6-1話
料理対決の翌日
ここは城のレストランの厨房。目の前で美人料理長のテツニン・タベタリーナがスープベースを作っている。今日は薄ピンク色の調理服だ。金髪に気の強そうな目つき。シャム姫とはまた違った大人の魅力がある。
さらに料理対決で素人に負けてもへこたれない根性、必死に何でも取り入れようとする向上心も素晴らしい。年上の気の強い妻もいいかも(妄想)、などと思いながら調理の様子を眺めていた。
「スープベースの作り方はわかりました。基本的には旨味素材の選び方と煮込む時間に注意するのですね。素材の旨味が混ざってしまうと特徴が分からなくなるので、まずは野菜ベース、海藻ベース、肉ベース、魚ベース、キノコベースと分けて作って特徴と使い方を研究してみます」
「いいですね。そうやって料理に合わせて美味しくなる組み合わせを見つけて使用するのが良いかと思います。野菜海藻キノコ系と肉魚系からひとつづつ選んでブレンドした後、味付けするのが基本ですね」
「なるほど。肉と野菜、異なる方向性の旨味をブレンドするのですね。やってみます」
「問題はトマトケチャップですね。これは熟成も必要だし簡単には作れないものです」
スープベースを作るのは簡単だが、美味しいトマトケチャップは簡単には作れない。そして、俺が最も気に入っている『カモメ プレミアムケチャップ(瓶入り)』は料理対決で使ってしまったのでもう無い。
どうして俺は、あの時もう2、3個転送したいと思わなかったのか!
できればここで取り出して料理長にプレゼントし、個人的なポイントを稼いでおきたいところだ。そうすれば
「これを使いたまえ」
「こ、これは『カモメ プレミアムケチャップ(瓶入り)』の未開封新品!このような貴重なものを私になんて」
「この世界では、これが最後の一つだ。最後に使うのが君ならケチャップも本望だろう」
「そ、そんな!でも嬉しいです!」
「さあ、すぐにこのケチャップを使ってオムライスを作るのだ!いや、オムライスだけではない!ケチャップは全ての料理の味に深みをもたらすのだ!さあ、使え!そして世界にケチャップを広め人々に幸せをもたらすのだ!そしてケチャップ教の元、俺と一緒に幸せになろう!」
「素敵!ヨシオ様!」
「ヨシオ様、聞いてますか?」
「あ、あれ?な、何かな?」
「トマトピューレに味付けした似たような料理はこの国にもあるのですけど、できれば調味料として使うためのオリジナルレシピを開発したいです。協力して頂けませんか?」
料理長タベタリーナが潤んだ目で俺を見ている。
「うむ、俺には不可能はありませんから。普通の人であれば簡単には作れませんが、俺がここにあるフレッシュトマトで作ってみましょう」
「本当ですか!」
「非常に困難なチャレンジですが、必死に頑張っている料理長、いやタベタリーナさんのためならどんな困難なことであっても俺は立ち向かいます!」
「ありがとうございます!私、絶対にヨシオ様のオムライスを国中に広めてみせます!」
タベタリーナがやる気になっている!ケチャップ教設立は近いぞ!
「俺も嬉しいです。では早速作ってみましょう。塩、コショウ、ナツメグ、唐辛子、酢、砂糖、生姜は準備してあるようですね。トマトケチャップに適したトマトかどうかは分かりませんが、早速始めましょう」
俺はフレッシュトマトと玉ねぎを手早く刻んで炒め、その後野菜のスープベース、さらに肉のスープベースを投入して一緒に煮込んだ。丁寧に灰汁取りをしながら最後に各種素材と調味料で味を調えた。トマトケチャップの完成だ。
思いのほか早く出来てしまった。自分でもびっくりしてる。困難なチャレンジはどこ行った。
「即席なのに・・・・美味しい!美味しいです!」
「うん!まずまずだ。もう少し甘みとコクが欲しいけど熟成もしてないしフレッシュトマトを使った割には美味しい」
「それでは早速、明日からこのレシピでオムライスを提供してみようと思います」
まずは即席トマトケチャップを使ったオムライスで客の反応を見ることになった。
「とはいえ所詮はオムライスだし、何人かが喜んでくれて話題になればいいよ」
「いえ!明日はきっと美味しすぎて大変なことになると思います」
「え?そうかな。まあ、売れるならそれに越したことはないけど」
できれば人気メニューになって、俺の給料を多少なりとも増やしてくれると嬉しいな。ただ、それはまだ先の話だろう。
「あ、あのう。お願いがあるのですが」
タベタリーナが恥ずかしそうにモジモジしている。
「何でしょうか?他ならぬタベタリーナさんの願いです。命に代えても叶える覚悟です!何なりと言って下さい」
「この後、お暇ですか?もし良かったら一緒に・・・」
燃えている!恥ずかしそうにしているのにタベタリーナの目が愛の炎で燃えているのが俺にはわかる!キター!今度こそキタだろコレ!