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23-32話

 アンゴーラが婚約者のネックレスを持ったまま失踪してから数カ月経った。未だに足取りはつかめていない。勇者チームが総力を挙げて捜査しているが全く情報は得られていない状況だ。


 魔王に関しても遺跡文書以上の情報は無い。だがジャー少佐による魔王軍の動きはガセネタであっても、近いうちに魔王が空から攻めてくることは確実だろう。各国は協力し合って魔王に対する監視体制と軍備の増強を行っている。


 一方で、キタノオンセン帝国ではカイザー領において、計画に無い軍事力増強の動きが見られた。キタノオンセン帝国の女帝ラブ・メグは謀反の可能性を考え監視の目を強めている。


 これらは国が密かに行っている動きだが、一般庶民においてはいつも通りの日々が続いている。近々行われるプリンセス娘による『第千二十四回 ハートフルピース王国王女選抜総選挙』もその一つだ。これは周辺国も含めてのお祭りみたいなものであり皆が楽しみにしているイベントだ。


 ヨシオはシャム姫と総選挙会場となるコロシアムに来ている。


「凄いな、この巨大さは!」


 観客席上段からコロシアムの全体を眺めるヨシオ。


「このコロシアムは遺跡なのよ。観客席もステージも全て遺跡。歴代の魔王も、なぜかここだけは破壊できなかったみたいね」


 ハートフル・ピース王国の王城近くにある巨大なコロシアムで毎年総選挙が行われる。十万人くらい収容できそうな石造りの巨大コロシアム。


 ステージ中央奥の一番高い所に石造りの豪華な椅子。細かな彫刻が彫られていて王様が座ってもおかしくない造りだ。その下に少し豪華な石造りの椅子が二席、その下は大理石でできた階段状の長いベンチシートが十段、全部で三百人くらいは座れそうな規模である。


 総選挙当日は、順位が低い方から順に呼ばれて下のベンチシートから座っていき、順位が上がるにつれ上の方に座る仕組みだ。


「あの一番高い所にある豪華な椅子がセンターの座。あそこからの景色は忘れられないわ」


 昨年および一昨年と二年連続で一位となったシャム姫は、うっとりとした目でスタジアムを見ている。きっと大歓声と色とりどりのペンライトの光を思い浮かべているのだろう。


「ここ最近、色々と大変だったけど、総選挙は問題なく出来そうだね」


「今のところは問題は無いようですが、何か起きたとしても私達の力で無事に行えるようにしましょう。これまで努力してきた後輩たちの為にも」


 燃えている! 拳を握りしめたシャム姫の目が燃えている! 正統派アイドルのシャム姫であるが、基本的にはスポ根なのである。いつものゴミムシを見るような冷たい視線しか知らないヨシオには新鮮に映った。


「今年は選挙に出られなくなってゴメン。俺と婚約さえしなければ一位は間違いなかったのに」


 ヨシオはそう言ってシャム姫の手を握った。シャム姫は少しびっくりしたようだけど、ヨシオの手を振り払うことはしなかった。


「確かに少し残念だけど、一方でほっとしている自分もいるの。センターに立つには常に努力して気持ちを奮い立たせてプレッシャーを跳ねのける必要があるのよ。一年のうちのほとんどはそんな辛く厳しい環境。この一瞬の幸せだけのために努力するの」


 再びコロシアムを見つめるシャム姫。


「そうなんだ。シャム姫でさえプレッシャーを感じるんだね」


「あたりまえでしょ。私を何だと思っているのよ。それに、あの景色を他のメンバーにも見せてあげたいという気持ちもあるの。私はもう十分堪能したもの。だから、魔王であっても総選挙の邪魔だけはさせたくない」


「ああ、俺達でここを守ろう」


 シャム姫は頷いた。


「不思議ね。不安だけど気持ちはとても落ち着いているの。私にはヨシオがいるからかな」


 そう言ってシャム姫は頬を紅くしてヨシオの手を強く握りしめた。


(え、これって久々のキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!だよね! 大丈夫だよね! ここで一気に抱きしめてもいいよね! 周りに人もいないし、いいよね!)


 シャム姫の背中に手をまわした。奇跡的に拒否されていない。イケるかも! 二人の肌がもうすぐ触れるという瞬間。


「ヨシオ様ー!」


 下の方から大きな声で誰かが呼んだ。びっくりしたシャム姫はヨシオを突き飛ばした。


「うわぁ」


 コロシアム観客席の階段を転げ落ちるヨシオ。


「ご、ごめん! びっくりして」


 急いでヨシオに駆け寄り助け起こすシャム姫。しばらくすると、声の主が駆け上がってきた。白塗りの化粧に真っ赤な口紅の女だ。


「やっぱりヨシオ様だったのねぇ! 会いたかったーわぁ! ちょうど会場の下見から帰るところで目に入ったの。もしかしたらと思ってぇ」


 そう言ってヨシオの手を取り腕を絡めた。


「ヨシオ様。十人も婚約者が居ながら早くも浮気とは・・・話し合いが必要なようですね」


 シャム姫が冷たい目でヨシオを見た。さっきの幸せ空間が一瞬で地獄になった瞬間である。


「違うから! 知らない人だから! おまえ誰だよ!」


「えー、覚えていないのぉ? そっか、久しぶりだもんねぇ。ほら、思い出させてあげるぅ」


 そう言って、女はヨシオの両手を手に取りお祈りのポーズをした。


「え、そのポーズは、もしかしてシスター?」


「あったりー! ヨシオ様のためにあんなに尽くしたのに忘れるなんてひどーい」


 その女は最近プリンセス娘の正規メンバーに昇格したアザト・イーナ(シスターペルシャ)だった。


「いやなんかそれ違うから。一日中教会内のケガ人の手当てをしたのは俺だから。献金も沢山したはずだし、尽くしたのは俺だから!」


「そうだったかしらぁ。でも、献金は全部上層部が持って行ってしまったの。しかも私クビになったし。やっぱ、ヨシオ教に改宗して献金を独り占めしようとしたのがまずかったのかしら」


 指でヨシオを可愛らしくつつくアザト・イーナ。それを横目で見ながらより不機嫌になるシャム姫。


「ちょっとあなた、その制服! プリンセス娘のメンバーでしょ!? 男に手を出すより本業に集中しなさいよ!」


 ヨシオの手を取り、アザト・イーナから引き離すシャム姫。


「ああ、あなたがお局様ねぇ。噂通りの口うるさい女だこと。もうあなたの時代は終わったのよ」


「何ですって!」


 本気で怒るシャム姫。


「初めまして、でいいかしらぁ。次のセンターはシスターペルシャこと、アザト・イーナが頂きますから。私と戦わなくて良かったですねぇ もし戦っていたら研究生上がりに一位を奪われ大恥をかくところでしたからねぇ」


 そう言って、再びヨシオの手を取り引き寄せるアザト・イーナ。


「チュッ!」


 ヨシオのほっぺにキスしてお尻を振りながらご機嫌で去って行くアザト・イーナ。半目でヨシオを見ているシャム姫。


「今のは流れ弾だから! 俺に悪い点は無いでしょ! 無罪です!」


「あの女と知り合いな時点で有罪です!」


 その後、王城に連行され婚約者会議でつるし上げられるヨシオであった。

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