぐ行く!」
俺は警備兵と一緒にレストラン厨房へと向かった。
◇ ◇ ◇
「・・・酷い」
そこには、床に倒れた城のシェフ達と調理人サポート係がいた。皆、来ている調理服がボロボロで意識もすでに無い状態だ。
「なぜこんな事に!犯人はどこだ!」
厨房にヨシオの声が空しく響いた。