22-12話
「仲良くさせて頂いているラブ伯爵からの依頼がありましたので、今回は少し協力をさせて頂きました。しかし、キタノオンセン帝国をどんな国ににするかは帝国の皆様が決めることですわ。他国に住んでいる私達ができることはほとんどありませんの。せいぜい、留学生を受け入れるくらいでしょうか。でも、できれば今のような閉鎖的な帝国ではなく、周りの国々と協力してくれる帝国の方が私達としても嬉しいですわ」
ガリペラとチャトラは頷いた。スワンは話を続けた。
「近い未来に困難な出来事が起きることが予言されています。乗り越えられるのか、そうでないのかはこの世界に住んでいる私達の行動にかかっています。それに向けてこの世界はこれから大きく変わっていくことでしょう。国々が争っている場合ではないのです」
「困難な出来事ってなに?」
ガリペラは何の事かわからず首を傾げた。それを見てチャトラが口を開いた。
「困難な出来事、それは魔王に関することですかね」
スワンは頷いた。
「ハートフル・ピース王国では、遺跡で発掘された資料の中に、数年後に魔王が出現することが記されていました。ニシノリゾート共和国では、魔王との戦いを描いた未来の壁画が残されているとお聞ききしています。スイーツ教では、勇者の出現、勇者によるスイーツ教の女神の復活、そして魔王との戦いが経典として残されています。いずれも同じようなことを予言しており、そして調査した限りでは魔王の登場まで時間はそんなに残されていないのです。魔王と戦う前に、我々は協力して対策を立てておく必要があるのです」
「私も母から伝え聞いたことがあります。旧グレートユルフワ帝国のおとぎ話の中に、色々な国の人が魔王に騙されて祖国を裏切るが、最終的には勇者ハーレムに倒されるというものです。ありがちな勧善懲悪な作り話と思っていたのですが・・・」
チャトラはそう言ってスワンを見た。
「各国に同じような話が伝わっているのは、各国の祖先が魔王の事をなんとか子孫に伝えようと考えたからでしょう。だから私達は準備を進める必要があるのです。当然、この帝国にも頑張ってもらう必要があるのです。少なくとも魔王情報の収集には協力してほしいのですわ。もちろん魔王は登場せず準備が無駄になるかもしれません。そうなれば、こんなにうれしい事はありません」
「姫様」
いつの間にか赤い戦闘服を着た女性が、スワンの横に現れていた。
「そろそろ時間のようです。意見交換ができて大変有意義でした。私はこのままラブ領に行き伯爵と計画について情報交換し、その後、王国に帰ることにします」
そう言ってスワンは立ち上がった。目の前にあったはずのティーカップはいつの間にか無くなっていて、台所ではセバスチャンが食器の片づけをしていた。いつの間に、何が起きた!? チャトラは気になるが、気にせずスワンの話に集中した。
ガリペラは小学生のように手を挙げてスワンに言った。
「お願いです。ラブ・メグ様には私の事を伝えないでほしいの」
スワンは困ったような顔をした。
「それはどうしてかしら?」
「ラブ・メグさんと私はエドワードを取り合う恋のライバル関係になる設定です。だけどラブ・メグさんが本当のことを知ってしまうとお友達になってしまいそうなの。それではエドワードが不審に思うかもしれないの」
「確かに・・・それはまずいですわね。それではラブ嬢には伝えず、ラブ伯爵にはうまくやるよう伝えておきましょう。ガリペラちゃんありがとう、期待しているわ! チャトラもお元気で」
そう言った直後、部屋の中にはバラの花びらが舞い、しばらくしてそれが消えた頃にはチャトラとガリペラ以外は誰もいなくなった。窓から外を見ると、馬車も無くなっていた。いままでの出来事が幻のようだった。
「行っちゃったね」
「バラの花びらってどこから来てどこに行ったの!?」
初めて魔法的なものを見たガリペラは、興奮してチャトラを質問攻めにしたのだった。
◇ ◇ ◇
その後、ガリペラは旧グレート・ユルフワ帝国の帝王の子孫になりすまし、旧ユルフワ帝国派閥を拡大、そして増強することに成功する。その一大勢力と共にガリペラはエドワードに近づいた。予想通り、求めていた正当な血筋と一大勢力、そしてロリ可愛らしい婚約者を手に入れるため、エドワードはガリペラに付きまとうようになった。
一方、ガリペラはありもしない噂を流してラブ・メグを中傷し、敵を装った。そして、帝王の生誕祭のパーティーでエドワードはラブ・メグに婚約破棄をたたきつけ、同時にグレート・ユルフワ・ガリペラとの婚約を宣言した。
同時期にガリペラはアイドルとしてデビューした。ちょっと前まで何も知らない庶民だった普通の女の子が大出世! そんなシンデレラストーリーは熱狂的に庶民に受け入れられ、ガリペラ推しの庶民によるガリペラ親衛隊が結成された。やがてそれは草食系男子派という巨大組織となった。ガリペラはこれを帝国内の反逆者や魔王に関する情報収集、さらに本物の旧ユルフワ帝国の帝王の子孫を探すための情報収集に利用した。
その後、ラブ・メグは帝王選挙に立候補し、順調に味方を増やしていった。もともと馬鹿王子だったが、さらにガリペラの入れ知恵により馬鹿に拍車がかかり始め、さすがにこれは不味いと感じ始めた帝国貴族達が中立派になったためだ。
計画は順調に進み、数年後に行われた帝王選挙では旧ユルフワ帝国派が王子派を裏切るまでもなく圧倒的得票数でラブ・メグが選ばれた。帝王選挙では庶民に投票権は無いため草食系男子派は役に立たないのだ。選挙後、ガリペラはエドワードに婚約破棄をたたきつけた。だが、エドワードは婚約破棄を認めずガリペラに付きまとうところが計算外だった。今はガリペラに奴隷のように利用されているという噂だ。
一方、帝王や王子派閥は未だに一定数存在しており、公務員や貴族の中に女帝ラブ・メグの味方を装う敵や、組織の内部崩壊を画策するスパイも存在する。ラブ・メグはまだまだ絶対的な力を手に入れたわけではないのだ。ガリペラはそのままラブ・メグの敵を装いながら、傭兵を使って他国にプロレス的な戦いを挑み内部の反逆者を炙り出したり、恋のライバルを演じたりと悪役を満喫しながら帝国の安定に協力するのであった。
しかしメインの活動はアイドル。それも地下アイドル。婚約破棄をエドワードにたたきつけたことでさらに増えた草食系男子派と共に、地下アイドル活動を頑張るガリペラであった。