23-13話
ダークエルフのジェーン、シャム姫、聖女メンクイーン、女子小学生マンチカンのヨシオ婚約者四人はダンジョン地下三階につながる扉をくぐった。暖かな空気が四人を包み込んだ。
「いいぞ、気に入った。戦いが終わった後、ここに別荘を建てるのも悪く無いな」
地下三階は南国の海と砂浜が延々と続くエリアだった。海洋国家であるダークエルフ国育ちのジェーンはご機嫌であった。何より真っ赤なビキニアーマーもここでは違和感がない。地下二階が雪のエリアだったので、この階の環境の良さに他の三人もほっとしているようだ。晴れやかな顔で砂浜を歩いている。
「ほんと、休暇で来れたなら、どんなに良かった事でしょうか」
アイドルになってからほとんど休みなく働き続けていたシャム姫は、穏やかな波が打ち寄せる白い砂浜を歩きながらそう言った。
「早くヨシオを助け出してここに別荘を作ってもらおうよー ここでみんなでパーティーするときっと楽しいよー」
JSマンチカンはウキウキしながらバカンスの皮算用をしている。
「でも邪教徒であるパーティーピープルは立ち入り禁止でお願いしますわ。あの寄生虫達、見つけ次第わたくしが、いえスイーツ教が全力を挙げて潰すことにします」
聖女メンクイーンによりパーティーピープルは邪教徒と認定された。地下二階のボスであるキッコロにかなりムカついているようだ。
一行が砂浜を歩いていると、やがて木造の小さな建物群が遠くに見えてきた。リゾートホテルのコテージのようだ。
「怪しいな」
ジェーンがそうつぶやくと同時に、コテージの扉が次々と開いて中から金色のペンギン型ゴーレムが出てきた。シャム姫は魔動携帯を取り出し素早く検索を始めた。
「えっとですね、あった! あれはペン金4415型ゴーレムです! ペン銀型ゴーレムに似ていますが、中は全く異なります。ペン銀が下位シリーズの最上位機種であるのに対し、ペン金は上位シリーズの最下位機種です! 2コアですが4コアのペン銀と同程度の性能のようです。詳細な性能は良く分かりませんが、泳ぎが得意のようです」
シャム姫がゴーレムの特徴を皆に伝えた。
コテージから出てきてヨチヨチと水辺へ向かって歩いていたペン金4415型ゴーレム達は、海に飛び込むなり高速で泳ぎ始め、こちらへと向かってきた。
「皆、構えろ!」
ペン金4415型ゴーレム達は、ロケットのように海から飛び出し、その勢いのままシャム姫達に襲い掛かった。
「とあぁ!」
ジェーンのパンチが一体のゴーレムにヒットした。ゴーレムは粉々壊れ部品があたりに飛び散った。
「当ててしまえば何てことはない」
ジェーンは海から飛び出すゴーレムを黙々と破壊し始めた。一方、シャム姫達は防戦一方だった。
「速すぎます!」
次々と飛び出してくるゴーレム達は相当動きが速く、視界にとらえるだけでも簡単ではない。戦いに慣れていないシャム姫の攻撃は全然当たらない。
「髪が! 服が! もー、いい加減にして下さるかしら!」
怒るメンクイーン。ゴーレムと共に飛んでくる水しぶきや砂のせいで髪も服もびちゃびちゃのザラザラである。攻撃されていることよりも、汚されたことに怒っているメンクイーンであった。
「ちょっと、怖いんですけどー」
マンチカンとほぼ同じくらいの大きさのゴーレムが高速で飛んでくるのだ。ネックレスで守られているとはいえ、その恐怖は計り知れない。小学生のマンチカンはかわすだけで精いっぱいのようだ。あまりの恐怖にゴーレムが飛んでこれないあたりに逃げようと、水際を離れ陸方向へと走って移動した。
「あれ?」
「ク、クエ・・・!?」
そこに居たのは先程海から砲弾のように飛び出してきたゴーレム達。ヨチヨチと歩きながら海へ戻ろうとしているペン金4415型達だ。そう、このゴーレム達は泳ぐのは得意だが歩くのは不得意ですごく遅い。ニヤっと笑ったマンチカンは容赦なくペン金4415型ゴーレムの腹に蹴りを入れ、腹にある二つのコアを破壊した。ゴーレムは停止した。
「みんなー! このゴーレム歩くの遅いから水際を離れて戦ったら倒すの簡単だよー」
「はっ、その手がありましたわ!」
「早く言って下さい!」
「むしろ水際に近い方が楽しめるぞ!」
膝まで海に浸かりながら楽しそうにゴーレムを破壊しているジェーンを残し、シャム姫とメンクイーンは水際を離れてヨチヨチ歩きのゴーレム達を破壊し始めた。
やがて動いているゴーレムは居なくなった。シャム姫達の圧勝である。その後コテージの中をを一つ一つ調べ、ボス部屋に繋がる階段を発見した。ほどなくして四人はボス部屋の扉にたどり着いたのだった。
「次は骨のある相手だといいがな」
ジェーンはワクワクしながら地下三階のボス部屋の扉を開けた。
そこは地下一階や二階のボス部屋と同じ白い壁の体育館のような部屋だった。部屋の中央に三人の女性がいた。
「遅いわ! いつまで私を待たすの!」
その女はいきなり文句を言った。派手衣装とギャルメイクをした三十歳くらいの女性と、その後ろに地味な十代後半くらいの女性が二人。かすかに見覚えがある三人である。
「ま、いいわ。ここに来れたことに免じて許してあげましょう。まずは自己紹介ですわ。ご存じとは思いますが、私は国民的アイドル、そしてプリンセス娘の真のセンター! ベンガルーですわ。後ろにいるのは研究生のスコティッシュフォールドとアメショですわ。ここであなた方には消えてもらいますわ。これで次期センターはわたくしのものですの。オホホホホ」
後ろの二人は青い顔をして震えている。それに対し、ベンガルーは悪役令嬢のように腰に手を当てて高笑いをしている。
前プリンセス娘センターのジェーン、現センターのシャム姫、序列三位のマンチカンという誰もが知る有名メンバーに対し、ベンガルーという名にほとんどの人は聞き覚えが無い。
聖女メンクイーンは怪訝な顔をした。
「あのおばさん、本当にプリンセス娘なの? なんだか邪悪な魂を感じますわ」
ベンガルーは最高序列が五十位、現在は圏外。そしてアラサー。ヨシオの財産目当てに近づいている女でもある。シャム姫が口を開いた。
「あの方はプリンセス娘の問題児。真面目に練習もせずに夜な夜な遊び回っていて写真週刊誌界隈で有名な方です。これまでもプロデューサーの怒りに触れ、地方のユニットに飛ばされたり、あるいは反省してボウズになったりしたけど、ほとぼりが冷めるとまた同じ。働き方改革とかのせいでクビにもできず皆困っているのです。生粋のパーティーピープルよ」
「パーティーピープルだと!?」
聖女メンクイーンの目がギラついた。