23-7話
ミケを除くヨシオの婚約者六人は魔獣車で砂漠を横断している。ヨシオを救助するためダンジョン自治区中央ギルドに向かっているのだ。前回の婚約者会議の後、各国各組織と調整を行いヨシオの婚約者達はダンジョンに挑むこととなった。
婚約者のネックレスを使った変身は当初はプリンセス娘と元プリンセス娘だけが成功させた。その後振付師に専用のキャッチフレーズと振り付けを作ってもらうことで全員が変身できるようになった。変身後の彼女達の攻撃力は各個人で異なり不明な点が多かった。
しかし防御力は完璧であり、変身の有無にかかわらず試験的に行った攻撃で彼女達が傷つくことは無かった。これは伝承通りである。それもあって、彼女達が単独でダンジョンに挑むことが各組織から許可された。
「ミケから情報が届いたわ」
シャム姫が魔動スマホを見ながら言った。ミケは現在、王城でハイエーナ達の尋問に立ち会っている。
「有益な情報かしら。私洞窟とかダンジョンとか嫌いなの。早急に攻略して、さっさとヨシオを救出して家でくつろぎたいのよね」
聖女メンクイーンが不機嫌そうにつぶやいた。シャム姫は頷きながら言った。
「有益な情報がいくつか得られたようです。まず、これから行くダンジョンは別名”電脳ダンジョン”と呼ばれているようです」
「”電脳ダンジョン”それ名前からして古代遺跡がらみだよねー もしかしてゴーレム系のダンジョンなのかなー」
古代遺跡とは今から数千年前に滅びた文明の事だ。その文明は今よりも発達した科学技術力で多くの魔道具を生産していた。残念エルフとはいえさすが長寿エルフSランク冒険者、知識は豊富である。
「その通りよ。かつて魔動コンピュータや魔動家電などを生産していた工場があそこの近くにあったらしく、そこがダンジョン化したようね。長い年月をかけて徐々に成長していき、今は七階層まであるらしいわ。そして最上階が中央ギルドの地下につながっているみたいなの。これはジャー少佐の言った話と一致しているわ」
「はーい! ゴーレムを倒すにはどうしたらいいのですか」
小学生のマンチカンが元気に手を挙げて質問した。シャム姫が回答した。
「各階層は侵入者を撃退するためのゴーレムがパトロールしている。ゴーレムには必ずコアと呼ばれる部分があります。それを破壊すればどんなゴーレムでも停止します。ゴーレムの種類は多岐にわたりハイエーナ達も全ては知らないようです。今のところアトム型、ペン型、新世代の愛型、別系統進化した雷伝型などがあり、現地で写真を送ってくれれば具体的な情報を提供できると言っています」
「階層のボスはいると考えるべきか?」
ダークエルフのジェーンが質問した。シャム姫は頷いた。
「下の階に通じる階段の前には必ずボス部屋があり、魔王七天王の誰かが守っているとハイエーナ達は証言しているわ。ジャー少佐もボスが各階層を守っていると言っていたからこれは信憑性が高いでしょう。ただボスの力は未知数。手の内を隠したいので、ボス部屋まではできるだけ変身せずに戦いましょう。変身しなくても防御力だけは完璧なので心配は不要よ」
「ジャー少佐は、ハイエーナが地下一階のボスって言っていたから、地下一階では戦わなくていいいのでしょうか」
村長アンゴーラが質問した。シャム姫は頷いた。
「魔王七天王の一人であるハイエーナが任されていたのは最上階である地下一階なのは間違いないわ。本人もそう言っているしそこはボスがいないと考えて良いでしょう。ただしゴーレムはボスとは関係なく稼働しているようなので戦いは不可避です」
魔獣車が速度を落とした。
「もうすぐ到着だよー」
魔獣車を運転していたラグドールが皆にそう伝えた。魔獣車はやがて中央ギルド前に停車した。建物からスッケ、カーク、ロクベエが出てきた。
「スッケさん、カークさん、うっかりロクベエさん久しぶりじゃのう」
なぜか爺さんのしゃべりになるラグドールであった。彼らはかつてアクドーイ商会の社員だったがヨシオに助けられヨシオの部下となった。始まりの街から中央への道路建設・植樹の現場監督、コンビニの運営指導、サソリの養殖指導などで活躍している。今回は一足先に現地に赴き調査をしていた。
「さっそくですがダンジョン入口へ案内しやす。ささ、こちらへどうぞ」
スッケとカークが先導して皆が後を付いていく。ダンジョン中央ギルドに入り階段を降りるとガラス二重扉が正面に見えた。ガラス扉の向こうは真っ白なライトで照らされたクリーンな廊下が続いていた。
「ここが”電脳ダンジョン”入口でございます」
「中に入ろうと試みたのですが、一つ目の扉は開くのですが、二つ目の扉がどうしても開きませんでした」
「扉を破壊しようと試みたのですが、ダメでした。傷一つつきませんでした」
ロクベエ、スッケ、カークが残念そうに説明した。
「やはりこの婚約者の宝石がないと入れないようね。まずは私が入れるかどうか確認します」
そう言ってシャム姫が扉の前に立つと一つ目の扉が開いた。シャム姫が躊躇なく進むと一つ目の扉は閉まり、風が上から吹き込んできた。しばらくすると風が止み、二つ目の扉が開いた。クリーンルームの入口のような機構だ。シャム姫は無事に電脳ダンジョンに入ることができた。
「やはり、何らかの魔道具で婚約者のネックレスを感知しているようね。いや、この扉と認知システム自体がゴーレムかもしれない。過去の文明はどこまで進化していたのかしら・・・いや、今はそんなことどうでもいいか。皆、入っていいわよ」
シャム姫の指示に従い、婚約者達は順番に入口をくぐり、全員がダンジョンに入った。ガラスの向こうで手を振る三人に手を振り返し、一行はダンジョン奥へと進んでいった。
◇ ◇ ◇
「やっと来たようだね。よしよし、こいつがリーダーのシャム姫のようだね。それ”ポチっとな”」
クララはダンジョン入口に設置されたカメラで侵入者を確認し、第二扉の開閉スイッチを押した。すると第二扉が開きシャム姫が通過した。実はハイテクゴーレムではなくレトロな仕組みの入場制限システムであった。クララは計六回同じ操作を繰り返した。その後ダンジョン奥に進む彼女達を観察していた。
「おや、おかしいね。婚約者は七名いるはずだが六人しか来ていないようだね。それにしても、こうして見てみると一名のブスを除き美人揃いだね。ヨシオという勇者、なかなかのモテ男のようだ。だが、それこそが非リア充のターゲットにはもってこいということさ。おっと、そろそろカタタターキ様に連絡せねば」
クララは幾つものモニターが並ぶ部屋を離れどこかに向かった。
◇ ◇ ◇
「はっくしょん!(誰かが私の事を噂しているのかしら!)」
まさかクララからカメラ越しにブス認定されているとは思ってもいない村長アンゴーラであった。