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召喚勇者はコンビニ店員 ~嫁にする予定のプリンセスはトップアイドル~  作者: 猫田ねむる
22章 婚約者3 キタノオンセン帝国とグレートユルフワ帝国
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22-10話

「おはようございます」


「「おはよう!」」


 夫婦喧嘩が一通り収まったところで、ガリペラは居間に現れた。


「ごめんね、この人が大きな声を出すから目が覚めたよね」


「おまえがそれを言うか!」


 昨晩、暗殺されそうになったにもかかわらず二人はいつものように会話していた。あまりにも普通過ぎる。


「あの、昨夜のことなんですけど」


 ガリペラはおずおずと話を切り出してみた。


「昨夜はごめんなさいね。まさかあなたに危害が及ぶとは思っていなくて。そのうち言おうとは思っていたけど、いい機会だから説明するね」


 チャトラの説明によると、今回の暗殺者の行動は数年先に行われる帝王選挙に関連しているらしい。現帝王の息子エドワード王子は、自分が当選するため邪魔になりそうな組織や人物を取り込んだり、あるいは逆に脅しをかけている。つまり今回の暗殺者も脅すのが目的と分かっていたから二人は落ち着いていたようだ。


 帝王選挙は実力主義であり、正攻法以外にも脅そうが買収しよう組織戦をしかけようが全てが立候補者の能力とみなされるのだ。もちろん、殺人は犯罪なのでギリギリのところを狙って脅しをかけることが多いが、たとえ事件が起きたとしてもバレなければ問題ないと考える人もいる。


「チャトラさんは牧場を経営しているだけだし、ドーベルさんはこの国の軍人ですよね。どうして脅されるのですか?」


「実は、私達二人とも旧グレート・ユルフワ帝国の子孫なの」


 現在はキタノオンセン帝国であるこの土地は、以前はグレート・ユルフワ帝国という豊かな国だった。だが軍事国家キタノオンセン帝国の拡大政策のため、周囲にあった中小の国々は滅ぼされたり併合されていった。最後まで抵抗したグレート・ユルフワ帝国も、最終的には長期戦争のせいで国力を失いキタノオンセン帝国に取り込まれた。


 周辺国を取り込み巨大化したキタノオンセン帝国だが、その後、人種の違いや価値観あるいは宗教観などの違いから度々内乱が起きるようになった。このままではこの帝国自体が内部崩壊してしまうと考えた当時の帝王は、最も強いものが次の帝王となることを定めた。そして最も強いものに皆は従うというルールを定めた。このことは全帝国民に受け入れられた。


 当時は各部族、各宗教、各人種などの代表者が実際に戦っていたが、時代とともに形を変え帝王選挙という形態になった。つまり、帝王選挙は内乱、あるいはそれ以前の独立国家間戦争が形を変えたものである。現在でも何でもありなのは、そのような成り立ちに由来がある。


 チャトラとドーベルはキタノオンセン帝国の中でも比較的大きな旧グレート・ユルフワ帝国の派閥である。彼らは中立的な立場でその時代の最も良い帝王を選ぶよう行動する。中立派である。だが、派閥の力は立候補者の力であり、また派閥の協力でお金や知識など色々なものが手に入る。そのため、立候補者は色々な方法で各種派閥を仲間に引き入れようとするし、それがダメなら手出しをしないよう脅しをかける。


 現在の旧グレート・ユルフワ帝国の派閥は、エドワード王子を選ばないことが予想されているため、帝王や王子の関係者から嫌がらせを受けているのだ。


「まったく情けないものだ」


「ほんとよねー。でも実際、奴らの嫌がらせに負けて旧グレート・ユルフワ帝国の派閥を離れていく人もいるし効果は出ているのよ。ラブ伯爵も同じように奴らの嫌がらせを受け、しかたなくラブ・メグ嬢とエドワード王子との婚約を承諾したみたいだし。ラブ領が軍事力まで押さえられているとは思わなかったけど。いくらエドワードが無能でも、このままでは彼が次の帝王で決まりだわ。最悪・・・」


「そうだな。せめてグレート・ユルフワ帝国帝王の子孫が見つかれば俺達の希望も見えてくるのだが」


 ドーベルは自分がはめている木の指輪を見た。指輪には紋章が刻んであった。


「それにラブ嬢とエドワード王子の婚約も破棄になれば、現帝王やエドワード王子達が経済的に潤うことが無くなるし、ラブ嬢も堂々と帝王戦に立候補できるのに。でも、無理よね・・・」


 チャトラとドーベルはため息をついた。


「ごめんね。関係無いガリペラまで危険に巻き込んでしまって。でも、安心して。安全にあなたが過ごせる場所を探してあげるから。他国にも知り合いがいるから頼んでみるわ」


 チャトラは申し訳なさそうにガリペラに謝った。しかし、ガリペラとしては自分だけ安全な所に逃げるつもりはなかった。転移してきた自分に良くしてくれたこの家族とは離れたくなかったのだ。それにロリっ子ガリペラ20歳(無限野ばあさん89歳)の人格は、ヨシオとは異なり新しい若い体の影響を大きく受けていた。というか、89歳の婆さんであったことは彼女の中ではすでに黒歴史となりつつあり意識的に無かったことにしようとしていた。乙女ゲームでありライトノベルの舞台でもあるこの世界、そして自分がその登場人物であることも受け入れていた。そしてわずかに覚えているライトノベルのストーリーから自分自身が行動すべき事を思い出した。


「いい方法があるの」


 ガリペラは目を輝かせながらそう言った。


「「いい方法?」」


「そう。グレート・ユルフワ帝国の帝王の子孫を探し出し、さらにエドワード王子の邪魔をすればいいのよね」


「そうね。簡単に言えばそうだけど」


「俺達もこれまで行動してきたのだが、簡単には行かぬのだ。だが諦める気は無い。この国を良くするために必要なことだからな」


「だからガリペラちゃん。その気持ちだけで嬉しいわ」


「ああ俺もその気持ちだけ受け取っておこう。だがガリペラには未来があるし、この国に縛られる必要は無いのだ。ガリペラだけでも幸せに生きてほしい」


「そんなのダメ!」


 ガリペラは叫んだ。いつもおとなしいガリペラなので、チャトラとドーベルはその叫び声を聞いて余計に辛くなった。子供のいない二人は心の中ではガリペラと離れたくないと思っていた。しかし、彼女の事を考えしかたなく別れようとしていたのだ。


「私がグレート・ユルフワ帝国帝王の子孫ユルフワ・ガリペラ姫になって味方を集め、さらにラブ・メグさんとエドワード王子との結婚をぶち壊してやるわ!」


 チャトラとドーベルは驚いてお互いの顔を見つめ合った。

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