23-2話
「これから第一回婚約者会議を行います。勇者の召喚に関わった私シャムが進行役をさせて頂きます」
「「「「「わーわー」」」」」
「「「「「パチパチパチ」」」」」
婚約者全員と俺は、会議のため館の居間に集合している。俺達の他にこの部屋にいるのは給仕をしているセバスチャンだけだ。シャム姫が話を続けた。
「本日はお忙しい中集まって頂きありがとうございます。皆さまに集まって頂いた理由は色々とあるのですが、最も重要なのは情報の共有です。近々出現が予言されている魔王に対抗するため皆が持っている情報のすり合わせを行いたいと思います。よろしいでしょうか」
「はい! 魔王って人なんですか?」
マンチカンが小学生らしく手を挙げて質問した。
「最近の調査によると魔王は混沌と災いを示す概念であり、それが人なのか魔物なのか、あるいは自然災害なのか、わかっていない状況です。わかっているのは私達人類は魔王がもたらす大きな困難に立ち向かう必要があるということだけです。そして予言によれば、魔王にとどめを刺せるのは勇者とその身内だけです。異世界から来たヨシオに身内はいませんが、婚約者のネックレスが私達に託されたように、婚約することで身内になることが可能なようです。つまり私達の行動が人類の未来を左右する可能性があるのです」
アンゴーラも小学生マンチカンに倣って元気に手を挙げた。
「はい! 私は貴族じゃないので戦う術を持っていません。それでも参加していいのでしょうか」
この世界の貴族は幼い頃から戦う術を学ぶが、平民はそうではない。
「何も自らが戦う必要は無いのです。できることをやれば良いのです。婚約者のネックレスがあなたを選んだのはきっと意味があるはずです」
ジェーンが指をバキボキと鳴らしながら質問した。
「戦えない奴はそれでもいいが、戦える奴は戦っていいよな」
戦いが待ち遠しいようだ。
「なるべく怪我をしないように気をつけて戦って下さい」
ラグドールが質問した。
「私は拳で戦うのが得意なんだけどー 冒険者時代はエルフは弓が得意なんだろって弓係にされることが多かったです。拳で戦ってもいいですかー?」
この世界でもエルフに対する先入観は地球人と同じようだ。
「なるべく怪我をしないように気をつけて得意なもので戦って下さい」
メンクイーンが自分のネックレスの石に手を添えながら質問した。
「婚約者のネックレスのダイヤモンドの色に意味はありますか。あと婚約破棄はありですか?」
ちょっと! メンクイーンさん何を質問していますか! 俺は平静を装って続きを聞いた。
「ハートフルピース王国の遺跡で発掘された資料にはダイヤモンドの色の意味は書かれていませんでした。ただ、いずれのネックレスも加護の魔法がかけられているようです」
そう言って、シャム姫が手元にある紙を丸めてメンクイーンに投げつけると、メンクイーンに当たる直前に不自然に弾かれた。
「「「「おおお!」」」」
初めてネックレスの防御機能を見た婚約者達は驚きの声を上げた。ただし、どこまで攻撃に耐えられるのか、他に機能があるのかは分かっていない。
「婚約破棄はあり得ますが、その場合この加護の付いている超高級ブランド・テハニー&GO!のネックレスは返却してもらいます。また、今では世界有数の資産家となったヨシオですが、ヨシオから今後行われる予定の金銭的サポートは停止されます。財産分与も行われません」
金銭的サポートに財産分与! 初耳なんだけど!
「ヨシオ様、今後ともよろしくお願いいたします」
メンクイーンは手のひらを返し、淑女の挨拶をした。次にミケが手を挙げた。
「はい! 婚約者がさらに増える予定はありますか? ヨシオ様と一緒に居られる時間が短くなるのは嫌なので、できればこれ以上増やさないで欲しいのですが・・・」
ミケはそう言って不安そうに俺の方を見つめた。可愛い奴め。
「「「そうだそうだー! 遺産が減るからこれ以上増やすなー!」」」
マンチカン、ラグドール、メンクイーンの三大守銭奴が抗議した。俺はまだ死んでないです。
「主だった国や組織とヨシオとの結びつきを強めるため、これまでは戦略的に婚約を進めてきました。その結果、ここにいる皆さまを見てわかる通り、ヨシオを中心として勇者陣営は強大なつながりを持つことができました。つまり勇者陣営は十分な戦力を手に入れていますので、これ以上政略結婚を進める必要はありません。ただしヨシオが個人的に気に入った女性と婚約する可能性はありますが」
皆がジト目でこちらを見た。
「じゅ、十分です! これ以上増やさないでください!」
俺は、とっさにそう答えた。
「と、ヨシオは言っているのですが、これまでの経緯から言って全く信用できません。勝手に増やされないよう婚約者の皆で監視しましょう。それではこれから自己紹介を始めたいと思います。ぜひ知ってほしい情報などありましたら併せてお願いします。それでは席の順に」
そう言って、シャム姫はマンチカンを見た。
「小学六年生のマンチカンでーす。ネックレスの石はイエローダイヤ。プリンセス娘の序列三位でーす。ちょっと前までハートフルピース王国の国民だったけど、今は独立したルイジアナ国に移住しています。兄のイケメン・ブリーダーはルイジアナ国の王でーす。ちなみに兄の婚約者は三百六十五人の予定、頭おかしいよね。今後大量発生する義理の姉との関係を想像してウンザリしてまーす」
大量発生・・・黒光りしてカソコソ走り時に飛ぶあいつを思い出す。
「それで魔王のことは良く分からないけど、子供の頃から見ていた絵本には勇者と姫達 対 魔王 のようなものがありました。今もルイジアナ国の城にその本はあります。描かれている姫様の挿絵がきれいなので皆にも自慢したいですー」
それは日本語で書かれた『姫と勇者とミルクショコラ ~全姫攻略ガイドブック~』である。今のところマンチカンの周囲でその重要性に気付いている人はほとんどいない。
「可能ならば、ぜひその絵本を見せて頂きたいですね」
「次回持ってきまーす!」
「楽しみにしています。次はアンゴーラ」
「アンゴーラです。ネックレスの石はグリーンダイヤです。ニシノリゾート共和国のオモイザワ村で村長をやっています。先日、初めて建国王の末裔だと聞かされびっくりしています。私の村には女神様の洞窟があります。一般公開している洞窟の壁画とは別に、この世界の未来を描いた壁画があります。そこは世間への影響が大きすぎるため長い間非公開となっていました。しかし、もうすぐ研究者に公開する予定です。というのも、その洞窟が示している内容はハートフルピース王国の遺跡から見つかった内容と類似しているからです。ぜひ婚約者の皆には見てほしいです」
やはり未来の洞窟は存在していたようだ。
「ぜひ皆で見に行きましょう。新たな発見があるかもしれません。次はジェーンね」
「ジェーンだ。石はブルーダイヤ。ダークエルフ国の第三姫だ。元プリンセス娘のメンバーで、シャムの前のセンターだ。魔王に関する伝説や資料はダークエルフ国には無い。しかしダークエルフ国は全面的にヨシオに協力予定だ。なに、安心しろ、魔王などギッタギッタにしてやる。ヨシオのところで作っているワイン製造工場は絶対守るからな!」
工場よりも俺を守ってほしい。
「ありがとうございました。次、ラグドールどうぞ」
「ラグドールでーす。石はオレンジダイヤ。エルフ国の十番目の姫でーす。冒険者Sランクです。都会のOLに憧れてハートフルピース王国の財務局に公務員として雇ってもらったのに、なぜかダーリン付きの部下にさせられて砂漠に連れて行かれここに居ます。エルフ国には魔王の伝説はありませーん! 今は贅沢でき・・・ダーリンと一緒なので嬉しいですー」
今、贅沢できるからって言おうとしただろ! 残念エルフは健在である。