22-13話
話は現代に戻る。
ダンジョン自治区の俺の館には続々と婚約者が集合しつつあった。そこに、呼んでもいないガリペラがグレート・ユルフワ派とともに押しかけてきた。しかしガリペラの出自に疑問を持っていた俺は彼女との婚約に踏み切れなかった。迷っている間に、コンサートを終えたシャム姫とミケが館に到着した。その時、不思議なことが起きた。ミケの指輪が金色に輝き始め、それに連動するように旧グレート・ユルフワ帝国の子孫達の指輪が銀色に輝き始めたのだ。
「探しておりましたミケ様、いえ、グレート・ユルフワ・ミケ姫様」
ユルフワは笑顔でそう言った。
「いったい、これはどういうこと?」
シャム姫は金色に輝く指輪を見ながらミケに言った。
「わ、私にもわかりませーん!」
ミケは輝いている自分の指輪を見ながら首を横に振った。
「その指輪を持つものはグレート・ユルフワ帝国の帝王直系の子孫。つまり、あなたは時が時ならばグレート・ユルフワ帝国の継承者、グレート・ユルフワ・ミケ姫様となります。どうぞこちらに」
ガリペラはミケの手を引き旧グレート・ユルフワ帝国の子孫達のもとに連れて行った。おどおどしながら連れていかれたミケの前で子孫達ははひざまづいた。
「おお! 輝きが収まると木の指輪が銀の指輪になっているぞ!」
「指輪に魔力の補充がなされた!」
「あの金色の輝き! まさかこの時代に本物の帝王の指輪を見られるとは」
「伝承された金の指輪を持っている! 確かに本物の姫様だ!」
「ぽっちゃりしていて可愛らしい!」
子孫達が感動を口にしている。一部心の声が漏れている人もいる。
「私の方から説明しよう」
ドーベルが俺とシャム姫の前に出てひざまづいた。そして説明を始めた。
「我々は長い間、グレート・ユルフワ帝国の帝王直系の子孫を探していた。それは、キタノオンセン帝国内での旧グレート・ユルフワ帝国派の団結に必要なものであり、また女帝ラブ・メグ様の政権基盤をより安定させるために必要なことと考えていた。しかし肝心の帝王直系の子孫は見つからず、前帝王派の暗躍もあり、我々の派閥は徐々に力を失い始めていた。その時、ガリペラが協力を申し出てくれたのだ。彼女が仮の姫となって、旧グレート・ユルフワ帝国派を団結させると。さらに、ラブ・メグ様の仮想敵となることで敵味方をはっきりとさせキタノオンセン帝国を安定させると。そして、その間に本物の姫を探し出すと」
シャム姫はガリペラを見つめて言った。
「ガリペラさんは自ら敵役を買ってくれていたのですね。当時の帝王選挙は王子エドワードとラブ・メグ様との一騎打ちだった。能力的にはラブ・メグ様が負けることは無いけど、政治力では圧倒的に不利だったため勝負はむしろ王子の方が有利と思われていた。しかし、途中から流れが大きく変わった。ラブ・メグ様が勝ったのはあなたが居たおかげだったのね」
ガリペラは首を横に振った。
「私は確かに王子が負けるように仕向けましたわ。でも、それ以前に王子自身が自滅していたのでやることはほとんどありませんでした。私はちょっとしたきっかけを与えただけです。でもラブ・メグ様が選挙で勝った後は頑張りました。ラブ・メグ政権は不安定でした。内部にスパイや旧政権派が多くまぎれていたからです。そこで私達はキタノオンセン帝国内外で小さな反乱を幾度もけしかけました。それは反乱分子、反乱への協力者を炙り出すためのものです。旧グレート・ユルフワ帝国派や私の親衛隊である草食系男子派のおかげもあって反乱の芽はほとんど摘み取ることができました。こうして当初の計画はほぼ達成できたのですが、本物の姫だけは見つける事ができませんでした。しかし、今、最後の願いも叶えられました。皆を騙したまま姫を演じ続けるのは正直心苦しかったので、ほっとしています。これからはミケ様が姫となって皆を導くことでしょう」
ガリペラはそう言ってミケを見つめた。
「え、私が姫として? そんなこと急に言われても・・・」
ドーベルがミケに近づいて説明した。
「姫様、何も心配することはありませぬ。我々がついております。なにもラブ・メグ様に代わって帝国の政権を取ろうなんて考えているわけではありませぬ。皆で一致団結して良い国を作るために協力し合い、そして来るべき困難に立ち向かうための象徴となって頂くだけ。それに次回のプリンセス娘総選挙を考えてもファンが増えることは悪くはないことかと」
ミケの目がキラリと光った。
「そうよね! 私の推しが増えるのよね! これは確かに素晴らしいことだわ! とうとうセンターが見えてきたわ」
ミケは拳を握りしめ小さくガッツポーズをした。
「私もうかうかできなくなったわ」
シャム姫はそう言いながら笑顔でミケを見つめた。俺は話が一旦落ち着いたところを見計らってドーベル達に問いかけた。
「グレート・ユルフワ帝国派の諸君、ミケを守るために、そしてこの世界を守るために俺達と共に戦ってほしい」
「当然だ!」
「魔王など蹴散らしてくれる!」
こうしてドーベル達グレート・ユルフワ帝国派は俺達と協力して魔王と戦うこととなった。協力の得られなかったキタノオンセン帝国だったが、完ぺきではないもののミケのお陰で仲間に引き入れたも同然となった。これで対魔王の組織づくりは完成に近づいた。
グレート・ユルフワ帝国の子孫達はミケに直接挨拶をするため列を作り始めた。ミケと情報交換をしては握手をして次の人にバトンタッチという流れ作業。ドーベルが「はい一人十五秒だ」と剥がしにかかっている。握手会ですねこれ。
俺がその様子をぼーっと見ていると、いつの間にかガリペラがすぐそばに来ていた。
「また美味しいコンビニ弁当を企画しましょうね」
「え!?」
コンビニ弁当って、転生前の仕事、店長代理だった俺の仕事だ。それを知っているということはガリペラも転生者!? でもバイト仲間でないと知らない情報だ。筋肉好代さん、天井千代子さん以外の転生者って、まさか無限野ばあさん!? いやいや性格もかなり違うしロリっ子だしそれは無いだろう。じゃあ誰?
しかし俺が気づいた時には、すでにガリペラはこの館には居なかった。ガリペラは自分が乗ってきた馬車でラブ領へと向かっていた。
「任務完了したし、しばらくは自由に楽しく生きても問題無いわよね。どこに行こうか悩んだけど、まずは親友の筋肉さんのところに決めたわ。お仕事に関係なく若い殿方とお茶するのも久しぶりだし。ぐふふ。マッチョランド構想に協力するのも悪くないわよねー その後は可愛らしい女の子に囲まれた天井ちゃんのところかなー」
ご機嫌なガリペラ(無限野ばあさん)であった。