23-8話
シャム姫達六人はダンジョンに入り、クリーンで明るい一本の廊下を奥へと進んだ。しばらくすると目の前に無機質な白い扉が道を塞いでいるのが見えた。脇道が存在する可能性を考え扉の手前付近を皆で調査したが何も見つからなかった。
「行き止まりのようです。扉を開けて進むしか方法は無いようですね」
シャム姫の考えにジェーンが答えた。
「そのようだな。あの扉をくぐると敵がいるかもしれない。私が先陣を切ろう」
そう言って、ジェーンがシャム姫の前に出た。扉には小さなスイッチらしきものが付いていた。開閉スイッチのようだ。
「ミケからの情報によると地下一階は草原フロアらしいわ。昆虫型ゴーレムがいるはずです。気を付けてジェーン。ラグドール、ジェーンの援護をお願い」
「了解」
ジェーンとラグドールは扉の前に進み、開閉スイッチを押した。扉が開いた。そこは白い壁。二人は躊躇なく扉をくぐった。その瞬間、二人の姿は白い壁に溶け込むように消えた。
「ほほう!」
「なるほどねー 皆大丈夫だからおいでよー」
二人の声は聞こえるけど姿は見えない。残されたシャム姫、JSマンチカン、聖女メンクイーン、村長アンゴーラは恐る恐る扉をくぐった。
「「「「ええええーーーー!!!??」」」」
そこには青々とした草原が広がっていた。そして空には太陽がさんさんと輝いていた。とても地中にあるとは思えない光景だ。ラグドールが説明した。
「ダンジョンは異空間に存在すると言われているんだよー だから太陽があってもおかしくないんだよー」
「ミケからの情報で知ってはいたけど・・・実際は凄いのね」
この階のボスであるハイエーナを捕まえたことで情報を得ていたシャム姫達であったが実際に見ても全く納得できないのであった。しかし考えても無駄と気づき、無理やり受け入れることにしたようだ。
「地下一階のボス部屋は中央の山にあるらしいわ」
「多分あれだな」
ジェーンが指さす草原の向こうに小さな山が見えた。一行はジェーンを先頭に山に向かって歩き始めた。そよ風が清々しく太陽の日差しも心地よい。ピクニック気分で一行は散歩を楽しんだ。何事もなく順調だったが、そのうち”キシキシ”という音が聞こえてきた。
「ねえ、ジェーン、何の音かしら。だんだん大きくなってくるわ。それに草原の所々に穴が開いていて気持ち悪いわ」
聖女メンクイーンが周囲を見渡しながらジェーンに問いかけた。
「そろそろ敵が来る頃だろうな。皆、警戒しろ!」
ジェーンは嬉しそうに指をならした。ほどなくして草原に開いた穴の中から子猫サイズの蟻のようなゴーレムが数十匹這い出してきた。シャム姫がスマホを見ながらゴーレムのタイプを確認した。
「あれはアントム8350型よ。省エネ型アトムシリーズなので動きは遅いのですが、数が多いので皆で手分けして破壊しましょう! 狙うのはコアです。落ち着いてコアを破壊してください! それから・・・」
「どりゃー!」
「ひゃっはー!」
待ちきれなくなったジェーンとラグドールがゴーレムに攻撃を仕掛けた。もちろん拳での攻撃だ。彼女達のパンチをくらったゴーレムはコアもろとも粉々になり動作を停止した。最も後ろを歩いていたJSマンチカンの背後にいつの間にかアントム8350型ゴーレムが迫っていた。
「あの額に輝いている銀色のチップがコアだよね。思ったより動きが遅くて体も小さいな。あれなら私でも倒せそうです。うりゃー」
マンチカンはゴーレムの額にあるコアを蹴って破壊した。ゴーレムは停止した。
「やったー!」
しかし、ゴーレムはすぐに再起動し、顎でマンチカンの足首をつかんだ。
「ええ! どうして! コアを破壊したのに止まらないよー!」
ゴーレムの額のコアは確かに破壊されていた。戸惑っているマンチカンに向けてシャム姫が叫んだ。
「アントム8350型は四コアです! 背中にある残り三つのコアも破壊しないと止まらないの!」
アントム8350型ゴーレムには額に輝くコアのほかに、背中に小さな銀色のコアを三つ背負っていた。
「ひー!」
マンチカンはゴーレムに足を引っ張られ尻もちをついた。先頭付近にいたラグドールが素早く移動し、蹴りでゴーレムを破壊した。ゴーレムは停止しマンチカンの足を放した。
「マンチカン大丈夫だよー ヨシオからもらったネックレスがあるからケガもしないし死ぬことも無いよー さあ立ち上がって、今度は落ち着いてやっつけちゃおう!」
「そ、そうでした。私って焦っちゃって。もう一度やってみます!」
マンチカンは立ち上がり、近くいたゴーレムの額のコアを破壊した。ゴーレムは一時停止した。その隙に背中の三つのコアも順次踏みつぶした。ゴーレムは完全に停止した。
「私にもできました!」
「ナイスファイト! マンチカン! 小学生のマンチカンが見本を見せてくれたわ! 皆も見習って戦いましょう!」
小学生だけに任せておけぬとばかり、皆でゴーレムを破壊していった。最前線では七割方ジェーンとラグドールがせん滅し、残りのゴーレムをシャム姫、聖女メンクイーン、村長アンゴーラで破壊している。
「「「これいい運動になりますわ!」」」
やがて三人は踊るようにゴーレムを破壊し始めた。
「ゲームみたいで楽しい!」
JSマンチカンは後ろ側に一つだけある巣穴に張り付き、ゴーレムが出た瞬間を狙って棒で叩き、いかに早く倒すかを楽しんでいるようだ。
無限に湧き出すように思えたアントム8350型ゴーレムだが、しばらくすると巣に戻っていった。
「つまらぬ。全く歯ごたえが無いではないか!」
「ほんと、がっかりねー 地下二階に期待しましょう」
ジェーンとラグドールの戦闘狂エルフコンビは物足りないようだった。しかし、それ以外の初めてダンジョンに潜り戦った四人にとっては丁度良い経験になったようだ。一行は目指す山に向かって再び歩き始めた。
「シャム姫、山に着いたらすぐに地下二階を攻略するのか?」
ジェーンが歩きながら計画を尋ねてきた。
「ボス部屋の入口を発見したら休憩がてら、しばらく待機となります。ミケがダンジョンに到着するのを待って、合流してから地下二階に挑みます。ミケはラグドールに迎えに行ってもらいます」
「それがいいだろう。素人にとっては、ここのゴーレムは弱いとはいえ数が多く面倒だからな。ミケはラグドールに運ばせるのが良いだろう」
この世界のエルフは肉体派。以前、この二人はヨシオをお姫様だっこしながら飛ぶように走った実績がある。
アントム8350型の襲撃の後は何事もなく、一行はしばらくして小高い山の麓に着いた。山の麓には幾つか大きな岩がころがっているが、基本的には草原地帯で何もない。そして山の頂上に入口らしき建物が見えた。
「山には登らず、麓で休憩しましょう」
「じゃあ、ミケを迎えに行ってくるねー」
ラグドールは飛ぶように走りながら元の道を戻っていった。
「皆、この岩付近に集まってくれ。初心者のうちは無理せず休むのも仕事だからな。まずは喉が渇いただろう。水を飲め。私は周囲を警戒する」
ジェーンはそう言って背負っていたリュックから巨大な樽を取り出し皆の前に置いた。その後岩の上に登った。
「どうしてこんな大きな樽があのバックから出てくるのかしら。どう考えても入りそうにないのに」
「マジックバッグというのを聞いたことがあります」
「いえ、あのバッグから樽が出てくるとき、バッグの中に巨大な舌が見えましたわ」
「ミミック、まさかミミックなの?」
シャム姫、村長アンゴーラ、聖女メンクイーン、JSマンチカンはお互い顔を見合わせ、やがて黙って樽の水を飲み始めるのだった。