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23-30話

 キタノオンセン帝国の前皇帝カイザーは、皇帝になる前から魔王に関する調査を行っていた。世界制覇を実現する上で魔王を利用しようと考えていたためだ。特に遺跡文書の翻訳がカイザーの興味の中心であり、皇帝時代においてはこれを重点政策とした。


 多くの情報を得るために、自国の遺跡だけでなく他国の遺跡にも積極的に調査部隊を送っていた。幾多の遺跡が眠るハートフル・ピース王国ダンジョン自治区では、冒険者が発見した遺跡文書のほとんどをグレー商会が買い取っていた。グレー商会が冒険者ギルドに影響力を持っていたためだ。結果、カイザー達は魔王に関して詳細な情報を手にしていた。


「まさかプリンセス娘が魔王降臨のカギとなっていたとはな。今がちょうど良いタイミングかもしれぬな」


 カイザーは部下の報告を聞きながら頷いた。最近になってやっと解明できたのは魔王が降臨する条件だ。


「工作員の状況はどうだ」


 部下が報告を続ける。


「工作員三名はプリンセス娘の研究生から正規メンバーへの昇格が内定しました。近日発表されます。これで次回の総選挙に間に合います。カイザー領の民に工作員研究生達のグッズ・握手券の購入を義務化した結果が実りました」


 今より数年前、プリンセス娘が何らかの形で魔王降臨に関与することを知った。そこで、取り急ぎ工作員を研究生という形で送り込んでいたのだ。形式的な下積み期間が終わり、正規メンバーとなることで工作員達はプリンセス娘の総選挙に出馬可能となった。


「総選挙で目指すのはトップだ。いきなりだが大丈夫だろうな」


 つまり現在のシャム姫の座を狙っている。


「心配ありません。工作員はそれぞれトップオタ十数人と個人的なつながりを持つことに成功しています。また、そのうちの数人とは同棲しておりますので、選挙の票の取りまとめ工作は万全です」


 カイザーは満足そうに頷いた。


「昔から色気に男は弱いからな。自分の資産を選挙に投資させられるとは、トップオタ達も気の毒だな。まあ、カネを使う本人が喜んでいるなら本望であろう。一方、メディア対策はどうだ」


 プリンセス娘工作員は日夜トップオタ達と遊び回っているようだが、雑誌記者にそれを嗅ぎ付けられるわけにはいかない。


「グレー商会が最大手の芸能事務所を乗っ取り、いえ、共同経営者となっています。また、各種メディア、TV局にかなりの額の広告を出しています。何かあれば事務所からの圧力、広告引き上げの脅しを行いますので、嗅ぎ付けられたとしても握り潰すのは簡単でしょう」


「世論の方はどうだ」


「世論操作するためのネットの工作も実施中です。動画再生サイトでは工作員研究生が関わる動画が常に上位に来るよう数万人のアルバイト視聴者を雇って再生工作、さらに視聴者投票などでのランキング工作を行っています。そして、このアルバイト視聴者に指示することにより、SNSや掲示板を通じてスキャンダルの火消しも行えます。ですが最悪の場合を考え、実行部隊の出動をお願いします」


 実行部隊とは暗殺部隊のことだ。


「よかろう。拠点に何人か送っておこう。幸い、次の総選挙は強敵がおらぬ状況。票の取りまとめが成功しているなら勝てるだろう」


 プリンセス娘には恋愛禁止の暗黙の掟がある。ヨシオと婚約したため前回総選挙の上位三名、神3が卒業することとなった。上位のシャム、マンチカン、ミケだ。それにベンガルーを加えた四人は総選挙には出ないのだ。混戦が予想されている。


「一方、勇者達が持っている魔王の情報はどの程度だ。重要情報は奴らに渡っておらぬだろうな」


「はい、そちらも対策は万全です。冒険者が発見した遺跡文書はギルドを通してグレー商会が高額で買い取っています。ただし市場から遺跡文書が全て無くなると怪しまれるので、ハーレムメンバーが持つジュエリーの機能、魔王の居場所などが書かれている部分を抜き取り、再び安価に市場に流しています。勇者派閥が手に入れているのは重要情報が抜き取られているものです」


 遺跡文書は意味の分からない文字(日本語か英語)で書いてあるため、通常は考古学者やマニアしか買い取ってくれない。つまり高く買い取ってくれないのが普通であるため、ギルドを通したグレー商会の高額買取りは冒険者にとって魅力的であった。


「まあ、そのうちハートフル・ピース王国のシバあたりが気づくだろうが、時間稼ぎにはなるだろう。それより重要なのは魔王降臨に関する情報だ」


「魔王降臨に関する情報は遺跡文書には全く記載されておらず、オモイザワ村にある女神の洞窟、その隠し部屋にある壁画にしかヒントはありませんでした。ご存じの通り、勇者派閥が気づく前に破壊したので我々以外は知らないはずです。また魔王がどんな姿、どのタイミングで降臨するのか分からなければ目撃しようがありませんから遺跡文書にも残しようがありません。隠し部屋の情報は奇跡的に残されたものでありますが、内容も曖昧であることから描き残した人も確信は持てていなかったのかもしれません」


 以前、ヨシオがスイーツ教の女神であるアマイちゃんを冷凍状態から目覚めさせようとした直前に、何者かによって女神の洞窟が破壊される事件があった。これによって数週間の間、洞窟に入れなくなった。だが、これは隠し部屋の壁画を破壊するのが真の目的であり、洞窟入口の派手な破壊はカイザーの手下が行ったカムフラージュであった。


「うむ、いいだろう。順調なようで何よりだ。最後の問題は降臨した魔王の扱いだ。身を隠す以外に方法は見つからぬか」


 当初は魔王を利用し世界を手に入れようと考えていたカイザーだった。しかし調査の結果、魔王は人間の手に負えるものでは無いということが判明した。魔王は必ず十日間の間、地上を焼き尽くす。身を守れるのは勇者と勇者ハーレムの持つ魔法のみ。それもごく限られた範囲しか守れない。さらに攻撃が通じるのは勇者の持つ武器だけだ。


 そこでカイザーは方針を変え、魔王を自力で降臨させることを計画した。降臨のタイミングで地下に避難する。魔王が勇者に撃退される十日間を過ごせば、生き残ることができる。その後は、ほぼ無人の地上に戻り、勢力範囲を拡大するだけだ。疲弊している勇者を倒し、勇者に成り代わりハーレムを手に入れ地上を支配する。すでに地下シェルターという名の巨大な軍事基地がカイザー領の山中の地下深くに完成している。


「残念ながら身を隠す以外の方法は見つかっておりません」


「よい。魔王を傀儡とできるならそれに越したことは無いが、それは欲張りなのかもしれぬな。シェルターでゆっくりと待たせてもらうことにしようではないか」


「はっ!」


 部下は同意し頭を下げた。直後、ドアがノックされ別の部下が入ってきた。


「お時間よろしいでしょうか」


「ちょうど終わったところだ。何か問題か?」


「いえ、プリンセス娘に送り込んだ工作員を紹介させて頂ければと思い、連れてまいりました」


「入れ」


 カイザーの許可と共に、三人の若い女性が部屋に入ってきた。全員が真っ白な化粧に真っ赤な口紅にロングヘアー。体型の分かるピタッとしたシャツにピチピチのショートパンツを履いている。


「工作員一号のアザト・イーナでーす。プリンセス娘ではシスターペルシャと名乗ってます」


「同じく二号のコザカ・シーナでーす。プリンセス娘ではスコティッシュフォールドと名乗ってます」


「同じく三号のコビル・ヨーコでーす。プリンセス娘ではアメショと名乗ってます」


 三人は三人とも胸を強調しながらお尻をぷりぷりしながら、そして全体的にくねくねしながら挨拶した。貴族の中で生きてきたカイザーの目には理解できない宇宙人のように見えた。ちなみに、コザカ・シーナとコビル・ヨーコはベンガルーの取り巻きだった二人だ。二人とも以前から不良娘。パーティーで男子を引き連れて遊んでいたところをグレー商会にスカウトされた。ベンガルーを利用して人気を獲得している。


 アザト・イーナは新興宗教の元シスター。ダンジョン自治区にあったグレー商会人材派遣会社の隣にあった教会だ。自治区の貧困問題がヨシオの政策で解消したため、教会本部は役割が終わったとしてこの教会を閉鎖した。そこで目を付けたのがグレー商会だ。教会の役割は無くなったがシスターに感謝している人は多い。票は集まると考えスカウトした。


「お、お主たちの活躍は聞いておるぞ。急な事ではあったが、正規メンバーに昇格することも内定し、このままいけばトップも狙える逸材だと。総選挙は期待しておるぞ」


 目が点になりながらも、彼女達をなんとか励ましたカイザーであった。


「任せてー イーナはTV局のディレクターと特別な友達なの。総選挙当日の得票操作もしてくれるよ。おこずかいも沢山くれるのー」


「シーナだって大手広告代理店の取締役と友達なのよ。おかげでCMに沢山出られたしグッズの売れ行きも好調! マンションだって買ってもらったのー それはオタ達とのパーティーに使っているけどね」


「それならヨーコだって大手芸能事務所の社長と友達だよ。コネで発売してもらった写真集がランキング一位になったの! 金持ちなおっさん俳優を沢山紹介してもらったから遊ぶお金にも困らないのー」


 ぶっちゃけすぎだろ。


「そ、そうか。頑張っているようで何よりだ。その調子で頑張れ」


「「「はーい」」」


 三人はご機嫌な様子で部屋を出て行った。


「元シスターと商会のお嬢様の二人か。見る影も無いな。あんな下品なのが人気なのか?」


 カイザーはため息をつきながら部下に言った。


「それはもう大人気でございます。最近はぶっちゃけセクシーキャラ、つまり色々な欲望を隠さず言うエロいアイドルが売れるのです。そこで、その方面に定評のあるプロデューサーに依頼してキャラを作って育成してもらいました」


「いつもあんな感じなのか? 大丈夫か週刊誌的に」


「さすがにあそこまでぶっちゃけてはいませんが、あんな感じです。聞く方もネタと分かっていて面白がっているみたいです。本当はネタじゃないんですけどね。若い人たちの感性なので私には理解できませんが、今のところ順調です」


 カイザーは呆れながらも納得した。

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