23-25話
魔道具サキュバスの水着を偶然身に着けてしまい、記憶を封じられサキュバスのクララとなったテツニン・タベタリーナはジャー少佐の経営する海の家でスキル”魅了”を使って働き売り上げを飛躍的に伸ばした。その手腕を買われ、マネージャーに昇格したタベタリーナはジャー少佐の考案した魔王軍にも参加し、ヨシオとその婚約者達の敵となった。
ダンジョンにてヨシオの手によりサキュバスの水着を脱がされたテツニン・タベタリーナは正気にもどることができた。だが人前で全裸にされたタベタリーナの怒りは治まらない。その後の話し合いにより、ヨシオの婚約者ハーレムに加わること、さらにヨシオの持つ異世界の調味料や料理法を提供することで和解が成立したのであった。
タベタリーナの為に転送されてきた婚約者のネックレス(ホワイトダイヤ)をジャー少佐に渡し、ヨシオは一人ダンジョンを出て自転車に乗り込んだ。最後の婚約者を決めなければならない。今のところロッソRが候補だが、ダメなら他を当たるしかない状況だ。あては無いが。
「それにしてもダンジョン入口の裏手に各階に行くことができる直通エレベータがあったなんて。このダンジョン自体が巨大地下街みたいだな。おかげで地上まで数分だったけど」
ゴーレムにより案内された関係者専用エレベータにより一人地上に送られたヨシオ。婚約者達は人質としてジャー少佐に捕まったままだ。十個目の婚約者のネックレスを渡すことが解放される条件だ。そのためにはロッソRとその両親を上手く口説いて婚約者になってもらわなくてはならない。敷居は高い。
「ロッソRはヒツジキング三世王とスワン王妃の娘。つまり本当の姫様だ。簡単には婚約を承諾してもらえないだろうな。俺は勇者とはいえ、すでに九人も婚約者がいるし」
ヨシオが自転車で走っているのはヨシオの部下達が苦労して造ったダンジョン自治区中央と始まりの街をつなぐ砂漠の中の道。植林が成功し、現在はちょっとした林の中をサイクリングするような感じである。ほどなくして、ヨシオは始まりの街にある自分の館に到着した。
「どうされましたかヨシオ様。婚約者の皆さまもいらっしゃらないようですが」
俺の姿を見て館から出てきたのはセバスチャン。管理人兼バトル執事だ。俺はセバスチャンに事情を説明し、すぐに自分の魔動車で王城へと向かった。
最近は道路事情が良くなったおかげで、半日で王城へ到着した。セバスチャンからの連絡がすでに届いていたようで、城に入ると直ぐに部屋へと案内された。
「ヨシオです」
中に入ると、すでに王と王妃が待っていた。
「大変だったな。まずはお茶でも飲みながら現状をきかせてくれ」
メイドに紅茶を入れてもらい一息ついた。その後、ヒツジキング三世王とスワン王妃にジャー少佐の企み、婚約者達が捕まっていること、婚約者のネックレスの件などを説明した。
「つまり今回の件は魔王の名を借りたジャー少佐の罠だったわけだな。魔王がまだ復活していないという点は良いが、ネックレスが無ければ本物の魔王と戦う上で大変不利だな」
「ですが、婚約者を人質に取られている状況では打つ手はありませんわ。彼女達を助けることが先決だと思いますわ。それで、婚約者のあてはあるのかしら?」
スワン王妃が真剣な目で俺を見た。
「その事なのですが、元男爵家でプリンス娘のメンバーであるベンガルーが新たに婚約者となりました。また、行方不明だったタベタリーナ料理長を偶然にも見つけ出し、彼女にも婚約者となってもらうことができました」
「なんと! タベタリーナ料理長が発見されたのか!」
「彼女は無事でしたのね!?」
ヒツジキング三世王とスワン王妃にタベタリーナが行方不明になった経緯を説明した。二人は無事を喜んだ。
「なるほど、サキュバスの水着か。確かに魔道具の中には姿を変えることができるものや、精神を操るものがある。本来はこのような危険な魔道具は世に出回らないよう国が買い取っているのだが、今回は魔道具とは思われずに一般に流通したのだろう」
さすがに見かけも性格も変わったタベタリーナは王国の諜報員でも発見できないようだ。
「タベタリーナの無事が確認でき、さらに婚約者として加わったことは本当に良い事ですわ。そうなると残す婚約者の席は一つですのね。ヨシオは誰を狙っているのかしら。帝国とのつながりが弱い事を考えると女帝ラブ・メグかラブ・スジークかしら。それともスイーツ教を本格的に取り込むために女神のアマイ様を選ぶのかしら。お勧めはしないけどユルフワ・ガリペラ嬢という手もありますわ」
確かにそういう人選もあるだろう。しかし俺はもう決めているのだ。
「私としては最後の婚約者としてロッソRに加わってほしいと思っています」
ヒツジキング三世王とスワン王妃はお互いの顔を見合わせた。戸惑っているようだ。そんなに想定外な人選だろうか。いや、九人も婚約者がいるくせに何言っているんだ的な感じかもしれない。
「なぜロッソRなのだ? あの子に権力は無いぞ」
「ロッソRが私達の血のつながった娘であると知ったうえでの要望かしら? ヨシオを召喚しシャムが婚約者であるこの国はすでにヨシオの味方ですのよ。娘の婚約に関係なくこの国の方針に変わりはありませんわ」
温和な打ち合わせの雰囲気が急に厳しい感じに! やはり実の娘の事となると簡単には話は進まないのか。単に可愛らしいから、いやそれもちょっとあるけど、俺にとって必要な人材だからだ。他の人ではダメだと俺のカンが言っている。良く分からないけど。何としても説得せねば。
「以前、ロッソRと一緒に偽装恋人として潜入調査の任務に就いたとき気づいたのです。かなりおっちょこちょいですが、いつも明るくて真面目な彼女といるだけで俺が幸せになれる。つまり俺の能力が高まると。俺が勇者として覚醒するために彼女が必要なのです!」
え、覚醒なんて設定あったの? ていう声がメイドの方から聞こえてきた気がする。気にせずにここは畳みかけよう。
「ロッソRの素晴らしい所も多々あります。本人は完璧なつもりでも実はバレバレな尾行で、そんなドジっ娘なのに先輩方から生暖かい目で見守られている所。いちごシュークリームを食べ過ぎて太ってしまい、反省しながらも三食甘いスイーツを食べつつ延々と自分の好きなケーキについて語る所。空飛ぶ黒い昆虫型魔獣ゴキを見て丸めた紙で必死に戦おうとしながらもテンパってしまい私の頭を攻撃しつづける所。他にも、妄想で恋愛を想像して悶えている・・・」
「お願いだからもうやめてぇ! それ以上私の恥をさらさないでぇ!」
赤い顔をしたロッソRが俺の説明を遮った。
「さっき紅茶を入れてくれたメイドってロッソRだったの? もしかして全部話を聞いてた?」
ロッソRは頷いた。ヒツジキング三世がわけを説明した。
「紅い少女隊Rのメンバーであるコードネーム”ロッソR”、本名はアカネだ。婚約者が誰もいないのならばアカネを推薦しようと思っていたのだ。任務として。だからメイドのふりをして話を聞かせたのだ」
「一方で、私達は親の立場としてアカネを選んでほしいという思いはありましたのよ。私達が死んでも娘には生き残ってほしいから。しかしそれは親としてのエゴですの。ヨシオは魔王と戦い勝つために婚約者を集めている。それに対し、権力のある立場の者が個人的な思いで口を出してはならないのです。最終的にはヨシオが選ぶのが正しいメンバーなのです」
どうやら王と王妃という立場上、娘を婚約者に推薦することができなかったようだ。しかし本心としては婚約者にしたかったということか。
「勇者として、この世界を守るためにロッソR、いやアカネが必要なのです。私自身の選択であり王と王妃に気を使って選んだわけではありません! ぜひ娘さんを私の婚約者に!」
そういってアカネに向かって手を差し出した。王と王妃がアカネの方を見た。あくまで当人たちで決めろという事なのか。
「よろしくお願いします」
アカネが俺の前に来て手を取った。少し嬉しそうにはにかみながら。