5-5話
「飯を食いに来たらなんやら面白いことをやっているではないか!試食させてもらうぞ!」
ヒツジキング三世は相変わらずのタンクトップ半パン姿だ。
「魔術師のシバです。料理長タベタリーナに対し、どこまで対抗できるのか?勇者ヨシオのお手並み拝見ですね」
王の右腕のシバまで!
「王妃のスワンです。料理長、ご苦労様。勇者殿、お久しぶり」
どこかで会ったっけ?まさか!シャム姫のマネージャーか!王妃だったとは!知らずに一緒にシュークリーム食べたよ。
『まずは料理長テツニン・タベタリーナのオムライスから試食です。非常に美しい仕上がりです。私もツーチャンに写真をアップしたいくらいです。あ、今撮っていいですか(カシャ!カシャ!カシャ!)』
シャム姫は決めポーズでオムライスと一緒に自撮りしてる。何やっても可愛い!写真を撮り終わったら審査員は皆、食べ始めた。
「普通に美味い。なにより芸術的な仕上がりだ」
「うむ、酸味を良く生かしている。スタンダードなオムライスじゃのう」
「さっぱりした味ね。香りも良いわ。そして色どりが綺麗だわ。崩すのがもったいないくらい」
『さすがです。続いて挑戦者である勇者ツツゴウ・ヨシオのオムライスです。見た限り写真はアップしない方が良さそうですが一応、オムライスだけ撮っておきましょう(カシャ!)味はどうなのでしょうか?本当に食べるのでしょうかアレを』
一応ってなんだ、しかも余計なこと言うから食べにくそうじゃないか!審査員が皆、チラチラと衛生兵を見ながら躊躇しているよ!食べても死なないから!大丈夫だから!ほら、衛生兵もちっちゃくOK出してるよ!
意を決して皆食べ始めた!
「「「!!!美味い!!!」」」
「確かに見かけは悪い。しかし、中のライスは噛めば噛むほど味が出てくる。そして玉ねぎの甘みとさっぱりした鶏肉がこのライスを引き立てている!」
「中のライスだけではないのじゃ!この玉子も適度に柔らかくてそして旨味があるのじゃ。この柔らかいふわふわ半熟玉子がライスをまろやかに包み込んで美味さを引き立てているのじゃな」
「秘密はきっとこのトマトのソースね。ライス部分のトマトソースは甘みがあり、上にかけてあるトマトソースは酸味が強いわね!玉子にも何か混ぜてあるようね」
『それでは判定です。勝者はどちらでしょうか?』
「「「勇者ツツゴウ・ヨシオ!」」」
「そ、そんなはずは!何かの間違いです王様!だってこんなにも玉子がボロボロ!ライスだって散らばっているし!」
「確かにそなたの作った料理は美しい。そしてこの国のレベルで言えば美味いのだろう。しかし、勇者ヨシオの作った料理は全くの別物だ。食べてみるが良い」
料理長のテツニン・タベタリーナはスプーンを手に取り一口食べた。
「!!!」
「どうだ?」
「私の作ったものと比べられるものではないです!全く別の料理です!なぜ?なぜこんなに味に違いが!教えてください勇者ヨシオ様!」
「その違いは酸味、塩味、甘味、苦味に次ぐ第五の味である旨味です。私の故郷は美味しさ、つまり旨味を発見した人物がいた国なのです。その旨味を多く含んでいる食品を旨味素材といいます」
「最初に煮込んでいたのは旨味のため!その旨味素材を煮込んだのがスープベースでありケチャップなのですね」
おれは黙ってうなずき、コップに少しスープベースを入れて料理長に渡した。料理長はそれを一口飲んだ。
「これ自体が特別美味いわけではないのですね。ほのかに野菜の甘みを感じるだけです。しかしこれが他の素材と合わさることでさらに旨味を引き出し、極上の味わいとなるのですね!なるほど!素晴らしい!素晴らしいです!このことを私に知らせるために、あえて料理対決をして下さったのですね。さすが勇者の称号に相応しい方です!感謝いたします!」
いや、そこは勇者とは関係ないのだが。しかし、美人の話には合わせておこう。
「戦い以外の部分でも皆さんの力になれればと思っておりました。今回のことも当然のことをしたまでです。俺は何かと便利で都合が良い男なので、困ったことがあればお呼びください」
「それでしたらぜひ、後ほど二人で・・・」
金髪美女の料理長テツニン・タベタリーナの目がキラキラ輝いている!やっとキタ!キタのかーーー!!!
「調理方法を詳細に教えてもらえますか?詳しく!詳しく教えて下さい!ケチャップの作り方、その他の旨味素材なども教えて下さい!オムライスを改良したいと思うのです」
そうでしょうね。そんな予感がヒシヒシとしていました。
シャム姫がジト目で俺を見ている。王妃がニコニコしている。シバがニヤニヤしている。ヒツジキング三世は豪快に笑いながら言った。
「それいいな!勇者ヨシオの調理方法を取り入れた料理長タベタリーナのオムライス!美味くて美しいものができそうだ!名物料理になるぞ!すまんが勇者ヨシオ!俺からも頼むぞ!そのかわり売り上げに応じてヨシオの給料にも上乗せしておくからな」
意図せず給料アップの可能性を得た勇者ヨシオであった。