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23-26話

 コードネーム”ロッソR”、本名アカネ。ハートフル・ピース王国の国王と王妃の実の娘。彼女が俺の婚約者となったことで、婚約者は合計十人となった。


「アカネのために転送されてきた婚約者のネックレスだ。残念なことに人質と引き換えにジャー少佐に渡さなければならない。せめて確認してくれ」


 そう言って、転送されてきたエメラルドグリーンの革袋をアカネに渡した。王と王妃も興味深そうに見ている。


「分かっています。早く渡して人質となっている皆様を解放してもらいましょう。せっかくなので中を確認しますね。おおお! これがテハニー&GO! 不思議な色の宝石、謎金属に施された謎模様、でも綺麗!」


 中から出てきたのは玉虫色のダイヤが付いたネックレス。アカネがうっとりした目で宝石を眺めている。


「うむ、さすがテハニー&GO!だ。見事な輝き」


「そして芸術的で斬新なデザインですわ。一目見て異世界のものと分かります」


 王と王妃も感心している。これで虹の七色に加え白黒合わせて十色の宝石が揃った。


「さあ、一刻も早く皆のところに行くが良い。そのために飛行機を準備してある。シバを呼べ!」


 すぐに魔術師シバが部屋に入ってきた。


「すぐに飛び立てるよう準備はできておりますぞ。行きましょう、勇者ヨシオ殿、アカネ殿」


 飛行機というのは銀色のドラゴンの形をした魔道具。シャム姫がナガグツ半島に乗り付けてきたのを見て以来だ。俺達は城内を移動し地下で待機している飛行機に乗り込んだ。この飛行機は巨大すぎて動かすには莫大な魔力が必要となる。今のところ、操縦できるのはシバだけだ。


「行きますぞ!」


 全員が着座しシートベルトを締めた。その直後、城の庭の一部が開きドラゴン型の飛行機はキラキラと輝きながら垂直に上昇し始めた。地上に姿を現した飛行機は空に向かって猛然と飛び出して行った。大空を舞う銀色のドラゴンを王と王妃はいつまでも見つめていた。



 ◇ ◇ ◇



「うげー酔いそう!」


「酔ってますー! 止めて! 窓開けて!」


「飛行機は急に停まれぬ。窓など開かぬ! あと三分で着くから我慢するのじゃぁ!」


 速度優先で飛ぶ飛行機は乗り心地が最悪。城から数十分でダンジョン自治区に到達したが、ヨシオとアカネにとっては無限に続く地獄のようにも思えたことだろう。


 ドラゴン型飛行機は中央ギルド近くの砂漠の中に不時着するかのように荒々しく着陸した。


「無事に到着しましたぞ。済まぬが、このまま休ませてもらいますぞ。速度を出しすぎたようじゃ。わしとしたことが魔力が尽きかけたわい」


 そう言ってシバは運転席から手を振った。


「ありがとうシバ。早速、行ってくる。アカネ、行くぞ!」


「うえっぷ、ぎもじわるいですぅ あと外ではロッソRと呼んで下さいぃひぃ」


「分かったから! 行くぞロッソR」


「ひぎゃー」


 ふらふらな足取りのロッソRの手を引きながら飛行機を降りた。中央ギルドはこの砂漠のすぐ先だ。ロッソRを引きずるようにして運び、何とか中央ギルドに着いた。


 いつもは冒険者達で賑わうこのギルドだが、現在は誰もいないようだ。ジャー少佐が手をまわしたのだろう。フラフラのロッソRを休ませるため受付の奥にある食堂に入ると、待ち構えていたかのようにペンギン型ゴーレムが二体現れた。


「お? 案内してくれるのか?」


 ゴーレムが頷いた。どうやら言葉が通じるようだ。二体のゴーレムは俺とロッソRに近づき”ひょい”と俺達を抱え上げた。


「「え?」」


 そして食堂を出てダンジョン入口に向かって高速で走り始めた。もしかして、このまま担がれて地下六階まで行くのだろうか。あの直通エレベータは一方通行なのか!


「やめてー! 飛行機から降りてやっと持ち直したところなのに、また運ばれて、うえっぷ! このままでは乙女の尊厳がぁーー」


 ロッソRの声もむなしく俺達はゴーレムに抱えられたままダンジョン地下一階のゲートを通過し草原エリアに入った。


「そうだ! ネックレスの宝石に触れてキャッチフレーズを唱えろ! 体が強化されるから酔いが治まるはずだ!」


「わがりまじたぁ・・・ ”みんなのハートフルピースをとっちゃうぞ! ハートフル・ピース王国出身のロッソRことアカネですぅ!”」


 ネックレスが輝き、ロッソRの体は光に包まれた。光が治まるとロッソRは真珠色の衣装に身を包んだ魔女っ娘となっていた。


「ふぇぇぇぇ、勝手にお着替えが終わって、髪も金髪縦ロールに、あ、でも酔って無いかも! 大丈夫です!」


「そうか、良かった。俺は気分が悪いままだけど頑張る・・・」 


 だが、あまりの乗り心地の悪さに、すぐに気を失うヨシオであった。



 ◇ ◇ ◇



 気が付いたら砂浜に寝ていた。シャム姫が俺を覗き込んでいる。


「ここは?」


「ダンジョンの中、リゾートエリアって感じのところね」


「ロッソRは?」


「ここのコテージで皆と話をしているわ。元気よ。無事、婚約者になってもらえたようね」


 すぐ横に別荘のようなおしゃれなコテージがあった。人質となっている婚約者達の要望により、温暖なこのリゾートエリアが待機場所となったようだ。側にいる小型ペンギン型ゴーレムは、ヨシオが目覚めたことを確認して海に飛び込んだ。


 しばらくすると派手な水しぶきを上げながら赤い水上バイクが近づいてきた。ジャー少佐だ。その後ろにはペンギン型ゴーレムを数十体従えている。婚約者達がコテージから出てきた。


 ジャー少佐が水上バイクから降りて俺の前まで歩いてきた。俺と婚約者達の周囲をペンギン型ゴーレムが囲んだ。婚約者達は俺のすぐ後ろで様子を見守っている。


「どうやら宝石がそろったようだな。渡してもらおうか」


「わかった」


 すでに変身を解除しているロッソRが俺に婚約者のネックレスの入った革袋を手渡した。それを手に取りジャー少佐に渡した。


「ほー! 最後の宝石は見たことも無い輝きだ! 素晴らしい。これで十個、コンプリートだ」


 ジャー少佐は満足し、そのネックレスを再び革袋にもどした。そして水上バイクに戻り載せていたアタッシュケースに革袋を入れた。アタッシュケースの中には他の九個のネックレスも入っているようだ。


「約束通り人質を解放してくれ」


「いいだろう」


 ジャー少佐はそう言ってゴーレムに合図をした。すると、ゴーレムが近づいてきて俺を抱え上げゴーレムの輪の外に運び出した。アンゴーラも運び出され俺の横に降ろされた。しかし、他の九人の婚約者は依然としてゴーレムの輪の中だ。


「どういう事だジャー少佐!」


 輪の中にいるジェーンがジャー少佐に文句を言った。


「そんなに怖い顔をしないでくれ。私の元婚約者だろ。君達の事を思ってのことなんだ。よく考えてくれ。宝石は全てこちらにあるということは生き残るのは私達なのだよ。このまま勇者ヨシオの下に居ると君達の命は無くなるだろう。それはあまりにも惜しい。そこでだ、君達九人を私のパーティーに入れてあげようというわけさ。もちろん先輩のパーティーピープルがいるから君達は新人扱いだけどね。魔王を倒した後、私と一緒に世界を再生しようじゃないか」


「「「余計なお世話です」」」


「「「遊び人はちょっと」」」


「「「遺産が入ってこなくなるから迷惑です!」」」


 婚約者達の考えは一致していないが全員が猛反対した。


「ちょっと! 私だけ仲間外れってどういうこと!」


 最近太って相撲取りのようになっているアンゴーラが怒りの声を上げた。


「私のパーティーに不細工はいらないんだ。アンゴーラ、約束通り勇者ヨシオを君に託そう。あははははは」


「話が違うわ、こうなったら」


 ジャー少佐が高笑いをしている時に、一匹のペンギン型ゴーレムがジャー少佐の水上バイクに近づきアタッシュケースを口にくわえた。


「ま、まて! それにはテハニーが!」


「ペンちゃん! こっち!」


 アタッシュケースをくわえたゴーレムの背中にアンゴーラが飛び乗った。一瞬、ゴーレムから「グヘッ」という声が聞こえゴーレムの足が砂にめりこんだ。


「ヨシオ様! 地上で待っているわ」


 彼女はそう言い残してゴーレムの背中に乗ったまま一目散に砂浜を走り去っていった。

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[一言] 魔力が尽きかたわい →魔力が尽きかけたわい でしょうか?
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