23-27話
「アンゴーラを追え!」
ジャー少佐はゴーレム達に指示を出した。しかし、ゴーレム達は指示に従わない。それどころか、次々と機能を停止し動かなくなった。
「いったい、どういうことだ!?」
戸惑うジャー少佐。
「形勢逆転だな」
ジャー少佐の前に俺と婚約者達が詰め寄った。
「くそう、アンゴーラめ。あと少しだったのに。お前達にもう用は無い。さらばだ!」
ジャー少佐が水上バイクの方に走り出した。しかし、水上バイクの前にはジェーンが立ちはだかっていた。
「色々と聞きたいことがあるのだが」
ジェーンがが拳をちらつかせた。
「ま、まて! 言うから!」
ジャー少佐は諦め、うなだれた。ジェーンが詰問した。
「誰が黒幕だ?」
「ほう、俺の後ろに黒幕がいると?」
「当然だ。お前が黒幕にしてはやることが大きすぎる。お前には無理だ。ここのダンジョンを把握しているようだが、それだけをとってもお前には無理な大仕事だ」
最下層にあるダンジョンコアを管理下に置くと、ダンジョン全ての機能を思い通りに動かすことができるという記録が残されている。通称、ダンジョンの管理人。ゴーレムの制御などもそれに含まれる。ただし、管理人になるには最下層に居る最強の守護者を倒さなければならないとされている。
一方で、その守護者はこれまでの歴史上、倒されたという記録は残っていない。それくらいの強さを持っているのだ。ジャーはおろか、ヨシオの婚約者達が束になっても勝てるかどうか分からないほどの強さと考えられている。
「ははっ、そこまで見抜かれているなら隠しても仕方ない。実のところ、俺も話を持ち掛けられたにすぎない。全てがお膳立てされた上で俺は言われた通りに行動しただけだ。最後を除いて」
「最後? どういう事だ」
ジェーンが怪訝な顔で詰め寄った。
「当初の計画では君達のネックレスを全て奪い、それを引き渡すことでこのダンジョンの管理人となる権利を手に入れる約束だった。だがネックレスが揃った時に惜しくなったのだ。なにせ、テハニー&GO! のコンプリートコレクションだぞ! 手に入るどころか二度と目にする事が出来ない、そのくらい価値のあるものが目の前にあるのだ。幸いダンジョンの管理機能の幾つかはすでに俺に移譲されていた。だから、その隙を狙って管理人の権利とテハニー&GO! のコンプリートコレクション、両方を手に入れることを試みたのだ」
「なるほど、お前は欲をかいて両方失ったということだな。しかし、ここには私達しかいなかったはずだ。お前の黒幕が監視していたにしては行動が早かったようだが」
ジェーンの話を聞いて、ジャーが不敵に笑った。
「そりゃそうさ、黒幕本人がさっきまで、ここにいたからな」
「まさか!」
ジェーンが顔色を変えた。
「ああ、君の想像通り黒幕はオモイザワ村の村長でヨシオの婚約者アンゴーラ! 君たちの仲間だよ」
「「「「「「「「「 えええ!!!! 」」」」」」」」」
「君達は、仲間にまんまと一杯食わされたのだよ。私も滑稽だが、君達はもっと滑稽だ」
まさかのアンゴーラの裏切りに皆は動揺した。
しかし、思い当たる節はあった。ダンジョンに入って、なぜアンゴーラだけゴーレムに捕まったか、なぜ最下層に捕まっていたヨシオを助け出せたのか、全ネックレスを持って逃げたのになぜゴーレムが追わず機能停止したのか。これらの事実から、アンゴーラは最上位の管理権限を持っていることが推測された。
「とにかく地上へ戻ろう! アンゴーラから理由を聞き出そう」
ヨシオ達はジャー少佐を砂浜に残し、地上へ向かうエレベーターへと向かった。
「もはやコンプリートに拘っている場合では無いようだな。一つだけでも手に入れなければ。さもなくば、生き残ることさえ出来ない」
そう言ってジャー少佐は立ち上がり、何処かへと姿を消した。
◇ ◇ ◇
「あった! ここで間違いない」
地上へのエレベーター入口は思いのほか近くにあり、目立たないよう隠されていた。ジャー少佐はこの階層で人質を解放するつもりだったようで、婚約者達にはこの場所が教えられていた。
ヨシオはエレベータの「上」ボタンを押した。
「動かない・・・」
エレベーターは電源が切れたような状態で、ボタンを押しても何の反応も無かった。
◇ ◇ ◇
「予定より早いようじゃの。それにそのゴーレム、あなたがダンジョンの管理人とは気づかなんだわ」
地上に出たアンゴーラの前に立ち塞がったのは王城の魔術師シバ。ドラゴン型飛行機を降り、ダンジョン入口である中央ギルドで待機していた。そこでアンゴーラと出会ったのだ。
「どういうことかしら? ペンちゃんとは偶然仲良しになっただけですよ」
アンゴーラは笑顔で答えた。
「誤魔化しても無駄じゃ。このダンジョンにいるゴーレムは体のどこかに必ずコアが露出している箇所がある。それは外部からの信号を受け取り、他のゴーレムと情報を共有して迅速に行動するために必要なのものじゃ。CPU兼アンテナ、いわば脳そのもので外部情報を直接送受するためのものじゃ」
「へー、おじいちゃん物知りなのね」
不思議そうに微笑むアンゴーラ。
「しかし、お嬢ちゃんと一緒にいるそのゴーレムはチップが露出していない。それは、つまりその必要がないからじゃ。それ以上に不思議なのは、そのゴーレムがダンジョンの外に出ていることじゃ。通常は出られないのじゃがのう。しかし、そんな事が出来るゴーレムがこのダンジョン内には一体だけ存在する。それが最下層の守護者でありダンジョンコアじゃ」
アンゴーラはにやっと笑った。
「あら、そうなんですか? でも守護者を倒さないと管理人になれないとお聞きしましたわ。最下層の守護者って強いはずですよね。私一人ではとても太刀打ちできないと思いませんか」
「その通りじゃ。そもそも歴史上この世界の誰かが守護者を倒したという記録は無い。しかし、管理人になったという記録はあるのじゃ。不思議じゃのう」
アンゴーラの表情から笑顔が消えた。
「だから何なんですか。私、急いでいるんですけど」
「ほっほっほ、心配せんでも良いぞ。わしには守護者を倒す力はないからのう。少し話をしたくて引き留めているだけじゃ。なにせ、守護者を倒せる人間はこの世にはおらんじゃろうからの」
「何が聞きたいのかしら」
「お嬢ちゃんは異世界人じゃな」
「!!!」
「やはりそうか。つまり守護者は倒すべき対象ではない。異世界人の持つ何かがキーとなって守護者が管理人と認定する。つまり守護者は錠か。勉強になったわい。ありがとうお嬢ちゃん」
アンゴーラはそれを無表情で聞いていた。
「お役に立てて何よりです」
守護者ゴーレムに乗ったでっぷりとしたアンゴーラはそのまま中央の街中に消えていった。シバはいつまでも、その後姿を見つめていた。