23-12話
「ヨシオ様! ヨシオ様!」
俺が監禁されてる部屋の鉄格子前にアンゴーラがいた。なぜか緑色でフリフリの魔法少女の服を着ている。
「大丈夫だったかアンゴーラ! 攫われたと聞いていたが・・・無事でよかった」
アンゴーラは俺の七人いる婚約者の中の一人。オモイザワ村の村長で、ニシノリゾート共和国建国王の子孫でもある。体格は少しぽっちゃりで、婚約者の中で最も地味な存在だ。残念ながら顔も決して可愛らしいとか美人とかでもなく微妙な感じでアイドルには向いているとは言えない。
「ぴいちゃん(ペン銀N5000型ゴーレム)に騙されて捕まり、この近くに連れてこられたのです。だけど、隙を見て逃げ出してきました。ヨシオ様がダンジョン最下部に閉じ込められているという話を聞いていたので、もしかして会えるかもと思って周辺を探索してきました」
「そうだったのか。ありがとう。それにしても、その服は? まさかプリンセス娘の新しい衣装? っていうかプリンセス娘のメンバーだったっけ?」
「私はプリンセス娘のメンバーではありせん。村長のままです。この衣装は婚約者のネックレスの機能の一部です。呪文を唱えて宝石にタッチすることにより魔法少女に変身することができるのです。変身すると、私の場合は特に腕力が強くなります」
アンゴーラは鉄格子に手をかけた。金属がきしむ音が聞こえ、鉄格子が歪んだ。やがて一人が通れるくらいの隙間が開いた。俺はその隙間を通って部屋の外に出た。
「ありがとう! 一面ピンク色の部屋に閉じ込められてウンザリしていたんだ。助かったよ。他の皆はどうしている?」
「ラグドールはミケを迎えにダンジョン入口へ向かいました。残りの四人はダンジョンを攻略しながらこちらへ向かっているはずです。さあ、ヨシオ様、こっちが出口の方向です」
アンゴーラに連れられ迷路のような廊下を注意深く歩いて行く。廊下は普通の建物のような形状で天井に明かりもついている。少なくともダンジョンには見えない。しばらく歩くと扉が見えてきた。
「あれが外へと通じる扉です」
そう言って、アンゴーラが扉を開けた。
「おおお!」
目を疑った。扉の外の景色は見慣れた景色だった。それは転移前に住んでいた地球の日本によく似た街並み。
広い車道、歩道橋、ガードレール、信号機、横断歩道、街路樹、何もかも懐かしい。ただ大きな違いがあった。車も走っていなければ人も歩いていない。あるのは街並みだけ。
「ここは本当にダンジョンの最下層、地下七階なのか?」
「そうだと思います。ぺんちゃんに攫われて移動したので正確な階層は分かりませんが、ダンジョンのかなり下の層なのは間違いないです。さあ、こちらです。確かあのあたりに上の階に繋がる場所があるはずです」
アンゴーラはゴーレムが通ってきた道を逆にたどって地上へ向かうつもりだ。うまくいけば、途中でシャム姫達と合流できるだろう。俺達が目指しているのはひときわ高い百階以上ありそうな高層ビル。よく見ると上の方がダンジョンの天井にめり込んでいる。なるほど、確かに上の階へと繋がっていそうだ。
俺とアンゴーラは警戒しながら高層ビルへと向かった。しばらくすると、目指すビルの入口が見えてきた。相変わらず周囲には誰もいない。
「まさかビルの中は階段じゃないだろうな」
「ヨシオ様、ビルの中にはエレベーターがありましたから大丈夫です」
高層ビルの一階の自動扉を開け、中に入った。一階は広いロビーだ。まるで高級ホテルのような内装。正面奥にエレベーターらしきもの見えた。周囲を確認しながらエレベータ入口にたどり着いた。
「うまくいったな。よし、この階を脱出だ!」
俺はおもむろにエレベーターの”上”ボタンを押した。同時に、エレベーターの動作音が聞こえてきた。
「ヨシオ様! まずいです!」
俺達が入ってきたビル入口から一匹のペンギン? が入ってきた。
「あれが、私を攫ったペンちゃん、ゴーレムです! きっと私を探しに来たのです!」
俺を探しているのではなく、アンゴーラを探していたようだ。そのゴーレムは俺達を見つけると素早くこちらに近づいてきた。俺の攻撃能力はゼロだ。ヤバい! ここは素直にアンゴーラの怪力に頼ろう。
「アンゴーラ、あのゴーレムを倒せるか?」
「だめ! ペンちゃんを倒すなんてできない!」
アンゴーラは首を横に振った。ゴーレムはアンゴーラの前で停止し瞳を潤ませた。
「ペンちゃん」
「クアァ」
しばらく二人は見つめあっていた。こいつゴーレムだよな? そんな事を思いながら様子を見ていた。ゴーレムとは言え、もしかしたら悪い奴ではないのかもしれない。いや、むしろ俺がここに閉じ込められているのを知っていて、アンゴーラを連れて来たのかもしれない。そうすると、こいつは良い奴? そんな事を考えながらやりとりを眺めていた。
すると突如ゴーレムが俺の方に体当たりしてきた。
「ぐはぁっ!」
かなりの勢いでエレベーター付近の壁に激突した。
「ヨシオ様!」
床に倒れこんだ俺を見てアンゴーラが叫んだ。
「大丈夫だ」
婚約者のネックレスと同様に、俺もバーコードリーダー+マイクロマシンという防御機能を持っている。怪我さえも治せるが衝撃を全て吸収できるわけではない。
ペンギン型ゴーレムは俺にのしかかりポケットをまさぐった。何。ヒカリモノ集めるカラスのように、ペンギンゴーレムも収集癖があるのか? ゴーレムは俺のポケットから何かを取り出し「ケケケ」と鳴きながら逃げて行った。
「ちょっと待て! それは重要な物なんだ! 返せドロボー!」
盗まれたのはポケットに入れてあった腕時計型の玩具。以前、キタノオンセン帝国の女帝ラブ・メグから渡されたものだ。大切な物だから常に装着しておけと言われていたが、単なる玩具みたいだし、カッコ悪いし、とりあえずポケットに入れておいたのだ。
「ピンポーン」
エレベーターの扉が開いた。
「ヨシオ様は上の階に逃げて下さい! そのうちシャム姫様達に会えるはずです!」
「いや、アンゴーラを残して逃げることはできない。一緒に上の階に行こう」
「ダメです! お宝を盗んだペンちゃんを放置するわけにはいきません。私が取り返してきます! あの子も言えば分かってくれるはずです。私には魔女服があるから大丈夫ですから。お宝を取り返したらすぐにヨシオ様を追いかけますから」
アンゴーラは寂しそうな顔でそう言い、俺をエレベーターの中に押し込み閉じるボタンを押した。
「アンゴーラー!」
俺の叫びも空しく、エレベーターの扉は閉まり上昇を始めた。